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3-9.無自覚な境界線



審判の号令と同時に、3年生デュオが動いた。

ガストンが巨大な盾を地面に叩きつける。


「――ガイア・インパルス」

振動と共に、地中を這ってレイの足元に迫る魔力の胎動。それをいち早く捉えたのは、ルナの鋭敏な探知だった。


「レイ君、真下! 来るよ!」


ルナが鋭く叫ぶ。レイはその声が響くとともにすべてを把握し跳躍する。

「了解。助かる。」


迫り出した鋭い岩の棘は対象を失い空を裂くが、すぐさま標的を変え、ルナを追撃する。レイは術者本体を止めるべく、空中で漆黒の剣を顕現させると、着地ざまにガストンへと接近した。

「させん! ヴォルフ、やれ!」


ガストンの合図で、ヴォルフが長槍を繰り出す。槍先には高密度の魔力が収束され、一突きで防壁を貫く威力を秘めていた。


「くっ…。――雷刃らいじん


漆黒の刃から放たれた雷魔法が、ヴォルフの槍の軌道を逸らしそれを回避する。レイはガストンへの攻撃を頓挫し、体勢を崩しながらも左手をルナの方へ向け、魔力を解放する。


「バサル・シェル」

ルナを狙って放たれたガストンの追撃を、地面からせり上がった強固な岩壁が完全に遮断する。


「なっ、あの状態から防御を間に合わせるのか!?」

あっけにとられるヴォルフに一瞥もせず、レイはそのまま雷を纏う移動術レヴィン・アクセルで加速しガストンに肉薄する。

「なっ、速すぎる――!?」


ガストンは寸前で盾を構え直すが、そこにレイの炎魔法が密着状態で叩きつけられる。


「――フレア・ドライブ」

豪快な音を立てて ガストンが誇る重厚な盾が、一撃で粉砕された。ガストンは衝撃に目を見開いたまま、闘技場の外壁まで吹き飛ばされる。しかし自らへのダメージは極力抑え、なんとかリミット・シールドの破壊を防いだ。

しかし、レイは攻撃の手を休めない。その勢いのまま反転し、あっけにとられるヴォルフへ接近する。ヴォルフはとっさに槍を構えるが、レイは高速移動で一気に背後に回り込む。


「終わりだ」


放たれた雷の衝撃波がヴォルフを射抜く。そしてリミット・シールドの耐久値を超え、パリンという音が闘技場に鳴り響く。


『勝者、レイ・アルフリード & ルナ! 』


場内は一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声に包まれた。


「おい、見たかよ……3年の上位デュオを一人で完封しちまったぞ。しかも試合時間30秒も経ってねえ!」


「やっぱりレイ・アルフリードは本物だ。……それにしても…」


観客席から、心ない囁きが漏れ始める。


「あの隣のルナって子、本当に突っ立ってただけじゃないか?」


「ああ。終盤はレイ・アルフリードが彼女のための防御魔法も展開していた。あれじゃただの『お飾り』だよな。」


「やはり魔法が使えないという噂は本当なのか。あの子、ここまで天才におんぶにだっこで勝ち上がったのかよ・・・」


その風潮は、瞬く間に闘技場全体を支配していった。


ルナは勝利を手にしたが、その表情には陰りを浮かべていた。レイが自分を守るために築いた岩の壁が、今の自分にはあまりに高く、孤独なものに感じられていた。


(やっぱりレイ君にとって、私は足手まといなんじゃ……)

そんな不安を聴衆のどよめきが増長させていた。



一方、観客席の一角。 セシルは扇子を握りしめる手に青筋を立てていた。


(……黙りなさい。何も知らない癖に、勝手なことを!)


セシルは歯ぎしりをするほどの悔しさに震えていた。 地中からの不可視の攻撃。あのタイミングで回避の指示がだせるのは、ルナの探知能力が超一流である証拠。それがあるからこそ、レイは一切の迷いなく攻撃に専念できているのだ。


(ルナさんの力は、レイさんの暴力的な強さに隠れていいものではありませんわ。……お飾り? 足手まとい? ――いいえ。彼女のサポートがあるからこそ、あの怪物は無敵ですのに!)


セシルの瞳には、ルナが不当に貶められることへの激しい憤怒が宿っていた。


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