2-12.絶望の淵の対話
森は深い闇と霧に包まれ、洞穴の中はルナの光属性の魔力が放つ微かな輝きだけが頼りだった。ルナは額に汗を滲ませながら、細心の注意を払ってフィンの傷口に光の糸を縫い込み続けている。
その光景を、セシルは膝を抱えて震えながら見つめていた。コア・ブレードへの恐怖はまだ消えない。しかし、それ以上に、自分を突き飛ばして逃げた友人たちの冷酷さと、今目の前で必死に命を繋ごうとしているルナの献身とのあまりの対比が、セシルの心を鋭く抉っていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。ルナが、静かに口を開いた。
「……他のみんなは?」
「……あの方たちは、わたくしたちを囮にして逃げましたわ。もう仲間でも、友でもありませんわ……。」
セシルは疲弊し、いつもの覇気は見る影もなかったが、裏切られた深い悲しみがその声に滲んでいた。ルナは、逃げていく四人の魔力反応を遠くから探知していたため、予感はしていた。だが、改めて本人の口からその事実を聞くと、セシルの境遇を不憫に思わずにはいられなかった。
「ルナ……なぜ、わたくしを助けに来ましたの?」
セシルの声は細く震えていた。
「わたくしを助けたところで、あなたにとって何の得にもならないでしょう? むしろ、わたくしはあなたをずっと苦しめてきましたのに……。
馬鹿みたいですわ。わたくしなんて、助ける価値などありません。あなたを苛めて、追い詰めて……。わたくしを放っておけば、あなたは苦しみから解放されましたのに。……それとも、その平民の男に特別な感情でも抱いていますの?」
その言葉に、ルナの魔力操作がわずかに乱れた。 ルナはフィンの傷口からそっと魔力の糸を引き抜き、セシルの方を向いた。その瞳は怒りではなく、深い慈しみを湛えていた。
「セシルさんを助けるのに、損とか得なんて考えなかったよ。ただ、誰かが危険な状態なのに、放っておけるわけないじゃない。」
その純粋な一言に、セシルは言葉を失った。
「二人とも孤立していて、すごく不安だと思った。それなのに『この人を助けても、自分に得はないから』って引き返すことなんて、私にはできないよ。」
ルナは静かに続けた。
「……嫌がらせのことは、許せない。すごく傷ついた。でも、セシルさんは今、チームの人たちに裏切られて、パートナーのフィン君も傷ついて……、ここで一人、すごく苦しかったでしょう?」
「やめて……」
「セシルさんは私のことは嫌いかもしれないけど。でも、私は……苦しんでいる人の力になりたいの。」
その言葉は、セシルの誇りという名の防壁を跡形もなく打ち砕いた。セシルは、ルナへの憎悪が、自分の脆いプライドを守るための虚勢でしかなかったことを悟り、ついに嗚咽を漏らした。
「やめて……やめて! そんな綺麗事を言わないでちょうだい……! わたくしが惨めで、たまらなくなりますわ……!」
セシルは泣きじゃくりながら、自らの傲慢さを、醜い行いを思い返していた。ルナはその様子から、彼女の根幹が今、静かに、しかし確実に変化していく気配を感じ取っていた。
その夜、二人はフィンを挟んで寄り添い合った。ルナは徹夜でフィンに魔力操作を施し続け、セシルは隣でルナの献身を見守りながら、自らの過ちと向き合った。




