3-2.天才デュオの暗躍
「これより15分間を準備時間とする。各デュオ、速やかに散れ!」
教員の号令とともに、32組のデュオが広大な天球の庭へと一斉に駆け出した。これまで予選を共に戦ってきたカイとレーナも、今は背中を向けて別の方向へと走り出す。
「レイ、ルナちゃん! 手加減なしだぜ、決勝トーナメントで会おうな!」
カイが快活に手を振り、レーナも不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「……私たちに遭遇しても仲間と思わないことね。じゃあ、また後で。」
「うん、二人も頑張って……!」
ルナは少し寂しげに手を振り返したが、隣を走るレイの横顔は、既に「戦い」の冷徹な色に染まっていた。
* *
15分後。天球の庭 の外周、天を突くほど巨大な紫色の結界壁。不気味な光を放つその壁が、微かな音を立てて内側へと収縮を始める。2次予選の本格的なスタートだった。
レイとルナは、天球の庭の北東に広がる鬱蒼とした森林エリアの巨木の陰に身を潜めていた。レイは周囲を警戒しながら、静かな声で告げる。
「ルナ。このルールの本質を理解しているか?」
「えっ……ええと、生き残ることだよね?」
「いや、これは『奇襲を完遂した者が勝つ』ゲームだ。一撃でも当たれば終わりで、片方が落ちれば連帯責任。つまり、正面から正々堂々と打ち合う必要はない。敵がこちらを認識する前に、その背中から撃ち抜く……それだけで勝てる。」
レイは僅かに口角を上げ、ルナを見つめた。
「そして、広大な地形で敵の居場所を特定できるお前の『魔力探知』がある限り、俺たちが奇襲されることは万に一つもない。常に先手を打てる。……圧倒的に俺たちが有利だ。さあ、アルカナマップを展開しろ。」
「わかった」
ルナは目を閉じ、意識を周囲へと広げた。木々のざわめき、土の匂い、そのすべてを透過して、森に潜む異質な「魔力」の灯火を一つずつ捉えていく。その全て、周囲の他の学生の位置が、『アルカナマップ』に写し出された。
「……100メートル先に一組、左の崖下にもう一組いるよ」
レイはその地図を睨み、にやりと不敵に笑った。
「完璧だ。こいつらをしらみつぶしに奇襲していくぞ。まずは、一番近いその一組からだ」
二人は音もなく森を移動した。ルナは常に敵の魔力波形を監視して、こちらに向けられる意識がないかを確認する。
ターゲットのデュオは、大きな倒木の陰に潜み、前方を執拗に警戒していた。彼らにとっての不幸は、ルナが彼らのその位置を読み取り、レイをその「死角」へと完璧に誘導したことだった。
「……いた。」
ルナが指差す。レイは音もなく漆黒の剣を抜くと、魔力を刃に薄く、鋭く纏わせた。大袈裟な魔法は必要ない。必要最小限の、それでいて必中の刺突。
「終わりだ」
レイが影のように踏み込む。背後を完全に取られた二人組が振り返る暇さえなかった。 パリン、と小気味よい音が響き、敵の胸元でリミット・シールドが砕け散る。
「え……? あ、いつの間に――!?」
驚愕に目を見開く生徒二人を置き去りにし、レイは既に次の獲物を求めてマップへと視線を戻していた。
「次だ。ルナ、誘導しろ」
「……うん!」
最強の「眼」と、冷徹な「剣」。その蹂躙が、静かに、しかし確実に始まった。




