第十四話 『石化の雨を越えて』──怠惰の剣、決死の一撃。
「ふぅ...... なんとか逃げきれた」
火をつっきったおれたちは周囲にバジリスクがいない場所まで逃げられた。
「ふむ、よくやった」
「さすがです! シュンさん!」
「それにしても、あの煙の中、体力もないあなたが走って私たちをかかえて走れましたですわ」
「ああ、足だけじゃなく口と肺もつくったからな」
「なるほど、それで走りながらでもここまでもったわけじゃな」
「さすがシュンさん! ですが......」
セリエスの表情はかたい。
「そうだな。 バジリスクは群れ十体はいる。 しかも森の出入口をふさぐ感じでいるな、これは獲物を逃がさないようにしているのか......」
おれは耳を増やして感知した。
「十八、それじゃとても逃げきれないですわ」
「そうじゃな。 一体でも厄介なのにそれが10か...... 我ももう魔法は使えぬ。 仮に使えても倒れるな......」
(確かにあの数は真正面から戦えないな。 一度退きたいが、奥へと入ってしまった。 やつらをつっきって外にでるのは難しい)
「ミリア、森の奥になにがあるかわからないか?」
「国からもらった地図には、この森は深くその奥には雪山があるだけですわ」
「雪山はこの装備では危険ですね。 食料も防寒装備もない。 体力がもたないでしょうね」
「進むも地獄、戻るのも地獄じゃな」
「......となるとバジリスクと戦うしかないか。 一ヶ所に集めて逃げようとしても、複数のあの放水の射程と威力ではすぐ石化させられるな」
「しかしあの遠距離から放水される石化は回避できません。 何かもので防いでもすぐ砕けてしまいますし......」
「そこだな。 一体ずつならやれるが、複数となると......」
「私の炎でやはり焼くしかないのですわ?」
「これ以上、森に火が回るとおれたちも焼け死ぬ。 水の魔法は?」
「威力が低くてあやつには効かんな。 あの表皮は岩のような固さじゃ。 無論風も効果は低い、今ついている火もひろがってしまうな。 我の魔法ならまとめて一発でやれたが同じことじゃ」
(風も水も火もつかえない...... か。 セリエスの大剣やおれの剣も複数の腕でたたけば切れるが近づけない。 なんとか視界を奪って近づければ...... そうだ)
「よし、みんな聞いてくれ」
みんなに作戦を伝える。
「はぁ、はぁ」
おれは森の中を耳と足を増やしてかけていた。
「あそこにも一体か...... バジリスクが食べたのか石にしたのか、他の生物がいなくて感知しやすくて助かる。 うおっ! 唾液が!」
バジリスク攻撃をかわしながら森を走る。
「1体ずつなら放水も直線上にいなければかわせる。 重なると回避は難しいな。 やはり森からは逃げられない」
バジリスクを誘導しつつ、森奥へとさそう。
「よしきてるな...... あとは頼むぞミリア」
矢を何本か空に放つと、おれはそこからはなれた。 すると後ろに炎が放たれ、すぐ水で消され蒸気が辺りを包む。
「第二の器官」
腕をはやすと剣をもち、蒸気のなかをバジリスクに近づききりつけた。
「ギャッウ!!」
バジリスクは倒れた。
「よし! やれる! セリエスそこからすぐ右にいる!!」
「はい!!」
セリエスの前のバジリスクは動かなくなった。
(セリエスも倒したか...... やはりこの蒸気の中だとバジリスクに見つからず近づけるな)
おれたちは蒸気に隠れ、バジリスクに近づき倒していった。
「よし、こいつで最後だ!」
そして最後のバジリスクをたおした。
「やりましたね! シュンさん!」
「ああ」
「おお! 倒せたか!」
「はぁ、もうあとつかえる魔法は一回だけですわ」
そのとき、地面が揺れる。
「なんじゃ!!?」
「地震ですか!!」
「シュン! 調べるですわ!」
「なんだ...... 地面の下から音がする!」
地面が大きく揺れてると、地響きをたてながら何か大きなものが地面から這い出てきた。
「なんだ...... これはバジリスク!!」
「今までの数倍はあります!」
「これは親か!!?」
「離れるぞ!!」
そのバジリスクの唾液は雨のように降り注ぎ周囲の木々を石化させる。
「やばい!! 広範囲すぎる!」
「しかし、このままはきつづけられたら我らは石化するしかない!」
「蒸気ももうつくれませんですわ!」
「おい! セリエス! なにするつもりだ!」
「ぼくは体も小さいこの唾液にあたらないはず......」
そういって剣を頭の上にのせバジリスクに向かってはしった。
「ばか! くそっ! ミリア、バジリスクに魔法をあててくれ!」
おれもセリエスのあとをおう。
「わかりましたわ!」
ミリアの魔法がバジリスクにあたると、その隙をついてセリエスが大剣でバジリスクの目をきりつけた。
「ギャッオォォ!!」
その瞬間バジリスクの振り回したしっぽがセリエスを吹き飛ばした。 おれはセリエスにかけよる。
「うっ......」
「セリエス! よかった気絶しているだけか......」
(だがどうする、セリエスもたたかえない。 おれの剣じゃ、あの分厚い皮膚を切り裂けない...... それなら)
おれは腕を増やしセリエスの大剣をもつ。
「くっ! おもい! やはり腕一本増やしたぐらいじゃ持ち上げるのもっとか。 それに...... でもやるしかない」
「ガアアアア!!」
バジリスクはこちらにその口を開けた。
「まずい......」
ドガアアアアンッ!!
爆発が起こりバジリスクの巨体が揺れた。 見るとディムリアがふらふらとして倒れた。
(あいつ、無理に魔法を...... いましかない)
「第二の器官......」
身体中に流れを感じはしる。 バジリスクがまた口を開けた。
「だぁっ!!」
地面をけるとおれはバジリスクの頭上にいた。
「おおおおお!!!」
全身にできうる限りの力をこめ、おもいっきり剣を振り下ろす。
ザシュ!!
「ギャオオオオオッ......」
ドオォン!!
バジリスクは大きな声をあげて、そのまま動かなくなった。




