第六話 『ダンジョンで出会ったのは、封印されし(自称)魔王でした』──お宝のためなら忠誠も捧げます。
「もうかえるですわ!」
ついてきたミリアがおれの耳を引っ張る。 おれは迷路のような洞窟をすすむ。
「だめだ...... 将来の怠惰のためにおれは歩みを止めない!」
「だからカッコ悪いことをかっこよくいうなですわ! モンスターにみつかったら死ぬですわ!」
「大丈夫だ。 今耳を二つ増やしてる」
「耳を?」
「ああ、周囲の音を常に聞いているから、近づけばわかるはずだ。 この能力同時に出さなきゃ消費がすくないから、モンスターがいたら耳を解除、足を増やしてにげる」
「そんな使い方があったのですわ」
驚くようにミリアがいった。
「だからモンスターに見つからないようにお宝だけ持って帰るのだ」
「はぁ」
納得したような納得してないような感じのミリアを背にしておれは通路をあるく。
「くそっ...... なにもない。 モンスターを避けて続けてここまできたのに!」
「さすがに深く入り込みすぎですわ。 帰りに前後をふさがれたら逃げられないですわ」
「確かに...... しかたない、帰るか」
おれは諦め帰ろうとすると、通路の奥の方になにかかすかな音をきいた。
「......奥になにかいる」
「モンスターですわ!?」
「いや、ただ音がする......」
その音のする場所へと向かう。 そこは神殿のような場所で奥の段になっている上の台座に大きな石箱がある。 その石造りの箱は大理石のように表面に傷ひとつなくすべすべで白い。
「グガガ......」
「これは...... まさかお宝か」
「どう考えてもモンスターですわ!」
「いや...... さすがにこの中にはいるぐらいの大きさなら大したことはないだろ。 もしモンスターでもなにかもってるかもしれん」
「やめるですわ!」
おれは矢を石の盖に何本も刺すとテコの原理で盖をこじ開けた。
「なっ!?」
「えっ!?」
おれたちは驚いた。 中には銀髪の少女が眠っていたからだ。
「ぐすぴー ががが......」
「......見なかったことにしよう」
「盖をもどそうとするなですわ!」
「わかってるよ冗談だ。 でもこんなところにいるなんて普通じゃない。 人間に化けたモンスターかもしれん」
「封印でもされたのかもしれないですわ」
「封印...... こんな子供が? とりあえず連れ帰るしかないか」
「そうするしないですわ。 ここにほっておくわけにもいかないですわ。 さっさと連れてもうかえるですわ」
「ん......」
「おっ、おきた!!」
「なんじゃそなたらは」
少女は眠そうな目を、こすりながらきいてきた。
「お前こそなんだ、のじゃこ」
「誰がのじゃこじゃ! 我はかの魔王ディムリア。 その威厳に恐れおののくがよい」
その少女は立ち上がると仁王立ちでいった。
「ミリア、帰るぞ」
おれは帰ろうとする。
「まて! 貴様! 我を無視していくではない!」
ディムリアはおれを引っ張った。
「なんなの? おれはお宝がほしいんだ。 老人しゃべりの女の子を拾いにきたわけじゃない」
「普通、魔王にあったら平伏するかおののくかであろうが!」
「いや、魔王ってなに? ゲーム?」
「魔王とはかつてこの世界に君臨した王じゃ」
「この世界に君臨した...... ミリア知ってる?」
「魔王を名乗る者はいましたが、ディムリアという魔王は確か男ですわ」
「はい嘘つき確定」
「嘘なぞついておらぬわ!」
(なんか面倒そうなやつだな。 こんなところにいるから普通の人間じゃないのはわかるが、危険なやつならこまるな)
「じゃあ魔王さま、そういうことなのでおれたちはこれで」
「まつがいい、貴様らを我が下僕としてやろう」
「いえ、けっこうです」
おれはその場を去ろうとした。
「断るな!! 歩き出すな! 魔王の家臣になるということはとても名誉なことなのじゃぞ!」
「いらないです。 なぜなら働きたくないので」
「......あきれるですわ」
「ぬう...... 臆面もなく正直にいう男じゃ。 まあよい、そなた宝がほしいといっておったな」
「えっ!? あるの!!」
「まあの。 しかし下僕でもないものに伝えるわけにはな......」
「このシュン、ディムリアさまの忠実なしもべです。 何卒お見知りおきくださいませ」
そうおれはひざまづいた。
「......サイテーですわ」
「ふむ、よかろう」
「そ、それでお宝はどこに?」
(宝の場所をはかせたら足を生やして逃げよう)
「ふむ、まずははらがへった。 なにか食わせろ」
(くっ! そうきたか、しかたない)
おれは洞窟からディムリアを連れ出し町へと戻った。
「おお! 国にダンジョンを教えたらかなりの報償がでたな!!」
「だからいったですわ! さあ装備を新調するですわ!」
「そんなことより腹がへったのじゃ、早うめしを食わせろ」
そうディムリアがいった。
(なんとか宝のありかを聞き出さないとな)
しかたないので店に入り食事を取らせた。
「うむ、うまいな!! 昔より料理がうまくなっておるな!!」
「そうなんですわ?」
「うむ、昔は焼いたものや煮たものしかなかったじゃ。 味も砂糖と塩ぐらいじゃ」
そうディムリアは食べながら満足そうだ。
(すぐ宝のことを聞き出そうとすると警戒されるかもしれん)
「ディムリアさまはなぜあんなところに?」
「......ふむ、そうじゃな。 我はかつて魔王としてこの世界に君臨したが、人間の勇者によって倒され封印されたのだ」
(嘘だろうが、話にのっておくか)
「へぇ、無職にたおされたんですか?」
「勇者だ! 無職ではない! かわいそうじゃろ!」
「でも勇者なんて職業ないですし」
「並みの力ではなかったんじゃ!」
「いやなんで勇者にかたいれするんすか? 封印されてたんでしょ」
「ま、まあの」
(なんか、こいつすごそうじゃないな。 本当に魔王なのか? 宝物も嘘ついてるんじゃないだろうな。 ただあんなところに封印か眠らされてたのは確かだが......)
「それでディムリアさま。 そろそろお宝を探しにいきませんか。 なにぶんお金がないのでは、食事も宿もよいものを用意できませんので......」
「ふむ、そうか、わかった。 明日にでも向かうとしよう」
(よし!)
おれたちは宿に泊まった。




