2-9.聖杯祭1次予選
「まもなくアイリス学院聖杯祭1次予選を開始します。参加学生は、所定の待機エリアに移動してください。」
アイリス学院の静寂は、浮遊型魔道具によるアナウンスと、それに呼応する学生達の熱狂によって打ち破られた。
学院最大の行事「聖杯祭」がついに開幕したのである。 一次予選の舞台は、アイリスの街の北東に広がる広大な森林「星降る大森林」。ここは多種多様な低級「ノクシア」たちが跳梁跋扈するフィールドだ。
開始直前、演習場のゲート前に並ぶ96デュオ、計192名の生徒たちの胸元には、淡く青い光を放つ金属製のバッジが装着されていた。
「よーし、いよいよ本番かー。気合が入るぜー。」
カイが胸の魔道具――『レギスト・コア』を指先で弾きながら言った。
「気合が入ってるのはいいことだが、ルールやチームの連携も頭に入っているな?」
レイが冷淡に、しかし確認するように口を開く。
一次予選のルールは極めて単純かつ過酷だ。2時間という制限時間内に、どれだけ多くのノクシアを討伐できるか。
『レギスト・コア』は、装着者の魔力に微細の計測魔力を織り交ぜ、術者の魔力がノクシアの核を貫いた瞬間の魔力の散逸を検知してカウントする。
1年生から3年生までが同じフィールドで競い合い、全96デュオのうち、合計スコアの上位32組だけが二次予選へと駒を進めることができる。
「大丈夫、練習通りに行けば絶対に突破できるよ。……みんな、準備はいい?」
ルナが三人の顔を見渡す。その瞳には、かつての「落ちこぼれ」と呼ばれた弱気な影は一切なかった。
号砲が鳴り響くと同時に、生徒たちが一斉に大森林へと飛び込んでいく。 深い木々に覆われた暗い森の中、ルナは目を閉じ、魔力探知による索敵を開始した。
「右前方、11時の方角、距離200。岩陰に三体! 多分『シャドウ・ストライカー』。奇襲に注意して!」
ルナの精密なナビゲートが開始された瞬間、チームは一つの生き物のように駆動し始めた。 『シャドウ・ストライカー』は、影に同化するように獲物を狩る黒豹型のノクシアだ。
並の生徒なら姿を捉えることすら困難な相手だが、ルナの「目」にはその存在が手に取るように分かっていた。
「……遅いな。イクシード・フレア」
レイがルナを守るように前に出ると、黒剣から放たれた炎の一撃が、影から飛び出した瞬間のノクシアを焼き払う。
「次は左! 8時の方角から群れが来るよ! ネズミくらいの大きさで、群れを成している。20体以上!」
「ははっ、数が多いなら俺の出番だな! いけ、イグニート・レッカー!」
カイが大剣を横一文字に振るうと、轟音と共に爆炎の渦が巻き起こる。針鼠型のノクシア『ヴェノクイル』たちが一瞬で灰へと変わり、レギスト・コアのカウントがが狂ったように増加する。
しかし、森の深部へと進むにつれ、ノクシアの密度と凶暴度は増していく。 行く手を阻んだのは、粘着質の蔦を操る巨大な植物型ノクシア『ソーン・ウィッパー』の群れだった。複雑に絡み合う蔦が、彼らの機動力を奪おうと迫る。
「……弓では捌ききれないわね。アークイラ、解体」
レーナが静かに唱えると、その手にある弓、アークイラが機械的な音を立てて二つに割れた。左右の先端から鋭い風の刃が伸び、それは対の双剣へと変貌する。
「私をただの遠距離職だと思わないことね」
レーナは舞うような足捌きで蔦の檻をすり抜け、双剣の一閃で『ソーン・ウィッパー』の核を次々と切り刻んでいく。風を纏った彼女の動きは目にも留まらぬ速さで、近接戦闘においても彼女が並々ならぬ実力を持っていることを見せつけた。
「すごいな、レーナちゃん! 動きが華麗だぜ!」
「喋る余裕があるなら、次の獲物を探しなさい。ルナ、座標を。」
「うん、2時の方角、広場の奥。大型の気配! 硬い外殻を持つ『フォートベア』だよ!」
ルナの指示を受け、4人の連携はさらに加速する。 レイが正面から敵の気を引き、カイが炎で外殻を脆くし、そこへレーナの精密な風の矢が突き刺さる。
他学年の生徒たちがノクシアの探索から苦労している中、彼らの周囲だけはまるで嵐が通り過ぎたかのように、ノクシアが次々と霧となって消えていった。
予選終了の鐘が鳴った時、彼らのスコアは1年生の中でダントツの1位。それどころか、上級生含めてもトップ層にすら食い込む、文字通りの「蹂躙」であった。
――しかし、この快進撃の裏で、あるチームが人知れず絶望の淵へと突き落とされていた。




