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水溜まり

作者: 黝簾冬綿

初めて書いたホラー作品です。テーマ:水にそって書かせて頂きました。

水溜まりがたくさんある道路。その水溜まりを避けながら歩く。

昨日雨が降ったせいで、ジメジメして暑い。それに、水溜まりを踏んだら靴が汚れてしまうからいい事なしだ。折角の休日なのに、気分は最悪だった。

雨は嫌いだ。そこら中にある空気がじとりと体にへばりついてくるから。

雨は嫌いだ。色々なところが濡れるから。

雨は最悪だ。暗い気持ちになるから。

なら外に出なければ良いかとも思ったが、今日は折角の休日だから出かけると決めていた。それを雨ごときにやめさせられるのも嫌だった。

思えば昔から雨が嫌いだった。合羽は肌に張り付くし、傘は邪魔になる。雨が降ると何時も家から出なかった。雨の日の学校にも、親が傘を差して送り迎えをしてくれるから行っていただけで、本当は行きたくなかった。

湿気の所為で頭が痛くなる。ズキズキと痛む頭を抑えて、それを親にバレないように学校に向かっていた。母さんは、俺が学校に行くと喜んだから。

嗚呼、頭が痛い。昔を思い出しただけなのに頭痛がする。

雨が嫌いになった日。あの日は雨で、確か学校帰りだった筈。珍しく母さんが用事があって、一人で傘を差して歩いていた。

その時は雨は嫌いじゃなくて、水溜まりをバシャバシャ進みながら、歌でも歌いながら帰っていたと思う。

そうしていたら、後ろからヒタヒタびちゃびちゃ音がして、振り返ったら声をかけられた。

「ぼく、一人?」

鈴を転がすみたいな声だったけれど、見た目は全然声と合っていなかった。

裸足で足が凄く汚れていて、髪の毛は地面に届きそうなほど長い。その髪も母さんみたいに艶がある訳でも、サラサラでもなくて、酷く汚れていた。

首や腕には掻きむしったみたいな傷があった。

指は真っ赤で爪はとても鋭くて、真っ赤に血走った目をした女の人。その人は目を見開きながらニコニコしていた。

にこにこにこにこにこにこにこにこ

すごく変な人なのに、不思議と怖いと思わなくて。

誰なんだろう、とか、怪我痛くないのかな、とか、そういう事ばかり頭に浮かんだ。

そうして黙っていると、肩を掴まれた。

「一人でいるのなら、楽しいところに行きましょう?」

確かそう言われた気がする。そのまま腕を掴まれて、あっと思う間に体が水溜まりに沈んだ。どんどんどんどん沈んでいって、その時やっと怖いと思った。

逃げようとしても女の人が掴んでくる腕が痛くて、片手をふさぐ傘が邪魔で、水はどんどん体に纏わりついて、服が張り付いてくる。

傘を捨てて、水溜まりがないところの地面に手をやって、思いっきり女の人を殴った。ひたすら逃げることだけを考えていた。

女の人が怯んで力が弱くなったから、その隙に逃げた。走りながら後ろを振り返ると、女の人が追いかけてきていた。でもおかしい。

女の人は水溜まりの上しか走らない。水溜まりが途切れたところでは、水に沈んでいって、次の水溜まりから出てくる。

嗚呼、あの人は水の上しか動けないのか。何となくそう思った。

そのまま一心不乱に走り続けていると雨が止んで、いつの間にか母さんと合流していた。

母さんに話そうかとも思ったが、なんだかそんな気にもなれなくて、その日はそのまま寝た。

それ以来、雨の日に水溜まりを踏んでしまうとあの女の人が出てくるようになった。段々と追いかけるのに慣れてきたようで、どんどん追いつかれそうになって行く。

それは今でも変わらない。

水溜まりがたくさんある道路。その水溜まりを避けながら歩く。

そうしないと、今度こそ捕まってしまうから。

今回初めてイベントに参加させて頂きました。ホラー作品を書いたことがなく、四苦八苦しながらも楽しく書かせて頂きました。今回の夏のホラー2025を企画してくださった方々、ありがとうございます。

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