第二十三話 『騎士の剣は、おれじゃなく民のために』──そしておれは、また面倒ごとに巻き込まれる。
「なぜ、我がいかねばならん! いやじゃ!」
「うるさい! お前だけだらけやがって! うらやましい!」
「二人ともなにいってるですわ! みっともないですわ!」
暴れるディムリアを見えない腕で背負い、元副騎士団ルードリヒの勧誘へと連れ出す。
「我がなにもしておらぬと思ったか!」
「お前はなにもしていない! 食っちゃねして屁をこいていただけだ!」
「魔王は屁などこかぬ! 失礼を申すな!」
「お下品な話はやめるですわ!」
「我は魔法を使うため魔力の回復と記憶を取り戻しておったのじゃ!」
「記憶?」
「そうじゃ! 眠っておるうち記憶と魔法の多くを忘れておる! お前たちのために思い出そうとしておったのじゃぞ!」
「なるほど、そういうことですわ」
「わかったか、なればはなせ!」
「それはそれ、これはこれだ! 俺が働いてるのに、お前が働かんのは腹が立つ!」
「なんじゃ! そのへんな理由は! わかった! いくからおろせ!」
「......ほんと、おバカな人たちですわ」
ミリアはため息をついた。
「それで、私の元に......」
ルードリヒはそういって考え込んだ。 おれたちは山奥の小屋で暮らすルードリヒに会いに来ていた。
「おい、こやつが元副騎士団長か...... 若い女ではないか」
ディムリアがそばでいった。 確かにルードリヒはとても若い凛とした女性だった。
「ふむ、おれも男だと思い込んでいたな。 こんな美人だと緊張する」
「ふざけるな。 我には緊張しないではないか!」
「そうですわ! 私たちと扱いが違うですわ!」
「するわけないだろ。 お前みたいなガキと物理的に小さいやつ、おれは年上で普通サイズがこのみなんだよ」
「なんだと!!」
「なんですわ!!」
「君たち......」
「ああ、すまない。 それで冒険者になってくれないか」
「......すまないが、私はうけられん」
「なんでだ? 騎士団の副団長までになるなら相当の剣の使い手だろ。 モンスター討伐なんかで人手がたりないんだ力を貸してくれ」
「騎士なら人のためにたたかうですわ」
「そうじゃな。 こんな山の小屋で生涯を過ごすつもりか。 それではあまりにも人生を無為に過ごすことになろう。 怠惰なことじゃ」
(食っちゃねしてるお前がいうな)
「それは......」
「ふむ、なにか理由があるようじゃの。 はなしてみるがよい」
「............」
しばらく沈黙したが、ルードリヒはすこしずつ話し始めた。
「私の家系は昔から公国貴族だ。 祖父も父も騎士だった。 だから私も騎士になることはきまっていた......」
「それがいやだったのですわ?」
「いいや、私は剣が好きだったし、騎士は誇りでもあった。 だからその道にすすむことは特に不満もなかった」
「なればなぜやめた?」
「......それは」
口を閉ざす。
(公国でなにか起こってるのか? ミリアのはなしだと確か公国は隣の国だったな。 古代より続く国家で、小さな国だ)
おれとミリアが目を合わせる。
「公国がいやになることでもあったのか?」
「......ああ、しかしこれ以上は」
「忠誠心ですわ?」
「わが家が代々つかえた国に弓をひくなどできまい......」
「しかし、人としてまもるべきものはあろう」
「それは......」
ルードリヒは考え込むように沈黙した。
「......もしおれたちに害があるなら、このまま放置はできない。 それに調べもするぞ」
「私たちはラーク卿と知り合いですわ」
「ラーク卿...... 確か大貴族の。 そうか、なれば隠しては...... 、これはあくまでも私がしった範囲だ。 この件があなたたちの害になるかはわからない......」
「それでいい話してくれ」
「半年ほどまえ騎士団にモンスター討伐命令がくだった。 それは見たことがなく、かなりの強さで騎士団の幾人かが犠牲となった。 特に町などに被害もないため、なんのための討伐かと不審に思い理由を調べた......」
「それで」
「そのモンスターは我が国でつくられたものだった......」
「モンスターを作った!?」
「ああ、最近国に雇われた錬金術師がその指揮をとっていたのだ。 国をまもる為に騎士団にはいったが、この国でそのようなおぞましいことが行われていた。 私はそれをうけいれられなかったのだ......」
「ふむ、それで騎士団をやめた、そういうわけじゃな」
「......ああ」
「モンスターをつくる...... まあ、どうせろくなことに使わないですわ」
「だろうな。 それは国が主導してるってことか」
「ああ、国が雇ったものだし、そこはかなりの設備だった。 とても個人ではまかなえまい。 とはいえ女王がご存知かはわからん......」
「どうしてだ?」
「......女王はまだ即位して一年、まだ12歳だ」
「なるほど、だったら周りが先導してるのですわ」
「......女王にどの程度の権限があるかは正確にはわからん。 しかし在位が短く、幼いため権限をもたれてるとは思えん」
「ふむ、傀儡か」
「......ああ、おそらくな」
「それであんたはそのままにしておくのか。 騎士なのに主君が操り人形でいるってのに」
「わたしは! だが、国の決定にどうやってあらがう......」
「もう騎士でもなんでもないだろ」
(こういっておけば、仲間にできるかもしれん)
「......確かに、もはや騎士でもなんでもない」
「そうだ。 あんたが本当に人々のためを思うならおれたちとともにモンスターから人々をまもろ......」
「そうじゃ! 国の不義をただすのも騎士のつとめであろう! 我らも力を貸そう!」
「そうですわ! ほうっておいたら、きっと大変なことが起こるですわ!」
「えっ?」
「あなたたちが......」
「そうじゃなシュン!」
「ですわシュンさん!」
「えっ!? う、うん! そうだ、 力をかそう!」
(あおって仲間にしようとしただけなんだけど...... まあさすがに国と戦うなんてしないよな)
「確かに私は何を迷っていたのだ...... わかった! 国をただすためこの剣をとろう! 私に力を貸してくれ!」
「えええ!!」
なぜだか、おれの思惑とはちがい、国をただす方にむかってしまった。




