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3-5.論理の共犯



結界の収縮に追われ、森を抜けた先でルナ・レイペア、カイ・レーナペアは遭遇した。


「待って、カイ君、レーナちゃん!」


カイとレーナが反射的に武器を構えたが、あらかじめ魔力探知で遭遇を予期していたルナが必死の制止をし、手を止めた。走りながらの対話。背後からは紫色の結界壁が、命を刈り取る刃のように迫っている。


「敵が手を組んでる。……8組、16人が円陣を組んで、誰も攻撃しないように待ち構えてるの!」


「はあ!? なんだよその談合……反則じゃねえのかよ!」


カイが毒づくが、レイは冷ややかに先を見据えた。

『――残り12デュオ!』

無情なアナウンスが響く。レイの瞳に鋭い光が宿った。


「いいか、残り10組になったら俺に考えがある。……ルナ、レーナ、カイ。今からあの8組が待つ平原へ向かう。移動しながら、収縮に追い詰められて出てくる『残りのデュオ』をルナの探知とレーナの狙撃で確実に仕留めろ」


「どういうことよ? 数を減らしたら、あいつらの『8枠』が盤石になるだけじゃない!」


レーナの疑問に、レイは不敵な笑みで返した。


「……いや、逆だ。俺がその『8枠』を地獄に変えてやる。」


『――残り11デュオ!』



* *


レイは雷光を纏い、一足先に平原の中央へと躍り出た。 そこにはユリアスを中心に、16人の精鋭が完璧な円陣を組んでいた。近づく者を一斉射撃で蜂の巣にする、難攻不落の要塞。


「残念だったな、レイ・アルフリード!」


ユリアスが余裕の笑みを浮かべて告げる。


「お前はここで脱落だ。このゲームの本質は奇襲ではない。いかに早く8組の徒党を組むかだ。お前が無理に一組を倒そうと動けば、残り7組の魔法がお前を消し去るぞ。」


ユリアスはレイを『王』に例えた。しかしその姿はまるで、自分が民を束ねる『王』であると宣言しているようであった。


「それはどうかな」


レイはアムゼルを握りしめたまま、静かにその時を待った。


林の中から逃げ出そうとした一組を、ルナの誘導を受けたレーナの矢が正確に射抜いた。


『――残り10デュオ!』


その瞬間、レイの全身から凄まじい雷が噴き出した。


「――レヴィン・アクセル……飛電一閃ひでんいっせん!」

一瞬。ユリアスの包囲網の一角、端にいたペアのバッジが、視認不可能な速度で貫かれ粉砕された。


『――残り9デュオ!』


「計算を間違えたか。まだ9組残っているぞ。1組減っても我々の結束は揺るがな…」


ユリアスが反撃の号令をかけようとした、その時だった。円陣の内側、ユリアスのすぐ隣で、突如として魔法が炸裂した。あろうことか、同盟の一員であったゼノンが、無防備な隣人の背中を至近距離から魔法で撃ち抜いたのだ。


『――残り8デュオ!2次予選終了ー。2次予選終了ー。』


ユリアスの困惑をよそに、無機質なアナウンスが会場に響き渡った。


「なぜ……なぜ裏切った、ゼノン! 共に勝ち抜くと約束したはずだ!」


震える声で叫ぶユリアスに対し、レイは歩みを止めず、背中越しに冷徹な真実を突きつけた。


「残り9組になった瞬間、そいつらの敵は俺だけじゃなくなった。お前の言う8組のうち1組を倒せば他の7組に報復されるというシステムは、残り組数に余裕がある時の論理だ。残り9組となったときは『先に隣を刺せば、即座に予選が終わり、報復されずに勝ち逃げできる権利』を争うレースに変わる。

即座に隣のチームメイトを攻撃したあいつは賢明だった。お前の言う不確かな『団結』よりも、目の前の『確定した合格』を選んだ。


……お前の作ったぬるま湯の同盟は、俺が1組を消した瞬間に、椅子取りゲームの最終局面に変わったんだよ。」


最後に残る一枠を、他人に奪われる前に自分で奪う。 ユリアスが作り上げた「結束」は、あの瞬間、最も醜い「生存本能」による争いへと反転したのだ。


レイの言葉を引き継ぐように、隣を撃ち抜いた当本人――ゼノンが冷淡に言い放った。


「そういうことだ。まあ、この一年坊主の思い通りだったのは癪だが……すぐそばに合格があるのに、わざわざ危険を冒す必要もないだろう? 確実に椅子に座れるなら、隣の奴を蹴落とすのが一番手っ取り早い。……決勝で会おう、生徒会長」


ユリアスは言葉を失った。 絶対的な強者による「王の戦略」を、レイは人間の「利己心」を突くことで無残に瓦解させた。


「……行くぞ、ルナ!」


「う、うん……!」


レイは呆然と立ち尽くすユリアスを一顧だにせず、追いついたルナを連れて出口へと歩み出した。背後には、己の知略が完敗したことを悟り、屈辱に唇を噛み締めながら拳を固く握りしめるユリアスの姿だけが残されていた。

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