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2-6.忍び寄る悪意



廃都の一戦の後日、聖杯祭に向けて四人は精力的に訓練を続けていた。そんなある日の訓練後、カイがレーナに話しかける。


「前の討伐訓練のレーナちゃんの魔法、すごかったなー。『風迅ふうじん穿天牙せんてんが』だっけ? 俺、惚れ直しちゃったよ!」


カイはレーナへの好意を前面に押し出していたが、レーナはいつもカイを子ども扱いし、淡々とあしらっていた。


「はいはい。あなたは口を動かす暇があったら、もう少し魔法のコントロールを磨いたほうがいいわね。……じゃあ、私はここで上がって個人練習に移るから。」


この日も簡単にカイをいなし、彼女は荷物をまとめると足早に訓練場を後にした。


「ちぇ、レーナちゃんもたまには俺にデレを見せてくれてもいいのにな。……そういえばルナちゃん、俺の魔法ってさ、もっと効率的にできないかな?」


カイは、残っていたルナに問いかける。


「どうして、そんなこと私に?」

ルナは少し驚いて尋ねた。


「だってルナちゃんは、正確に魔力の流れを探知できるだろ? 俺の炎の魔法って、魔力量はいいけど、操作が下手くそで威力が逃げてる気がするんだ。なんか、もったいない気がしてさ。なんかもっとこういう風にしたら、ってアドバイスもらえたらって…」


カイは子どものように目を輝かせ、ルナに熱心に語りかけた。ルナは、カイの真っ直ぐな言葉に少し照れながらも、真剣に答えた。


「カイ君の魔法は、本当に力強いと思う。でも、もう少し魔力の収束を意識してみたら、無駄がなくなるんじゃないかな。例えば、バケツの中に炎をぎゅっと詰めていく練習をするとか。何もないところで操作するより、目的がある方がコツを掴みやすいかも」


ルナは魔力探知で感じたカイの魔法の癖を、丁寧に説明した。カイは「なるほど!」と声を上げ、何度も頷く。その様子を、レイは眉間にしわを寄せながら見ていた。 仲睦まじげに話す二人を見ていると、胸の奥が焼けるように熱くなり、居ても立っても居られない。自分がどうしてこんなに苛立っているのか、彼自身にも理解ができなかった。



* *


ルナが魔法を使い始めて数週間しかたっていないが、元々魔力のコントロールの繊細さと精度において才能のあったルナは、レイが驚きを隠せないほど、その腕を上げていた。


レイは彼女の魔法の特殊性にも驚いていた。通常、魔法は火、水、風、岩、雷の五属性が基本だが、ルナの魔法はどれにも似ていなかった。


この五属性に分類されない属性は希少属性と呼ばれ、それを操るものは特別な才能を持つとされた。例えばセレスティア学院長が得意とする氷属性も希少属性の1つである。さらにルナの魔法は希少属性として報告のあるどの魔法とも異なった。白く繊細に輝くその魔法を、学院長は『光属性』と名付け、二人もそう呼んでいた。


そんなルナの成長をよく思わない人間もいた。かつてのレイのデュオパートナー、セシル・ロシュフォールである。 初めに彼女が驚いたのは、ルナに対するレイの態度である。


レイは冷徹で効率を重視し、パートナーであるセシルの感情など一切気遣うことはなかった。 それがルナが相手だと、様子が変わった。


以前のように冷徹な空気はなくなり、ルナの言葉に耳を傾け対等に接し、訓練中にルナがよろけるとレイは心配そうに手を差し伸べる。


さらに噂に依ると、そもそも彼女が魔法を使えるようになったのも、レイが魔力を譲渡しているからだという。そんな献身的なサポートを受けているルナとぞんざいに扱われた過去の自分をどうしても対比してしまう。


(何であの子だけレイ様に特別扱いされますの……?)


セシルはルナへの憎悪を抑えきれなかった。その日からセシルによるルナへの嫌がらせが始まった。


* *


「あれ……? 教科書、破れてる……。」

 放課後の無人の教室。めくられたページの大半が無残に引き裂かれているのを見て、ルナの指先が小さく震える。


次の日には、お気に入りの鞄に鋭い刃物の跡が刻まれていた。明確に向けられるその悪意に彼女は恐怖を覚える。


「これ、ルナさんの鞄でしたわよね? かわいそうに、ひどい傷。」


 ふいに声をかけてきたのは同じ1年生のセシル・ロシュフォール。


「うん。ちょっと誰かにいたずらされちゃったみたい…。」


「こころない方がいらっしゃるんですね…。まあ、破れてしまった教科書は持ち帰る必要もないでしょうから、ちょうどいいのではなくて?」


その言葉にルナの表情は凍りつく。

「……どうして、教科書のことを知っているの?」


ルナの問いに、セシルはふふふと笑った。彼女の鮮やかな水色のポニーテールが、残酷なほど軽やかに揺れる。彼女はそのまま、一度も振り返らずに教室を後にした。

 

それからセシル嫌がらせはエスカレートした。それは必ずルナがレイと離れている時を狙って執拗に行われ、ルナは次第に疲弊していった。

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