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2-15.セシルの決意



「ルナっ!」


安堵から一転、レイは独断で危険に飛び込んだルナを叱責しようと、険しい表情で口を開いた。


「だから勝手に単独行動をするなと、あれほど…。一体何を考えて、」


「レイ様、ルナさんを責めないでくださいまし!」


遮ったのは、セシルだった。彼女はよろめきながらも、庇うようにルナの前に立ち塞がった。


「ルナさんが来てくれたから、わたくしたちは助かったのです。……わたくしのチームの方たちはわたくしを囮にして逃げました。ルナさんがいなければ、フィンもわたくしも、今頃は命を落としていましたわ。」


フィンも痛む体に鞭打ち、セシルに続く。


「セシルさんの言う通りです、レイさん。どうか、ルナさんを責めないで。」


二人の切実な訴えと、その間に流れる「地獄の一夜」を共にした者にしか分からない絆の空気を感じ取り、レイは言葉を失った。ルナの安全を優先しようとした自分の理屈だったが、今この場ではいかに的外れで、無神経なものであったかを痛感した。


レイは深く息を吐き、静かにルナを見つめた。


「……すまなかった。助けに行くのを止めようとして。安全を考えたつもりだったが、結果的にルナの判断が正しかったみたいだな。だが、次からこれほどの無茶をする時は、必ず俺も連れて行け。俺も……力になりたい。」


それは、レイにとって精一杯の謝罪であり、同時にルナを二度と独りで危険に晒したくないという、不器用な優しさの現れでもあった。ルナは、レイの瞳の奥にある想いを感じ取り、小さく、けれどしっかりと頷いた。


「無事で良かったなー!」

とカイが快活に笑い、

「本当よ、生きた心地がしなかったわ」

とレーナが安堵の溜息を吐く。


「……心配かけて、本当にごめんね」

ルナが心からの謝罪を伝えると、場に和やかな空気が流れた。


* *


帰路の途中、セシルは意を決したようにルナに向き直った。その瞳には、もはや憎悪の影はない。あるのは、剥き出しの感謝と強い決意だけだった。


「ルナさん、ごめんなさい……。わたくし、誰にも評価されない孤独から、あなたを攻撃することで自分を保とうとしていましたの。……もう二度と、あのような醜い真似はいたしませんわ。謝って許されることではないと分かっていますけれど、まずは……謝らせてください。」


セシルは、侯爵令嬢としての矜持を込めて、深く頭を下げた。


「それと……助けに来てくれて、本当に嬉しかったですわ。フィンの命を繋いでくれたことも、心から感謝しています。……ありがとう、ルナさん。」


その言葉を聞いて、ルナは包み込むような優しい微笑みを浮かべた。

「……わかった。嫌がらせをされたことは、もう水に流そうと――」


「ちょ、ちょっと待ってちょうだい!」


言いかけたルナを、セシルが慌てて制止した。


「あなたはどこまでお人好しなのですの!? わたくしが言うのもお門違いですけれど、この程度の謝罪で許されていいはずがありませんわ! この償いは、いつか必ずどこかで果たします。約束いたしますわ。……ですからそれまで、わたくしを許さないでいてほしいのです。」


セシルの真っ直ぐで苛烈な眼差しに、ルナは目を丸くした。


「わ、わかった……。でも、あまり思い詰めないでね? 私はもう、気にしていないから。」


ルナは少し困惑しながらも、彼女らしい返事をした。こうして二人の間に確かな約束が刻まれたのだった。



* *


前方の警戒に意識を割いていたレイの耳に、背後で交わされる二人の会話が入りこむことはなかった。


だが、不意に視界に映り込んだルナの穏やかな微笑みと、それに向き合うセシルの晴れやかな様子から

「過酷な一夜を共に過ごし、友情が芽生えたのか」

と安易に納得し、深く考えを巡らせることはなかった。


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