3-1.究極の問い
聖杯祭二次予選を控え、アイリス魔法学院の熱気は最高潮に達していた。その火種となっているのは、校内の至る所で噂されている「究極の問い」である。
「おい、聞いたか? 一次予選のスコア。1年の天才、レイ・アルフリードのチームが、あのユリアス会長の1年時の記録を塗り替えたらしいぞ。もしかしてユリアス会長をも超える実力を持っているんじゃないか!?」
「まさか……。ユリアス様は『白銀の獅子』と称される学生最強の魔導士だ。いくら公爵家の天才とはいえ、1年生に負けるはずが……。」
「だが、あの上級ノクシア『コア・ブレード』を焼き尽くしたっていう雷魔法は、もはや学生の域を超えてる…。この聖杯祭で、新旧最強の直接対決が見られるかもしれないぞ。」
生徒会長、ユリアス・グロリアス。3年生にして学院の頂点に君臨する男。名実ともに最強と謳われる彼と、一次予選で底知れぬ実力を見せつけた1年の超新星、レイ。どちらが真に「最強」なのか。その噂は尾ひれをつけて広がり、今や学院全体がその激突を待ち望んでいた。
そんな狂乱のなか、当の本人であるレイは、訓練場の隅でルナと二人、静かに準備を進めていた。
「レイ君、すごい噂になってるよ? 生徒会長より強いんじゃないかって。」
ルナが少し気圧されたように話しかけると、レイは興味なさげに視線を落とした。
「……下らない。他人の評価など、勝手にさせておけばいい。俺たちが目指すのは、優勝という結果ただ一つだ。誰が相手だろうと、その邪魔はさせない。」
ぶっきらぼうな物言い。だが、その声には以前のような刺々しさはない。レイは内心、激しく葛藤していた。フィンの言葉以来、ルナに優しく接しなければ、傷ついた彼女を支えなければという思いが胸を占めている。
しかし、これまで効率と冷徹さだけで生きてきた彼には、具体的に「優しくする」ということがどういうことなのか、皆目見等がつかなかったのだ。
(……支える、と言っても何をすればいい。無理な訓練をさせないことか? それとも、何か気の利いた言葉をかけるべきなのか……)
思考の迷路に迷い込んだレイの表情は、傍から見れば以前よりさらに険しくなっており、ルナは「機嫌が悪いのかな?」と首を傾げていた。
* *
そして、ついに二次予選当日がやってきた。会場は学院の演習場『天球の庭』に展開された巨大な魔力結界の内部。一次予選を勝ち残った32デュオが整列するなか、ルール説明の教員の声が響き渡る。
「これより2次予選を開始する。形式はサバイバル形式。ルールは至って単純。」
眼前に広がる演習場は、まるで大自然の断片をつなぎ合わせたような箱庭。内部には、視界を遮る深い森、激流が走る川、そして高低差の激しい荒々しい岩山など、多種多様な地形が複雑に配置されている。どこに身を潜め、どこで待ち伏せ、どの地形で迎え撃つか。個人の武力だけでなく、地形を利用した戦略が試されるフィールドだ。
各生徒の胸元には、淡い金色の光を放つ円形のバッジが装着されている。
「諸君の胸にあるのは『リミット・シールド』のバッジだ。これは装着者を魔力膜で包み、ダメージを肩代わりする。だが、その強度は決して高くはない。強力な魔法を一撃でも受ければ、バッジは即座に砕け、その時点で失格――すなわち、この戦場における『戦死』と見なされる。」
教員は冷徹な視線で生徒たちを見渡し、言葉を継いだ。
「重要な点だから強調するが、これはデュオ対抗戦だ。どちらか一方のバッジが破壊された時点で、そのデュオは脱落となる。いいか、パートナーの背中は、己の命以上に守り通せ。」
そしてさらに過酷なルールが付け加えられた。
「結界の『安全エリア』は時間経過とともに外周から収縮していく。エリア外に出ればバッジは強制破壊される。常に中心を目指し、敵を排除しろ。」
つまり、時間が経てば経つほど、学生たちは狭いエリアへと押し込められ、強制的に戦闘を強いられることになるのだ。
「32デュオのうち、生き残った8組だけが、最終日の決勝トーナメントへと進むことができる。一同の健闘を祈る。」
ルナはこれから始まる戦いを想像し、ゆっくりと固唾を呑んだ。




