6:林間学校ってこうゆう事やってたっけ
「見てください!ここから海が見えますよ!」
安倍は部屋に入るなり、レースカーテンを開け嬉しそうにしている。
「そうだな、確かにいい景色だけど」
俺たちは海が近い古びた宿場町の、外れにかろうじて宿と呼べる古めかしい旅館に荷物を置きに来ていた。本当はビジネスホテルなどのシンプルなところが良かったのだが、晴たちが泊る宿泊施設から近い宿はここしかなかったのだ。
「それにしても楽しそうだなお前」
「え?そうですかぁ?あ!見てください!ちゃんと浴衣も準備されてます!思ったより部屋も広いですし、外はアレですけど、中は綺麗でハイテクギミックもありますし、ここ良いですよ!」
照明の明かり調整をつついてみたり、テレビのリモコンでインターネットを見たりと、とても楽しそうに部屋を確認している。
「それに海も見えるし最高ですね!きっと朝日がここから見えますよ」
「安倍さん、僕たち遊びに来たんじゃないのだけど」
「そんな事はわかってますよ、ただ部屋が思ったより良かったので、ちょっと嬉しくって。ネットの評価も当てになりませんね」
「そうだな、というか一緒の部屋で良かったのか?」
民宿のような外観のこの旅館は部屋数が限られているようで、ひと部屋しか空いていなかったのだ。
「しょうがないじゃないですか、部屋がなかったんだから。それに一緒に行動するのにちょうどいいです、作戦も立てやすいですし」
「でもな、同じ会社の同僚で男女が同じ部屋っていうのは、冷静になって考えたらあまりよろしくないんじゃないかと思うんだが」
「大丈夫ですよ、こんなところで、しかも平日に知り合いに会う可能性なんて皆無です。そんな事より**作戦の確認しますよ!**時間が惜しいので早く!ほら本出して」
いきなり仕切りだす安倍。さっきまで部屋を見てはしゃいでいた奴がいうセリフじゃないと思うが。
着替えなどを詰めた旅行鞄から本を取り出し、安倍と机を挟んで向かい合いで本を見る。
「これじゃ逆で見えずらいですね」
安倍はこちら側に回り込んで俺のすぐ横にやってきて本を覗き込む。その拍子に胸が俺の腕に当たる。髪から香るシャンプーの匂いとわずかに触れるふくらみの柔らかさに、安倍の女の部分を感じてしまった。そして改めて、男女二人きりで泊まるという事実を実感した。
「アキラさん」
長い髪を耳にかけながら、不意に振り向く安倍にドキリとさせられてしまった。
「ん、なんだ」
平静を装い何とか返事をする。
「やっぱりこのカップルを探すのが先決ですね」
漫画の一コマを指さし俺に助言をくれる。漫画で描かれている林間学校での出来事は、歴史資料館に訪れた晴たち一行が、ペット憑きの男女が喧嘩しているのを見かけるところから物語が動き出す。
「ああ、前に言ってた通り、その方がいいだろう。晴たちを見張るよりその方が見つかる危険を避けられる」
「それで目標は、晴ちゃんがヨルに体を、貸さずに済むようにするってことで良いですか」
「もし貸したとしても、このギリギリのところで助けて、晴が代わりに怪我してしまうのを一番避けたいな」
「わかりました、じゃあ行動に移しましょう!」
二人で部屋から出て鍵かけていると、安倍が裾を掴んで小声で話しかけてくる。
「アキラさん!あの二人」
安倍の視線の先には目的のアベックがいた。まさかこんなに早く見つかるとは思わなかったものだから、俺は固まってしまう。
二人は俺たちの視線に気づき不思議そうしている。
「こんにちは」
俺の生気が抜けたような挨拶。彼らも軽く会釈をすると、俺たちの横を歩いて行った。
「間違いないですよ、あの二人、漫画で見た印象そのものです!」
「そうだな、まちがいないだろう」
「それじゃ行きましょう!」
道の駅での潜入と運命の改変
二人の後を付け、商店街を歩きながら様子を探る。
「ね、アキラさん」
「なんだよ」
「私たち探偵?それともホシを追うデカってところですか」
「何言ってんだ、良いから見張ってろ」
結局、二人がアイス専門店で一休みするのを見届け、俺たちも席につく。二階のカウンターテーブルには目的の二人。俺たちはそこから離れたテーブル席に座った。
「私たちもカップルみたいにしないと怪しまれますよ」
俺は頷いて了承する。こんなことは計画になかったが仕方がない。
「それにしてもきれいな海ですね、これ海道っていうんですよね」
「この町は歴史が深いらしいぞ、昔、北の方から運ばれた米やら味噌なんかもこの海岸を使って船で運んでいたんだと、それが海道と呼ばれる由来なんじゃないか」
「へーアキラ、ちゃんと調べてきたんだ」
呼び捨てられて少し動揺してしまうが、付き合っている設定だった。
「そう言えばノリコどうしてるかなぁ」
唐突に言って欲しい名前を安倍が言うものだから戸惑ってしまう。すると俺にあのカップルを見ろと目配せしてきた。自分の名前を言われカップルの女性がこちらを気にしている。やっぱりあの二人で間違いなさそうだ。
二人は店を出ると、歴史資料館がある方向を指差している。そこで晴たちと出逢うはずだ。
「安倍、後は頼んだ、俺はここからは距離をとって見ているから」
「わかりました、任せてください!」
俺は茂みに隠れ、安倍はこのままの距離感で観察を続ける。しばらくして安倍から小声で連絡が入る。
「アキラさん!あの二人、言い合いしてますよ、やっぱりあの二人で間違いはなかったようですね」
言い争いを見ていると、二人の姿がぶれて見える。目をこすり見直しても変わらず、俺は乱視になったのかと思ったが、もしかしてアレが生霊か!
「絶対にあの二人だ、俺にも生霊が見える、かもしれん、二人がブレて見える」
「凄いじゃないですか!やっぱり血は争えないって奴ですね」
安倍は彼らの後を追うが、すぐにまた連絡が来る。
「あの漫画凄いですね、ラストでカップルが晴ちゃんたちに説明していた通り、まったく同じこと話してましたよ、いやぁ感動したというか気持ち悪いというか、未来って決まってるんですかね」
二人は険悪なムードのまま別行動を選び、今日の旅の締めくくりに選んだスポット、道の駅へ向かう。そこが晴が代わりに堕ちてしまう運命の場所だ。
「もうこれ以上つけていても、あまり意味がないでしょうから、ここからは作戦通りに晴ちゃんが落ちてしまう道の駅に行って下調べをしましょう」
「別行動か、そうしよう。俺は輝彦が見つけるはずの男の方をつけてみるよ、安倍は下見しててくれ」
男性を追いかけたが、輝彦が走って現れ説得を試みたため、俺は接触を諦め、安倍と合流し、タクシーで道の駅に向かった。
到着すると、まず外観を見て回る。
「漫画で描かれているのとほぼ同じですが、旗の文字などは違うようですね」
「本当だな、まるで見ながら描いたみたいだ」
違いを確認した後、俺たちは問題の場所へ急いだ。
建物の二階に上がり、そこから鐘が置かれている外へと出て問題の場所に行く。
「ここはまんまですね」
「本当だな、まるで見ながら描いたみたいだ」
安倍が、真下の空間を見て声を上げた。
「あったんじゃなくて、**無いんです!**この下見てください」
「そうですよ!何もないんですよ」
そうだ!漫画ではこの下に大量のゴミの山があり、それがクッションとなり晴の命を救うはずだった。
「大量のゴミがない!?」
「急いで降りますよ!」
俺たちは急いでおり、ごみ袋がないかあたりを調べると、裏側の軒先に大量のごみがあった。
「よし、ゴミをバスが来る前の十分前まで移動させられなかったら移動させよう!」
時刻は過ぎていき、ゴミはそのまま軒先から移動させられることはなかった。俺たちは誰も見られぬよう注意しながらゴミを落下地点に運ぶ。
「やっと運び終わりましたね」
「ああ、結構あったな、燃えるゴミで軽かったから助かった、これならクッションになるわけだな」
俺はこのまま建物裏の茂みに隠れて、安倍には近くで見守ってもらう事になっていた。
「わかった、そろそろバスが来る頃なので私行きますね」
「おう、頼んだ、それよりお前も無茶するなよ」
「無茶って何ですか」
「無理に絡みに行ってお前が落ちるなんてのも嫌だからな」
「私の心配もしてくるんですね」
「たまにはな」
安倍は目を細めながらこちらを見た後、舌をだして持ち場に向かう。
バスの到着した音が、俺がいる場所まで聞こえてくる。携帯に安倍から到着と短い文が届いた。
しばらくすると建物二階の展望場に言い合いをしている二人組と晴たちの頭の部分だけが見えた。
ここで晴が落ちる姿を、ただ指をくわえてみているしかないのか、なんとも言えないやるせなさを想いながら見守っていると、晴たちから距離をとって安倍が跳んでこちらにアピールしている。
何をやっているんだ、あいつは。そんな事をしていると目立ってしまうではないか。携帯電話に安倍はかけてきた。
「なんだ!どうしたんだ」
「アキラさん!見てください、ゴミ」
「ああ?ゴミ!?」
安倍から視線を落とし、ゴミが置かれている場所を見ると、そこには先よりも随分と少なくなったゴミ袋があった。
俺はゴミがどこに行ったのか慌てて探す。すると清掃員のおばさんが面倒くさそうにゴミ袋を二つ抱えて移動させていた。
「すいません!そのゴミ袋あそこにないとダメなんです」
「あんたか!ゴミを移動させたの、なんのいたずらだい!」
どういっても通じるわけはない。最悪俺が受け止めてでも晴を助けるしかない。
「あ!!そこの清掃員さん!」
建物の角からそう叫んだのは安倍だ。
「今度は何だい!」
「お取込みのとこすいませんけど、トイレがすごい事になっててすぐ来て欲しいんですけど」
「はぁまったく、わかりました、今行きます!おい、そこのあんた!」
「はい!」
「何をどうするのか知らないけど、元通りにしといてくれよ」
「わかりました、ありがとうございます」
おばさんは、ぶつぶつと文句を言いながら、安倍の方へ向かっていく。
急いで運ばれてしまったゴミ袋達を運んでいく。この最後の二つを運んでいるところで上にいる晴の叫び声が聞こえた。
「きゃぁ!」
「加賀谷!!」
「ハル!」
俺はゴミ袋の山に飛び込んで、持っていたゴミを自分の上に重ねると同時に晴が上に落ちてきた。
鈍痛が全身に走る。ちょうど俺の真上に重なるように落ちてきたのだ。またもや俺は下敷きになったのだ。
痛みをこらえながら、ゴミをかき分け晴の様子を見る。うなっているが大したけがはなさそうだ。知ってはいても心配だったが、晴の姿を見て俺は安心するが、それもつかの間、急いでヨルが跳びおりてくる前に物陰に隠れる。
隠れて同時だったのだろうか、覗いてみるととヨルが晴を呼び起こしていた。腰を打ったのか、痛そうに抑えながら立ち上がる晴。その様子に違和感を覚えたがとにかく無事でよかったと安心した。
カップルにお礼を言われ、晴は輝彦に肩を支えられながら去っていく。
何とか潜入して邪魔が出来ないものかと考えあぐねていると、安倍が俺のもとに駆け寄ってきた。
「アキラさん!肩!!」
「だから何だ!俺はそれどころじゃな…」
見ると、俺の肩はパッドが入っていると思えてしまうほど膨らんでいるのがわかった。服をまくってみると、赤黒くなり大きく腫れあがっていた。急に痛みがやってきて、胸のあたりにも激痛が走る。
「これ、脱臼してるかもしれませんね、急いで病院に行きましょう!アキラさん?顔色悪いですよ」
「だ、大丈夫だ、それより病院に行こう、すまんタクシー呼んでくるか」
力なく、震える声でしか話せない。
「全然大丈夫じゃないですよ!救急車呼びましょう!」
「大事にするな、タクシーでいいから」
その後、タクシーで病院に行き、救急治療室へ運ばれ診察をしてもらった結果、右肩の脱臼とその肩と肋骨にひびが入っていた。




