2-2.輝くアストラル
レイとルナは魔力連環の契約を結び、魔力の受け渡しが可能になった。
しかし、レイはこれが『これが根本的な解決でないこと』を知っていた。
ルナから以前聞いたところによると、彼女は、魔力を生み出し蓄積する体内器官『魔核』が機能していない。
つまり、レイと手を繋ぎ、魔力の譲渡を受けている間しか、この借り物の魔法は維持できないのだ。
レイはこの根本的な問題を解決するための、次のステップを考えていた。
「ルナ、もう一度手を差し出せ。『アストラル』を生成する。」
アストラルとは、アストラル・コアという特殊な金属に魔力を流し込むことで生成する各々専用の魔法武具のことだ。
レイがノクシア討伐の時や、学院長室で洗脳された公爵夫人と対峙した際に顕現させていた漆黒の剣、それこそがレイのアストラル『アムゼル』である。戦闘科の一年生は入学後すぐに授業でアストラル生成を行うが、魔力のないルナは、当然ながらうまく生成することができなかったのである。
「目を閉じて。そして、お前の心に、アストラルの姿かたちを思い浮かべながら、このアストラル・コアに魔力を流せ。」
レイの声が、ルナの心に響いた。
ルナは、言われるままに目を閉じ、魔力を込める。彼女の心に浮かんだのは、ただただ、美しく、そして誰かを守るための光り輝く刃だった。それは、彼女の持つ優しさと、誰かの役に立ちたいという強い願いが、形になったものだった。
ルナが目を開けると、彼女の右手に、淡い光を放つ剣が握られていた。それは、彼女の心に思い描いた通りの、美しく、そして力強い一振りだった。
「これが……わたしの、アストラル……?」
ルナは、信じられない、といった表情で、自分の手の中にある剣を見つめた。剣そのものが、ルナの魔力と一体となって、まるで呼吸をしているかのように脈動していた。
「ああ。お前の魔法が形になったものだ。」
ルナは、自分の手にある剣を、愛おしそうに見つめた。
「この剣……名前は……」
ルナは、剣に優しく語りかけた。すると、剣は、より一層強く輝き、まるで彼女に答えるかのように、光を放った。
「『ルミナ』。この剣の名前だ。」
ルナは、心に浮かんできた名前を静かに口に出す。ルナは、その名前が、この剣にぴったりだと思った。
その言葉にレイは頷くと、ルナに魔法が使えるようになるための一つの可能性を提示する。
「ルナ。俺の譲渡した魔力は、一度そのルミナに蓄積させてくれ。そのアストラルが、お前の体にあるべきだった『魔力の器』の代わりを果たすんだ。そして魔法を使う時はルミナに蓄積した魔力を使え。そうすれば、お前も普通の人間と同じように、魔法を使うことができるはずだ。」
ルナは、レイの提案に、希望に満ちた表情で頷いた。
ルミナに魔力を蓄積しながら、ルナはレイにお礼を言った。
「レイ君、本当にありがとう。私が魔法を使うことができるなんて、夢のよう。まだ少し信じられないくらい。それに……公爵夫人を救うことができたのも、レイ君のおかげだよ」
レイはその言葉が意外だった。理解ができずに言葉を放ってしまう。
「俺は何もできなかった。あれはお前が……」
「ううん。レイ君が私の魔力探知の技術を延ばすために、アルカナマップでの訓練を提案してくれたでしょ?
自分で言うのもなんだけど、あれを始めてから魔力探知の精度がかなり向上したの。だからエレオノーラ様の異常な魔力も探知できたし、それを抽出することができた。
前の私ならこんなことはできなかったと思う」
レイは思ってもない言葉に「ああ、」といった空返事しかできなかった。彼は動揺を悟られないように一旦、魔力充填に集中することにした。
ルミナへの魔力充填を終え、何度か簡単な魔法を練習したあとその日の訓練は終了した。
アストラルは普段、身に着けるアクセサリーなどに変形させて身につけておく。レイは自分のアストラル『アムゼル』を指輪の形にして、右手薬指に装着させていた。
ルナもそれにならい、ルミナを指輪に変形させ、左手の薬指に装着しようとする。
しかしレイはそれを見て、すぐに声をかけた。
「っ、人差し指にしないか?」
ルナは不思議そうな表情を浮かべる。
「どうして?エレオノーラ様が左手の薬指につけていたから、憧れていたんだけど」
レイは少し困りながら説明した。
「まあ……アルフリード公爵家の習わしなんだが、婚約者へ贈った指輪を左手薬指に付ける風習がある。その……うちの家のルールだから従う必要はないんだが……」
「そ、そうだよね。私がここにつけてたら誤解されちゃうかもしれないね。人差し指にする」
ルナは慌てて人差し指にルミナを付け替えた。
レイの顔は熱を帯びていた。いつか自分が指輪を贈ったら、彼女は左手薬指に身につけてくれるだろうか。そんなことを考えてしまう。
* *
解散したあと、学院の寮に帰宅したレイはそのままベッドに倒れ込む。
彼はルナの言葉に救われていた。
『エレオノーラ様を助けられたのはレイ君のおかげ』そう彼女は言った。
自分は何もできないどころか、あわや自分の手で母を殺そうとした。その事実、そして罪の意識に彼は苛まれていた。
だが、過去の自分の行動は、意図せずとも結果的に母を救うためのルナの才能を育てていたのだ。
ルナにお礼を言われたからといって、母を手にかけようとした事実は変わらない。ただ、そういう見方をしてくれる人がいるというだけで、心は少し軽くなった。
最近、一人になるとルナのことばかり考える。魔法を使うことで彼女は笑顔になった。自分の行動で初めて彼女を心から喜ばせることができたと、達成感を感じていた。彼は自分の右手に現れた連環の印を眺めながら、ルナが見せた笑顔を思い出すのであった。




