2-1.魔力連環の契約
アルフリード公爵家のパーティーから数日。ルナへの感情を自覚してしまったレイは、その愛おしさとは裏腹に、ルナとの関係が上手くいかないことに苛立ちを感じていた。彼はまず、母の命を救ってくれたルナに、心から感謝の気持ちを伝えたいと思っていた。しかし、染みついた口調がとにかく邪魔をする。彼の口から出る言葉はいつも冷たい指摘や、命令ばかりであった。
そんな中、公爵夫人を操っていた邪悪な魔力について、何か手掛かりはないかと、レイは公爵家の書庫で古い文献を漁っていた。
すると、彼の目に留まったのは、一冊の魔導書だった。その表紙には「魔力連環の契約」と書かれている。ページをめくると、それは古代の魔法で、ある者の魔力を、別の者へ譲渡するための魔法だと記されていた。
「これだ……!」
レイに、一つの閃きが走った。
自分の持つ魔力を、ルナに分け与えたなら、ルナはその魔力で魔法を使うことができるはずだ。
魔法が使えないことにコンプレックスを抱いていたルナは、きっと喜んでくれるに違いない。
彼は、その魔導書の解読を始めた。それは、非常に複雑で繊細な魔法だったが、レイはこの魔法を成功させるため、寝る間を惜しんで作業にあたった。
* *
ある日訓練を終えたルナは、いつもと様子の違うレイに話しかけた。
「レイ君、ちょっといいかな?」
「……なんだ」
レイは、冷たい声で答える。
「あのね、その…気のせいかもしれないけど、最近疲れた様子に見えたんだけど、もしかして、何か変わったことがあったのかなって」
「心配かけたか?別になんでもないから気にするな。」
レイは、古代魔法のことをいつ切り出そうかタイミングに悩んでいた。一旦、そっけなく答えたものの、ルナの優しい眼差しに、彼の心は揺れた。彼は、意を決してそれを打ち明けた。
「……ルナ、ちょっといいか?見せたいものがある。ついてこい。」
レイはルナを、学院の訓練場の端の、奥まった場所へと案内した。
「今日は、お前に母の件でお礼がしたい」
「お礼?そんな…気にしなくていいよ!あれは本当に私がそうしたかったからしただけで…」
「……いいから、触れろ。」
ルナは少し戸惑ったが、レイはその言葉を遮るように自分の手を取るよう促した。
ルナは、言われるがままに、彼の右手にそっと触れた。レイの手は、不思議なほどに温かく、そして、微かな魔力が脈動していた。
レイは、魔法の呪文を唱え始めた。彼の呪文は、いつもと違っており、流れるような、古い歌のようだった。レイとルナの手から、淡い光が放たれる。
「ルナ、目を閉じて。そして、感じてみろ」
レイは静かに言った。
ルナは、言われるままに目を閉じた。すると、彼女の体の中に、温かく、そして力強い何かが流れ込んでくるのを感じた。それは、彼女が今まで感じてきた魔力探知とは全く違うものだった。それは、まるで、彼女自身の血潮のように、全身を巡っていく感覚だった。
「ルナ、その光を、右手に集めるんだ」
レイの声が、遠くから聞こえてきた。
ルナは、言われるままに魔力操作をする感覚で右手に意識を集中させた。すると、彼女の手から、淡い光が漏れ始めた。それは、彼女が初めて見る、自分自身の光だった。
「すごい……!私、魔法が……!」
ルナは、驚きと喜びで、目を輝かせた。
「……そうだ。それは、お前の魔法だ」
そして、魔法の光に包まれた彼女の顔は、今までで一番、輝いて見えた。
淡い光が消えると、レイの右の手のひら、そしてルナの左の手のひらには、まるで契約の証のように、繊細で複雑な魔法陣が刻まれていた。それは、太古の魔力譲渡の魔法が成功したことを示す『連環の証』だった。




