1-1.異質なデュオ
「レイ様、今日の訓練も完璧でしたね!あまりに洗練された魔法に私うっとりしてしまいました!」
周囲を囲う取り巻きの令嬢達の言葉に、レイ・アルフリードは内心うんざりしつつも表情ひとつ変えずその横を通り過ぎた。足をとめる価値もない。学院の訓練は、決められた手順をなぞるだけの退屈な作業でしかないからだ。
――あなたと一緒にいると、私が何もできない人間のようですわ。
少し前に、組んでいたパートナーから言い渡された言葉が脳裏によぎる。安全のために学院から義務づけられている二人一組のデュオ。レイのずば抜けた魔法の才は、デュオの相手の存在意義を完全に消滅させていた。
(結局、誰と組もうが同じだ。俺一人でやった方が効率がいい)
「もううんざりだよ!こんな魔法を使えない平民の落ちこぼれと討伐任務にあたるなんて、進んで死地におもむくようなものだ!デュオを解消させてもらう!」
突如、中庭から聞こえたその声に、レイはふと視線を映す。するとその罵声を浴びせられたピンク髪の少女、ルナ・フローレットが目に入った。
彼女はただ俯いて悔しさを噛み締めていた。
レイは、その状況を冷ややかに見つめる。
(魔法が使えないのに戦闘科に籍をおくか。学院長に妙な才能を買われたという噂だが……。)
レイはその足をとめることもなく、その場を去った。
そんな日常を断ち切るように、2人はセレスティア学院長に学院長室に呼び出された。
彼女の片眼鏡には、並び立つ二人――学院最強のレイ、震えるルナが映っていた。
「単刀直入に言おう。君たち二人には、『デュオ』を組んでもらう。」
「……何かの冗談ですか」
レイの声が冷たく響く。だが学院長は動じない。
「レイ、君はずば抜けた才能で孤立している。彼女、ルナは才能が特殊すぎて、周りから理解されていない。お互いの欠けた歯車が噛み合えば、案外うまく回るかもしれんと思ってな。」
(自分に合うパートナーになかなか巡り合えずにいたが、ついにこんな足手まといと組まされるとは……。)
苛立ちを覚える彼の冷たい瞳と、その視線に耐えかねたルナの、悔しさに揺れる瞳が交わった。
* *
学院長室を出た2人に重い沈黙が流れる。一歩先を歩いていたレイは、ルナの方に一切視線を向けず言い放った。
「いいか、俺は非効率なことが嫌いだ。お前に何か能力があるのなら、最大限活用させてもらう。だが足枷になると判断したら、学院長には悪いがすぐにデュオを解散させてもらう。」
その言葉は、まるで氷のように冷たく、ルナの震えを増長させる。しかし、彼の言葉はそれで終わらなかった。
「それと、間違いがないように忠告しておく。俺の周りには、公爵家の地位を求めて擦り寄る令嬢たちにまみれている。…はっきり言って、そういうことにはうんざりしている。
お前も『平民の身分でアルフリード公爵家である俺と男女の仲になろうと考えるな!』」
あまりに傲慢な物言いに、ルナは小さく息を飲んだ。冷徹な威圧感の中、震えた声で言葉を絞り出す。
「……そんなこと、考えていません。」
「ならいい。聞かせろ。学院長が言っていた『特殊な才能』とやらはなんだ。魔法も使えないお前が、どうやって俺の役に立つつもりだ?」
レイは振り返り、その視線が初めて正面からルナを捉える。しかし向けられたのは、まるで品定めをするかのような鋭い眼光。心臓をつかまれたような息苦しさの中、はじめは目線を背けてしまったが、やがて決心をつけたように、言葉を発した。
「……信じてもらえないかもしれませんが、一言で言うと『魔力探知』です。私、魔法を使うことができません。でも、生物の持つ魔力を遠くから探知することができます。
……たとえばですが、もうじきあの扉の向こうから、二人の生徒が出てきます。」
(探知だと?)
レイが眉をひそめた次の瞬間、ルナの指差した扉が開き、その言葉通り二人の談笑する生徒達が姿を現した。その正確さに、レイは思わず目を見開く。
(感覚が鋭い者でも、探知できるのは身の回りの数m程度。しかしあの扉までの距離はゆうに20mは超えている……。)
「――悪くない。それが実戦で使える精度であれば、だが」
レイはそう短く告げると、再び歩き出した。
しかしその冷徹な瞳の奥には、微かな期待が灯っていた。




