第十七話 『デザートワーム討伐のはずが、地下研究所で魔力結晶を拾いました』──働きたくない俺の、偶然の大発見。
「暑い......」
見わたす限りの砂だ。 おれたちは国から許可をえてヤーツ砂漠にきていた。
「あちぃ、なんとかせいシュン」
「無茶いうな。 しかし本当に暑いな。 この世界魔法があるくせに温度調整の道具とかないよな......」
「泣き言いわず根性みせなさいですわ」
おれの背中の鞄にいるミリアがそういった。
「お前はずっと鞄に氷いれてすずんでるだろーが!」
「私はこんな小さなからだですわ。 砂漠の日射しだと死んじゃうですわ」
そう悪びれずミリアはいった。
「くっ、セリエスは大丈夫か」
「はい! ぼくはげんきです!」
「つよっ!」
「シュンが弱いだけですわ」
「ディムリアもだろうが」
「我は女じゃぞ。 あたりまえじゃ。 さっさとおぶれ」
「あついこらいやだわ! それに今どき女だの男だのはない」
「くっ、この甲斐性なしめ」
「本当にデザートワームはここにいるのか? 小さな生物しかいないぞ。 音もあまり響いてこない」
「ほら、あそこですわ」
ミリアの指差す方にこわれた多くの建物がある。 町だったようだ。
「ここは町か......」
「ほとんどが瓦礫ですね。 デザートワームに壊されたようです」
「ずいぶん細かく壊されてますですわ」
「ここまで破壊するとはな」
「あっちにオアシスがあります!」
セリエスがいうように町の奥にはオアシスがあった。
「シェリガはここにもともとここにすんでたらしいですわ。 デザートワームがきたせいでここから追い出されたといってたですわ」
「だから倒してほしいっていったのか」
「こんな大きな水源があるならデザートワームを倒せば、町に人がもどってきます! 頑張りましょう」
「だがそのデザートワームの情報がほぼない。 ミリア、ディムリアなにかしらないのか?」
「ふむ、しらぬな。 食い物でも資源になるわけでもないならしりようもない。 まあ我の魔法ならば一撃でほふれよう。 かっかっか」
「どうやら地面から現れた大きな黒い影が町や人を飲み込んだらしいですわ」
「地面から黒い影か...... ただ地面からはあまり音もしないから、ここにはいないな」
その時、地面にミミズのようなものがはうのがみえた。
「ミミズか......」
「いいえ、これはミニワーム。 これでもモンスターですよ。 ほら岩なんかにも穴を空ける力をもちます」
セリエスの指差す方に壁に穴が無数にある。
「よく見ると多くいるな。 大丈夫なのか」
「ミニワームは人を襲うことはないですわ。 ただ木々や岩なんかの魔力を食べるモンスターですわ」
「つまり雑魚が、それにしても多いな。 ほれ、あそこにもあそこにもおる」
「ふーん、まあいいか。 あとはこの広い砂漠でそのデザートワームをどうやってみつけるかだな......」
しばらくあるいているとワームたちが目に見えて増えていることに気づいた。
「なんかワームが増えてないか?」
「ええ、こんなにいませんでしたね」
「なんじゃ! この音!」
小さな音が地響きにかわり近づいてくる。
「むこうから小さな黒い点がここに集まってきますわ!」
空を飛んでいたミリアがそうさけんだ。 目の前にワームが無数にあらわれる。
「まさか、これはワーム! ミリア、ディムリア魔法を!!」
「わかりましたですわ!」
「わかった!」
二人の魔法が黒い集まりを吹き飛ばす。 しかし、すぐに集まる。
「だめだ! こっちにみんなこい!」
おれは腕を増やしみんなを抱き抱えると、足を増やしてにげる。
「なんじゃこれはワームの群れ!?」
ディムリアが驚いている。 まえからも津波のように黒い影が迫る。
「くそっ! このままじゃ飲み込まれる!!」
黒い影が上から波のようにおれたちを飲み込もうとした瞬間、真っ暗になり衝撃があった。
「ぷはっ! ここは」
そこは砂の上で暗いがすこしみえる。 どうやら地下のようで天井から日の光がすこしはいってきている。
「地下へ落ちたのか、それで助かったようだな...... そうだ! みんな!」
「うっ...... ここは」
「なんですわ?」
「何が起こったのじゃ」
みんなそばにいたようだ。
「ふぅ...... 全員いるな。 ここはどうやら地下のようだ」
「でもなんだか人工的につくられたものみたいですわ」
確かに石壁があり通路のようでもある。 おれたちは出口を探すためにその通路を歩いた。
「みたいだな。 それにしてもミニワームが群れてデザートワームになっていたのか?」
「そのようですわ」
「ということはデザートワームなど最初からいなかったということですか?」
「そうなるの。 しかしあの数倒すのは難しいぞ。 今度であったらどうする?」
「そうだな。 なにか対策を考えないと、考えながら出口をみつけよう」
耳を増やしてしばらく歩く。
「どうやら古代の遺跡のようですわ」
「ということはダンジョンか。 ディムリアはなにかわかるか?」
「我のいた時代より古いものじゃな」
(こいつのいってることは本当なのかわからんが......)
「その古い時代のことはどのぐらいしっている?」
「ふむ、かなり高度な魔法文明があってな。 だが滅んだのじゃ」
「ありがちですわ」
「そんな高度な文明があって、なぜ滅ぶんですか?」
「よくはわからぬ。 しかし文明が進み豊かになると欲望の増大は、止めたくてもとめられないようになるらしい。 そして自らもその欲に飲み込まれるのじゃ」
「下らないですわ。 せっかく豊かになったのに」
「まあの。 もとより人とは弱きもの。 その弱さゆえ他者を信じられず、認められず、許せず、いつしか我欲にとりつかれるのじゃろうて」
「欲は必要だろ。 だいたいお前だってその欲で人間と敵対したんだろ?」
おれは小声できいた。
「......それは」
そうディムリアがいいかけたとき、前方に大きな扉が現れた。
「扉、どうやら中にはなにもない」
ゆっくりと厚い扉をあける。 金属だがとても軽い。
中にはなにかの機械のようなものや、青い液体のはいったガラスの筒のようなものが複数ある。
「これは研究所のようなものか?」
「魔法の研究でもしてたのですわ?」
「シュンさんこれ!」
セリエスの声でみると、一つのガラスの筒の中の液体にワームらしきものが複数はいっている。
「これはミニワームか...... じゃあ、あのワームたちはここでつくられたってことか」
「モンスターの製造ってことですわ?」
「どうやらそうみたいじゃな」
「......モンスターをつくるなんてな。 バカなのか」
「なんのためにですか?」
「かつての文明は労働や戦争用にモンスターをつくっておったという。 こやつらもその一つなのじゃろうな」
「なるほど、こっちはなんだ?」
ワームの筒につながったなにかガラス容器に赤い液体がある。
「なんかこれから魔力を感じるですわ」
「どうやら、ワームから魔力をうつしておるようじゃな」
「ワームから!?」
セリエスとミリアが顔を見合わせた。
「ということは魔力をあつめるためのモンスターってことか。 なんのため魔力をあつめるんだ?」
「きっとモンスターをつくるためじゃろうな。 モンスターは魔力を浴びて生まれる存在、ワームに魔力を集めさせそれでモンスターをつくっておったのじゃろう」
「なるほどな。 そういやミニワームが魔力を食らうっていってたな。 ん?」
机の上に赤い宝石があった。
「これは...... ラッキー!!」
「それからも魔力を感じるですわ」
「どうやらそれは魔力を結晶化したものらしいの。 昔見たことがある気がする......」
「魔力の結晶か...... まあもらっておこう。 そしてこの容器もワームに使えるかもしれん」
おれは赤い液体のはいった容器を鞄にいれた。
「私のはいるスペースがなくなるですわ!」
「しかたない。 あのワームに食われるよりましだろ」
「なにか手があるのか? 我の魔法でもあんな数どうしようもないぞ」
ディムリアがいう。
「正直、普通の魔法じゃ、あいつらにはきかないな。 ディムリアもう一発魔法はうてるか?」
「ああ、何とかあと一発だ。 だがどうするつもりじゃ?」
「まかせろ。 考えがある」
「さすがです! シュンさん!」
おれたちは研究所をあとにした。




