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2-4.聖杯祭へ向けて


学院に戻ったレーナを待っていたのは、煌びやかに彩られはじめた校舎だった。学院最大の行事「アイリス学院聖杯祭」まで、残り3週間。全学年が参加し、最強のデュオを決めるこの祭典は、生徒たちにとって最大の栄誉であり、同時にレーナにとっては人生を懸けた戦場でもあった。


聖杯祭の第1次予選は、広大な討伐指定エリアに徘徊している魔獣「ノクシア」の討伐数を競う団体戦。最大3組のデュオでチームを組むことが許可されている。


放課後の訓練場。帰り支度をしていたレイの前に、レーナが真っ直ぐに立った。その瞳には、崖っぷちに立つ者の悲壮な決意が滲んでいた。


「レイ、お願いがあるの。聖杯祭の予選……私とカイのデュオと、チームを組んでほしい。」


レイは顔を上げず、淡々と答えた。

「断る。チームを組んで人数が増えるとその分討伐数が割られてしまう。すでに俺とルナの連携で討伐効率は最大化されている。今更チームを組む理由がない。 」


「……わかっているわ。でも、どうしても、今回だけは圧倒的な結果が必要なの」

震える声で食い下がるレーナ。その異様な気迫に、隣にいたカイがたまらず前に出た。


「レイ、俺からも頼む!お前の力が必要なんだ! 」

カイがレイの肩を掴み、熱く詰め寄る。パートナーとして、今のレーナの尋常ではない様子をカイは敏感に察していた。 親友の必死な訴えに、レイの眉がわずかに動く。そこへ、隣で静かに成り行きを見守っていたルナが、そっとレイの袖を引いた。


「……レイ君。私も、レーナちゃんやカイ君たちとチーム、組んでみたいな。……だめかな?」

ルナもまた、レーナが語らない「何か」があることを感じ取っていた。だが、それを無理に訊くことはせず、あくまで自分の希望としてレイに提案したのだ。


レイはしばらく沈黙した。カイ、レーナペアの月間討伐数の順位は1年生32デュオ中8位と悪くない。しかしながらルナと自分のデュオの連携は完成されている。事実1年生の中でのノクシア討伐数は他を引き離しトップの座にいるのだ。いまからチームを組むとなると、チーム間の連携に調整の時間を割かなければならない。その点でチームを組むことはレイにとって非合理的な選択だった。


しかし、友であるカイの熱意、そして何よりルナの控えめながらも芯のある言葉が、彼の頑なな理性を揺らした。


「……チッ。勝手にしろ」


レイは忌々しげに前髪をかき上げると、視線を逸らした。

「足を引っ張るようなら、直前でもチーム申請を取り下げる。文句はないな」


レーナの顔に、わずかに希望の色が差した。

「ええ。感謝するわ、レイ、ルナ」


こうして、1年生最強の「近接・索敵・遠距離」を揃えた、歪で強力な混成チームが誕生した。


* *


聖杯祭予選に向けた合同訓練の場としてレイが選んだのは、静まり返る廃都に住み着いたノクシアの討伐任務だった。崩れかけた石造りの建物が迷路のように入り組み、影には無数の小型ノクシアが潜んでいる。自然のフィールドと違い、複雑な構造物が視界を遮るこの場所は、目視に頼る者にとっては死角だらけの難所だ。


「……いた。11時の方角、時計塔の裏。距離120」

瓦礫の山の上に立つルナが、鋭い視線で廃都を見渡す。


「了解。打ち抜くわ!」


短く答えたレーナが、弓型アストラル「アークイラ」を構える。彼女の精密な風魔法の矢は、建物の隙間を縫うように飛び、時計塔の影に潜んでいた鳥形のノクシア、ラトルクロウの核を一撃で射抜いた。


「……さすがね、ルナ。魔力探知がここまですごいとは思わなかったわ。」

レーナの声には、焦燥を押し殺したような、だが確かな信頼が混じっていた。 しかし、その一方で苦戦しているのは前衛のカイだ。


「ルナちゃん! 次、次はどこだ!?」

巨大な大剣型アストラル、イグニート・レッカーを構えたカイが、周囲を警戒しながら叫ぶ。


「カイ君、次は2時の方角に30メートル! 崩れた噴水の影だよ!」

「2時……ええと、右斜め前、か!? 30メートルってどのくらいだ!?」

焦るカイに、隣で黒剣を振るっていたレイが冷たい視線を向ける。


「おい、しっかりしろ。方位と距離を即座に把握するのは、チームで動く上で基本中の基本だぞ。」

「うるせえ! 俺は実戦派なんだよ、数字は苦手なんだ!」


石畳の隙間から、鼠型のノクシア、ストーンラットが群れをなして飛び出してくる。混乱するカイを見て、ルナは指示の出し方を即座に切り替えた。


「カイ君! あっち、あの一番高い塔に向かって全力で走って! その途中の、噴水の左側あたりに居るから思いっきりバッて斬って!」


「……! おう、わかった! 任せろッ!」


感覚的な指示を受けた瞬間、カイの動きが劇的に変わった。迷いの消えた足取りで石畳を蹴り、噴水の影から飛び出したノクシアの群れを、イグニート・レッカーの重厚な一撃で一刀両断にする。


「……呆れたものだな。効率が若干悪いが、しょうがないか…。」


レイは溜息をつきながらも、手際よく自分の獲物を処理していく。


「ふふ、カイ君にはこっちの方が伝わるみたい。

レイ君、次は3時の方角、距離30の建物の中! 5体いるよ」


「……わかった。ルナ、ついてこい。お前は極力俺のそばを離れるな。」

レイはルナを背に守りながら、目的地を見据える。


バラバラだった4人の能力が、ルナという目によって、一つのチームへと形を変え始めていた。

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