1-10.激動の終焉
エレオノーラ公爵夫人は、学院の医務室で意識を取り戻した。
彼女は、直近の記憶ないことにとても困惑していたが、レイがこれまでの経緯について説明し状況を理解した。公爵夫人は洗脳されている間の自身の行動に驚き、申し訳なさそうに二人へ話しかけた。
「ごめんなさい。たくさんの人に迷惑をかけてしまったようね。特にあなたたちには、辛い思いをさせて命の危険まで負わせてしまった。本当にごめんなさい……。そして、私を見捨てないでくれてありがとう……二人とも。感謝してもしたりないわ」
そう言って彼女は二人を抱き寄せた。
「私、エレオノーラ様の言葉に希望が持てたんです。『魔力の流れが見えるあなたは、きっと誰よりもこの世界を美しく見ている』って。
魔法が使えないことだけに目を向けて劣等感を感じていたから、そんな風に思えたことがなくて……。
この言葉に、本当に救われたんです。だからエレオノーラ様に憧れていて、尊敬しています。私にとって大切な人なんです。
だから、本当に無事で、無事で……良かったです」
ルナは涙ぐみ、思いを伝えた。
「あなたのおかげよ、ルナ。私も、自分の娘のように思っているわ」
エレオノーラとルナは涙を浮かべながら抱擁を交わした。レイは、その様子を微笑ましく見ていた。
怪我の治療を終えたセレスティア学院長が、エレオノーラの元を訪れるのを見届け、ルナとレイは医務室を出た。
激動の一日が終わり、くたびれた二人は、医務室の前の広間のソファに腰を下ろした。
直後、レイは強烈な眠気に襲われた。このところ、母親の件が心配でまともに睡眠が取れていなかったのだ。ルナに今回の件でお礼を言おうとするが、不器用な彼は言葉が出てこない。
「ルナ、お前が居なければ…俺は母を…その……今回は……」
彼はそう言いかけたまま、言葉を紡ぎきれず、静かに眠りに誘われる。目の下の濃いクマを見て、ルナは彼の最近の生活を察した。今はただ、ゆっくり休んでほしいと心から思った。
ルナは静かに立ち上がり、ソファの後ろに回ってレイの両肩にそっと手を置いた。そして、自分の魔力操作を用いて、レイの体内の魔力の流れを調整し始めた。荒れていた流れを整え、綺麗に心地よく流れるように調整する。これは、ルナが育った孤児院で、夜、寝付けない子どもたちによくしてあげていたことだった。
レイのかすむ視界には、肩におかれたルナの優しい手が映っていた。
(ああ……温かいな……)
そう思ったのを最後に、彼は意識を手放した。
「お疲れ様、レイ君」
ルナはそっと彼に語りかけ、彼が起きるまで見守ることにした。
* *
レイは深い眠りの中で、未だかつて感じたことのない心地よさに包まれていた。まるで、温かい雲の中に浮かんでいるような、絶対的な安心感。
体中の魔力が、滞りなく、そして優しく全身を巡っているのがわかった。それは、いつもの彼の魔力の流れとは全く違う、暖かく穏やかなものだった。
誰かに大切にされ、守られているような感覚。彼は、自身を縛っていたすべての緊張から解放され、心身ともに深い安らぎを得ていた。
『幸せ』という感情が、ただ純粋に、彼を満たしていく。レイは、そんな心地よさに身を委ね、深い眠りの世界に沈んでいった。




