1-2.掃討、シャドウハウンド
アイリス魔法学院からほど近い森。陽光の大部分を遮断してしまうほど生い茂った木々の下、レイは、自身の黒髪を投影したような漆黒の剣を手に、ルナに告げる。
「いいか。エストレア王国が『戦闘科』に多額の予算を投じ、学生に実戦を強いる理由は一つ。……各地に現れる化け物『ノクシア』を、効率よく駆逐できる魔導士を育成するためだ。」
レイはルナを一瞥する。
「ここで証明しろ。お前にその価値があるかどうかをな。」
「……はい。」
ルナは緊張しながらも、意識を周囲に集中させた。
「……一番近い個体で1時の方角の少し離れた場所に2頭。10時には3頭……。それと、その地点から北東の森の奥、ひときわ澱んだ魔力の溜まり場があります。そこに、多分『ゲート』があります。」
彼女は次々と位置を読み上げた。
「分かっているな、ルナ。いくらノクシアを掃討しても、それを生み出し続ける『ゲート』が存在する限り、さして意味はない。無限に湧く雑魚を相手にするのは非効率だ。最短距離で門を叩くぞ。」
それからのレイの行動は、ルナにとって衝撃の連続だった。彼女が伝えたシャドウハウンドとゲートの位置から最適なルートを割り出し、迷いなくそれをなぞる。
「雷鳴、イクシード・ボルト」
途中で遭遇したシャドウハウンド達を、彼は雷属性の魔法で大方一瞬で仕留めていく。
複数のシャドウハウンドに囲まれた際も、彼は専用の魔武器である漆黒の剣で、まるで踊るように切り伏せた。
『ゲート』も通常の学生レベルでは4、5発魔法を撃ち込まなければ破壊できないのが相場だが、レイの前ではまるでガラス細工のように一撃で沈んだ。付近のシャドウハウンドもあっという間に掃討され、討伐任務は完了してしまった。
(すごい…。私の言葉を信じて……迷いなく…)
今までのパートナーは、
――平民の足でまといの指図なんて受けてたまるか!
と魔力探知の情報を聞き入れようとはしなかった。
だがレイはルナをレーダーのような道具として見ている節はあるものの、初めてルナの言葉を100%信じて行動してくれた。ルナの胸中は複雑な感情で支配されていた。
帰り道の馬車の中、レイは黙ってルナに何かを投げ渡した。
「――っ!」
驚いて受け取ったそれは、一枚の紙のようだった。だが、それはただの紙ではなく地図のような魔導具だった。
「念じれば地図中に印が打てるはずだ」
ルナが半信半疑で念じると、地図の上に赤い点が浮かび上がった。それは生活用魔水晶が埋め込まれ、魔力を持たないルナでも使用できるものであった。
「これからはお前の探知したものの位置を、念じてそこに印しろ。それが実際の位置とずれがなくなるように訓練として繰り返せ。それが、直近のお前のやるべきことだ」
「……わかりました。あの…ありがとうございます。アルフリード様」
「前から気になっていたが、敬語はやめろ。学院の決まりでも、学生間は対等となっている。俺には敬語は不要だ。呼び方もレイでいい。」
「わ、わかった。レイ……君。」
レイは、使い勝手のいい「道具」を手に入れた満足感に、口元を歪ませていた。




