第十三話 『おれがだらける未来のため』──強敵バジリスク突撃戦。
「ふむ、そなたたちが」
背の高い男性が大きな椅子に座り、こちらをめずらしげに見ている。 彼はタルシオン国の若き王ーーリュフェルクだった。 おれたちは指定災害モンスターの討伐許可をえるため王城へときていた。
「ええ王。 彼らはアバレスト公爵の不正を暴いたシュンどのたち。 リアベールの子孫セリエスどの、ミリアどの、そしてディムリアどのです」
そうアバレストのところであったラーク卿に王へと仲介してもらった。
「王よ。 我々はバジリスク討伐に向かいます。 その許可をいただきたく参りました」
「......正気か。 バジリスクは人を石化させる魔力をもつ。 ゆえにその一帯は禁止区域としている。 それを子供のそなたたちだけで......」
「はい、人々は困っている様子。 我らの力をお役立てください」
「シュンさん!」
セリエスはキラキラした目でこちらを見ている。
(そんな目で見るな。 方便にきまっている。 金だよ、金がほしいんだよ。 おれがだらけた人生を送るためにな)
「なんと......」
「ふむ」
ラーク卿と王も感心しているようだ。
「素晴らしい! なんという志の高さ! 王よ!」
「うむ、わかった。 そなたらの熱い思いうけとった。 かつて討伐に成功したリアベールの子孫もいる、そなたらに禁止区域への侵入許可と討伐を願おう」
「はっ!」
おれたちは許可をえてバジリスク討伐の任をうけおった。
「よし! これでバジリスクを倒せるな!」
「倒せるな! じゃないですわ! バジリスクは石化させる魔力をもつのですわ! 簡単じゃないですわ!」
「とはいえ、所詮つばだろ。 遠距離で攻撃すればやれるはずだ。 もちろん石化対策のためになけなしの金で鉄の盾も買ってきた」
おれは背におった鉄の盾をみせた。
「でも......」
「まあ、ミリアよ。 やつがやる気なのじゃ。 応援してやれ」
「そうですよ。 シュンさんならなんとかしてくれます!」
「......わかりましたわ。 ですが慎重にいくのですわ」
「わかってる。 おれだって死にたくはない」
おれたちはバジリスクのいるという禁止区域へと馬車で赴いた。 許可証をみせ砦をこえる。
「うっ...... 腰がいたい」
「まあ、ここまで馬車でしたからね」
「せっかく土地があるのに朽ちた家しかないの」
そこは誰もいない町のあとだった。
「どうやらかつては大勢の人がいたそうですわ。 でも近隣にバジリスクが出現して、みんな逃げ出すしかなかったらしいですわ」
「......バジリスクの恐怖はそれほどなのか。 まずはみつけださないと......」
第二の器官で耳と鼻をふやし辺りを警戒する。
「いないな。 なんの音もしない」
「魔力も感じられないですわ」
「先にすすみましょう」
「うむ、そうじゃな」
町をぬけ、うっそうとした森をみつけた。 入ると地面には石だけが転がっている。
「人がはいってないから、荒れ放題だな」
「石が多くてあるきづらいわ。 シュンおんぶしろ」
「するか! おれは鉄の盾を背負うので精一杯だ!」
「非力ですわ...... それに本当にここにいるのですわ?」
「確かに、いたのは数十年前ですよね? もういない可能性もありますね」
「それなら俺たちが倒したということにしておこう」
「だめにきまってるですわ。 証拠がないですわ」
「おい、さっきからおかしいのじゃ、鳥や虫がいない」
ディムリアのいうとおり見当たらない。 ただ大きな生物がうごく音はかすかにきこえる。
「確かにな...... 聞こえるこの音は大きいけど、鳥や虫とも違うな。 これがバジリスクか。 ん? これは......」
地面に落ちた石をよく見るとそれは鳥の頭だった。 周囲を細かく見ると、生物の体の一部とみられる石がそこらじゅうにある。
「これってバジリスクに石化された生物ですか!」
「でもこんな大量にどうやって?」
「ディムリア、バジリスクについてしってることはないのか?」
「ふーむ、我もよくわからんな。 確か側近が話していたのを聞いただけじゃからな。 だがそれほど強いモンスターというイメージはない。 あっ、そういえば唾液は速いといっていたような......」
「唾液が速い...... この鳥、空をとんでいたところを落とされた。 まさか空の鳥をおとしたのか!?」
その時茂みの奥からなにかがうごく音がきこえた。
「......近づいてきたな」
かなり遠く感じるが、おれは背中の盾を正面にたてた。
バシッ
盾になにかがあたった。
「なんだ...... 盾が重い」
「シュンさん盾が!」
セリエスの声がきこえると目の前の盾が一部徐々に石化していく。 そしてついには砕けた。
「鉄が砕けた!? みんな木の後ろに隠れろ!」
おれたちは木々の後ろに隠れると、次々高速の何かが茂みから大量に放たれてくる。 それが木々などに当たると石化が始まった。
「これが唾液か! すごい速さで広範囲にとばしてやがる! こんなの防げないぞ!」
「これでは近づけません!」
「魔法を撃とうにも真正面にたてぬ!」
「ど、どうするですわ!」
あたった木々は石化が広がると砕けて地面に倒れる。
「くそっ! もっと後ろに! できるだけ左右に広がるぞ!」
みんなで左右に広がりつつ逃げた。
(くそっ! こんなの唾液じゃなくて放水だ! どうする!)
「しかたない! ミリア、次にとんできたら、タイミングをみて炎の魔法を茂みに放ってくれ! 姿がみえないと対処できん!」
「わかりましたですわ!」
何度かとんでくる唾液をみてミリアが炎の魔法を放つ、それは茂みの奥に火の手を上げた。
「あれででてきてくれれば......」
その時のその灰色の石のような皮膚をもつ大きなトカゲが茂みからでてきた。
「よし! ディムリア!」
「わかっておる! グレートプロミネンス!!!」
ディムリアの炎の魔法でトカゲはふきとんだ。
「やりました!」
「いや、まて! まだ音がする!」
左右から音がする。
「まさか......」
その時、左右からまた放水が始まる。
「こいつら群れなのか! みんな真ん中に!」
「まさか、こんなにいるなんて!」
「増えていたのですわ!」
「それでどうする。 もう我は魔法も使えぬ」
放水は複数の箇所から放たれている。
「くそっ...... 囲まれているな。 ミリアの魔法で火を放つとおれたちも丸焦げになる。 一旦ひく」
「どうやってですか! 周りはかこまれています!」
「あそこだ......」
「あっちは私の魔法で火が回っているですわ! 仮に火を避けても煙に巻かれますわ!」
「......おれに任せろ。 みんなこっちにこい」
「しかたないの。 このままいてもいずれ石化じゃ」
「わかりました! シュンさんを信じます!」
「よし...... 用意はいいな。 できるだけ大きく息を吸ったら、口をふさいで煙を吸うなよ」
おれは腕と足を生やしてセリエスとディムリア、ミリアを抱くと茂みの火の中をつっきった。




