3:娘を守るため行動を開始しました。
翌朝、俺は電車に揺られながら、加藤探偵事務所なる場所がないか調べた。二巻に出てきた、晴に事件解決の手伝いをさせる不定の輩だ。
すぐに見つかるだろうと思ったが、なかなかヒットしない。試しに「ねごし 探偵」で調べると、加賀谷探偵事務所というホームページがあった。どうやら彼も漫画とは苗字が異なるようだ。
ホームページの情報をひとしきり確認した俺は、焦る気持ちを抑え、会社に出社した。外回りに出る時間を見計らい、人通りのない公園を選んで電話を掛けた。
「はい、加賀谷探偵事務所です。どんなご用件でしょうか」
眠そうな声で答える彼が、おそらく音御市だろう。彼の探偵事務所は漫画で、若い女の子の事務員兼雑用と彼の二人で運営されている。自動的に彼が音御市というわけだ。
「あ、もしもし、その〜ご相談があって」
「はい、どんなご用件でしょう」
またもや眠そうな声だ。今何時だと思っているんだ。もう10時過ぎだろ。いや、そんなことはどうでもいい。相談内容を何も考えていなかった。
「ん?もしもし?どうしました?」
やばい、何か答えないと。
「あ、もしもし。あのですね、好きな人がいてですね、その人のことを軽く調べてもらえたりしますか?」
思いついたのがそんな内容しか出ず、自分のボキャブラリーの無さに呆れる。
「え?あ、いや、それは、どういった内容でしょうか。内容によってはね〜……」
歯切れの悪い返事。そうか、ストーカーと間違われているのか。
「あ、いや、会社の同僚で、彼氏がいるのかだけ知りたくてですね。とても仲がいいんですけど、同じ会社内だから慎重になっていて」
「はぁふぁ〜あ」
こいつ、返事ついでにあくびしなかったか?
「彼氏がいるかどうかだけでも調べてもらえるのかと思いまして」
しばしの沈黙。どう答えていいか考えているのか、はたまた眠気と戦っているのか。俺は待ちきれず、返答を求めようとしたとき――
「わかりました。とりあえず、一度お会いしましょうか。その時に詳しい話をお伺いします。それでどうでしょう?」
よし!俺は心の中でガッツポーズをとった。
「はい!そうですね、そうしてください!」
「じゃあ、いつがよろしいでしょう。私も暇じゃないので、う〜ん」
見栄張りやがって。漫画ではいつも暇そうにしているくせに。しかも面倒なことは事務の女の子にやらせているようなこと言って、あまつさえ、晴にも仕事を押し付けてきやがった。だんだん腹立ってきた。
苛立ちもあってか、こちらから提案してやることにした。
「明日の夜なんてどうでしょう?」
「え?いや明日は、ん〜、そうですね。夜がいいんですか」
「あぁ、はい。できれば仕事終わりの夜がいいですね。夜であればいつでもいいですよ」
「わかりました。じゃあ今週金曜の夜にしましょう。その方があなたも都合がいいでしょうし」
俺の都合がいい?なんだそれ。疑問が頭に浮かんだが、それよりこいつと会って早く話がしたい気持ちに推されて返事をした。
「今週の金曜日夜ですね、わかりました」
「では、今週の金曜に。詳しい時間や場所についてはこちらからまた、連絡差し上げますよ。電話番号は今かけてもらっている番号でいいですか」
「はい」
「では、お名前伺っていいですか」
そうだ、名前を言わなきゃ。とりあえず偽名にしておこう。晴と接点があると思われても面倒だ。
「かとう つよしと言います」
少しの沈黙。「ありきたりな名前で偽名だとバレたか?」と一瞬焦る。
「あのっ」
「了解です、かとうさん。それではまたご連絡いたしますね。あ、改めて私の名は、**加賀谷 音御市**と言います。一応この事務所の代表ですんで、これからもよろしくです」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
「それではまた」
「はい、失礼します」
通話を終えた俺は、彼の生の声を聴いて、漫画の音吾士がこいつだと確信めいたものを感じた。あの軽薄そうな感じ。他人に共感している態度で話を聞くが、そんなことはみじんも感じない風体の男だろう。
意図せぬ協力者の獲得
昼休憩時間、俺は会社の屋上に上がり、いつものようにパイプ椅子を持って来て座った。晴が作ってくれた弁当を食べながら、音御市との会話を思い返していた。
奴と何とか接点を持って、晴の動向を探る手掛かりにしないとならない。だが、なんであんな内容の依頼をしたのだろうか。適当に断ってもいいが、それではこの後の展開が難しくなる。
「誰か女の子にお願いするか。でもこんな事お願いして巻き込みたくないし、どうしたものか」
「なにそれ、女の子にお願いごとって、何に巻き込みたくないんですか?」
ひょこっと俺の後ろから顔を出して女の同僚が俺に尋ねてきた。誰もいないと思って油断して、考え事がつい独り言のように出てしまっていた。
「おまえ、どこにいたんだよ!」
「そこの裏です。タバコ吸ってるとこ、見られたくないんで」
そう言いながら、持っている缶コーヒーと煙草をこちらに見せてくる。
彼女は安倍 彩。年齢は確か20代後半だったか。性格もよくて見た目も悪くない。だが、男に縁がなく、いつも厄介ごとに知らず知らずのうちに巻き込まれているような女性だ。
「俺には見られてもいいんだな」
「だってアキラさん、知ってるでしょ。飲みに行ったときいつも私吸ってるし」
「そうだっけか。あんま気にしたことなかった」
「あ、ひど。それわたしに興味ないって言ってるのと同義ですよ」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、別にタバコをどこで吸ってたかなんて特にその、何て言うか、気にしてなかっただけだから」
「ええ〜。まぁどっちでもいいんですけど」
(良いのかよ)
「そんな事よりさっきの話なんです?悩みなら聞きますよ?」
こいつならうってつけじゃないかと思ったが、どう説明していいかわからない。どう話したら信じてもらえるのか。第一、巻き込みたくない。
気さくに話しかけてくる後輩をこんな事に……。第一、この問題は俺一人で解決しなければ。できるだけ誰にも知られず穏便に、変化は最小限にしなくてはならない。
「いや、いいよ」
「そんなこと言わないでさ〜。言ってみなさいな、スッキリしますよ?あ!そうだ、今晩久しぶりに飲みに行きましょうよ、そこでたっぷり聞いて差し上げますよ」
「おまえ、そんなだから厄介ごと押し付けられんだぞ」
「それどういう意味ですか」
会社から屋上に出るドアが開かれて誰かが入って来た。
「やっぱいた。こんなところで何話してんすかぁ〜。午後の仕事の件で聞きたい事あったんで、すっげぇ探したんスからね」
そう言って会話に交じってきたのは、東雲 陽助、23歳。大学生気分がどこか抜けない俺の可愛い後輩の一人だ。
「お!いいとこに来たわね、東雲!今晩飲みに行くよ!!」
「え?おごりっすか!」
「ばか、割り勘だっつうの。アキラさんだって男手ひとつで娘さん育ててるんだから、今お金に一番余裕があんの、あんたでしょ、あんたがおごんなさいよ」
「ええ〜勘弁してくださいよぉ。その法則で言ったら安倍さんが一番金持ってることになりますよ」
「ちょっと待て、その前に俺がいつ飲みに行くって言ったよ」
安倍は近づいてきて、俺の頬に触れるそぶりをしながら言ってくる。
「なんですか、アキラさん今日も早く上がって帰るんですか?たまには息抜きも必要ですよ?それにアキラさん少しやつれているように見えます」
「ば、ばか、男にそう簡単に近づいてくるな」
「あ、部長、照れてます?」
東雲が俺をからかう。
「アキラさんと私の中じゃないですか、そんな拒否らなくても。私も女の子なんですよ?傷ついちゃいます」
「ごめん、そんなつもりじゃないんだけど、急に寄ってこられるとさ、びっくりしたと言うかなんというか」
「ふふ、じゃあ、お詫びに今晩一緒に飲みに行って癒してください」
こいつは言い出したら聞かないな。結局飲みに行きたいだけじゃないか。
「わかった、行くよ。いきゃいいんだろ」
東雲を指さし、腰に手を当ててかっこよく安倍は言う。
「よし、じゃあ東雲、いつもの居酒屋予約よろしく!飲み放題で!!」
敬礼して東雲はかしこまってこたえる。
「かしこまりました!阿部軍曹」
やれやれ仕方がない。久しぶりにいつものメンバーで飲みに行くか。確かに最近は、晴とヨルの事で頭がいっぱいになっていたし、気晴らしも必要だろう。そこから何か天機が訪れるかもしれない。
酔いの失敗と決意の共有
その後は、いつものように得意先を回り、あの探偵から電話がかかってくるかもと気にしながら仕事をしているうちに夜になっていた。
居酒屋で、東雲はビールジョッキ片手に立ち上がると敬礼した。
「おとこ東雲!イッキ行かせていただきます!!」
「おい!東雲!無茶な飲み方止めろ」
「いいんですよ、アキラさん。こいつバカなんだから、いいぞ!のめのめ!」
止める俺を安倍は軽くいなし、東雲をあおる。勢いよく飲み干すと次のビールを注文する東雲。
「お姉さん!次のビールお願いしゃす!」
「大丈夫かお前」
俺はろれつの回らなくなってきている東雲を心配して声をかけた。
「ぜえんぜぇんだいろうっぶっスよ!おい!お姉さん、さっきの注文聞こえてる!?」
全然大丈夫じゃないだろ。まったく無茶な飲み方しやがって。そういう俺もあまり得意ではない酒なのに、飲み放題という庶民のペースを崩す魔のコースにつられて、飲みすぎて少し眩暈がする。そろそろやばい、水でも頼んで胃の中のアルコール度数を減らさなければ。
東雲の様子を笑い飛ばしていた安倍は、テーブルから乗り出して俺に問うてきた。
「それで何なんです?昼間のあれは」
「は?昼間に何かあったっけ」
「とぼけないで下さいよ!言ってましたよね、なんか女の子に告白するとかなんとか、私聞いちゃったんですよ。忘れると思ってたんですか!?」
言ってる事がめちゃくちゃだ。こいつも相当酔ってるな。そんな俺は頭が痛くなり、さらにぼーっとしてきた。最近の寝不足と早いペースで飲んだのが、明らかな原因だ。
そんな俺は適当な返事しかできず、言わなくていいことを言ってしまった。
「今度会う人との打ち合わせに必要なんだよ」
「なんです、それ。めっちゃ気になるじゃないですか!?」
「仲良くなる作戦っていうか、なんて言うか、だ〜!!もう!気になんなくていいよ、別に大したことじゃないから」
「気にしなくていいと言うのは気にしろという事であります!軍曹」
敬礼している東雲をしり目に、安倍は言葉を続ける。
「アキラさん、**ピー!**を出させてあげた中じゃないですか!そんな私にも言えない事ですか?」
「え!え?ピーって何ですか!?安倍さん」
「なんかやらしく言うんじゃない!ただのゲロだろ。しかも吐かしたのは俺じゃないか!」
「あれ?でしたっけ?ともかく私のピーに突っ込んでおいて、隠し事ですか?それはないんじゃいんですかねぇ〜」
「え?え??えええ!?それって、突っ込むって最後までってことですか!?それ!どうなんですか!?部長!?」
「ちがう!だから誤解を生むようなことを言うんじゃない!阿部!!吐けなくて苦しいって言って、その後、自分で手を突っ込むの怖いとか言って、お前の手を口に突っ込む手伝いで少し押し込んだだけだろ」
「あれれ?でしたっけ、てへペロ」
「いや可愛くないし」
「なんすかそれ、つまんねー」
「ともかく、悩みがあるなら私に言ってください。いつも話聞いてもらっているお礼がしたいんです」
「いや、別にいい。お前そんなんだから、仕事の面倒ごと振られるんだろ」
「今日は私の事はいいのです!そっか、酒がまだ足りないのね!おっ!ちょうどいいところに!」
東雲のお替りビールを持ってきた店員に、安倍は勝手に俺のお替りを頼む。やめろ、俺は水を注文したかったのだ。
「さ〜お替りが来たぞ!東雲!また景気よくたのむよ」
「かしこまりました軍曹!」
そんな調子で俺は割れるような頭痛と吐き気と、安倍の聞き出そうとする攻撃に抵抗してるうちに、夜は更けていった。
晴の優しさと、揺るがない決意
意識を保ちながら、何とか家に帰り、玄関を開けて部屋に入りベッドに飛び込む。着た服もそのままに、俺は回る世界の中に引きずりこまれる。
「お父さん!もう、ドアもあけたままじゃないの!?」
「晴か、まだ起きてたんだな、わるいけど、ドア閉めてくれ」
「服も着替えなきゃ!スーツがしわになるわ。明日も仕事なんでしょ!?お風呂はいいの?」
晴は俺の服を脱がせてくれ、クローゼットにしまってくれる。普通の年頃の女の子なら、こんな事までしてくれないだろうに、母親の代わりと言わんばかりに、こんな時も俺の世話を焼いてくれる。一度部屋を出て行って水を持ってきてベッド脇においてくれた。
「お水でも飲んで、少し酔いを醒まして寝た方がいいわ」
寝たままの体制で何とかコップを取り、水を口に注ぐ。
「ありがとうな、晴。お前がいてくれてよかったよ。まるで母さんが生き返ったみたいで、俺嬉しいよ」
薫が晴に乗り移ってそばにいるような気がして、なんだか泣けてきた。
「だらしないわね。大の大人がそんなことで泣かないでよ」
飲み干したコップ片手に彼女はお休みを言いながら自分の部屋に帰っていく。
「じゃあね、おやすみ、お父さん、あまり無茶しないでね」
何が無茶なのだろうか。そうか、最近帰りが遅い理由を仕事のせいにしていたから、それで酔って夜遅くに帰ってくれば心配もするだろう。本当に晴はいい子だ。
薄れゆく意識の中、何とか携帯の時刻を見ると、もう0時を回っていた。心配して遅くまで起きて待っていてくれたのだろう。薫に今の晴の姿を見せられればどんなに喜んだろうか。
こんなかわいくて素直な優しい晴のためならば、命をなげうってでも助ける。俺は幸せをかみしめながら眠りについた。
秘密の暴露と協力体制
「いっつ!」
頭が割れるように痛む。仕事の最中は何とか誤魔化したが、昼休憩の時間に屋上でタバコをふかしながら、頭を押さえる。
「飲み放題だといって飲みすぎなんです、アキラさんは」
横にやってきて、煙草に火をつけながら安倍はそう俺を諭した。
「いや、お前の方こそ俺より飲んでたじゃないか、よく平気そうだな」
「私はほら、すぐに吐いちゃうから。で、どう協力すればいいんですか」
「はぁ?何がだ」
「昨日教えてくれたじゃないですか。『それなら私がいいですよ』って言って、『わかったわかった』って、アキラさんが言ったんですよ?」
「俺、そんなこと言ったか」
昨夜の事がよく思い出せない。俺は何をお願いしたのだ?もしや全部言ったのか?痛む頭も手伝って全然思い出せないし、考えもまとまらない。
「言いました。で、どんな奴です、その人」
「どんな奴かって、まだ会ったこともないから。ただ探偵で、薄情っぽいと漫画で分かってるだけだし」
「漫画?」
「今の無し」
「いいやダメです。何なんですか?漫画って何ですか。それと探偵と仲良くなる理由って、わけわかんないじゃないですか」
言ってしまった。流れでまた余計なことを喋ってしまった。というか、どこまで言ったんだ。
「お前、カマかけたな」
「あ、ばれちゃいました?」
「いいからこれでこの話はしまいだ」
「いいじゃないですか、協力しますから。それともこの事、**瀬渡**あたりに言っちゃいますよ?漫画と探偵ってキーワードを彼女に言ったらどうなるのかなぁ」
瀬渡 理恵。事務の女の子で、安倍とは同期。口癖が“ここだけの話”で、この子に知られると一日で会社中に知られる羽目になる。
「それなら、俺もお前の秘密、何個か瀬渡に提供してやろうかな」
「えー!じゃあ私もっ!て、こんな不毛な戦いやめましょう」
「そうだな。それじゃあこの話はおしまいだ」
「そんなこと言わないでください。良いじゃないですか、可愛い後輩が手伝ってあげると言ってるんですから」
自分で可愛いとかいうあたりが可愛くない。それでもここまで手伝うから教えてと言うから考えてしまう。
安倍は口が堅くて義理堅い奴だ。晴ともあまり接点がない。なら打ち明けてみても良いか。どうせ信じないかもしれないし、それでも手伝ってくれると言ったらそうしてもらおうと、事の顛末を語る決意をした。
「いいのか、ほんと。突拍子も無い話であまり言いたくないし、**絶対に秘密に出来るか?**もし約束を破ったら、お前の事一生恨む。本気だぞ」
「そんなにですか!?なおのこと気になりました。絶対に言いませんから、是非教えてください」
「じゃあ言うけど、絶対に秘密だからな!」
「はい!」
屋上に誰もいないか丁寧に確認し、建物内に入るドアを開け、そこにも誰もいないか、くる気配はないか入念にチェックをする。そんな行動をとる俺に、安倍は事の重大さを理解したのか、神妙な面持ちで俺が話し出すのを身構えて待っている。
そして、晴にかかわる話を聞いてもらった。漫画の内容やドッペルが本当にいる話は上手くはしょりながら分かりやすく伝える。そこまで正直に話すとややこしくなりそうだからだ。そしてこの事は、他人はもとより娘の晴には絶対に知られてはならないと釘を刺した。
「なるほど。その漫画の主人公が娘の晴ちゃんと酷似していて、内容も大分現実と近いことが書かれている。そしてこの先、知り合った探偵さんとのことで、もうすぐ危険な目に合うってことですね」
「まぁ、そういう事だ。それから調べて分かった事なんだが、確かではないんだけど、ラストで晴が死ぬように描かれているみたいなんだよ。それを阻止する為にも、晴には絶対に知られるわけにいかないんだ」
「どうしてですか。教えてあげて一緒に解決すればいいじゃないですか」
「俺もそう考えたけど、調べるうちに教えない方が今は良いと判断したんだ。色々とその理由はある。もし教えて未来が速まったり、悪い方向にいったら取り返しがつかないだろ」
「そういう事ですか。なるほど、アキラさんにしてはよく考えましたね」
何か気になる言い回しだが、今は触れずにいてやろう。
「わかりました。じゃあ、そのアキラさんが気になってる好きな子を、私が演じればいいわけですね」
「そういう事だ。だから安倍に特別何かしてもらうわけじゃあないから、普通に生活しててもらって支障はない。ただ、尾行されていると感じる事があっても見て見ぬ振りをしてくれればいい。向こうもプロだから、気づかれるようなことはしないだろうけど、一応今度俺が会った時に風体と容姿が分かればまた話すよ」
「何か面白くないですね。ドラマなんかみたいに恋人の振りとかすると思ってましたよ。残念」
(本当に残念そうだな。こいつの面倒ごとに巻き込まれる性分は根っからだな。と言うか自分から好んで突っ込んでるみたいだ)
「了解です!なら今週の金曜日に探偵さんと会った時に詳しく教えてください。知っていれば、うまく立ち回る事も出来るでしょうから」
まったく、誰も巻き込みたくなかったが、意図せずして協力者が出来た。秘密を抱えるのも辛いところがあったから、話せる奴ができたっていうのは大きい。けど相談をしても大して期待できる助言をもらえやしなさそうなやつではあるが。
「その漫画、3巻まで持ってるんですよね、今度見せてくださいよ」
「さっきも言っただろ。あまり知られない方がいいんだよ。変化は最小限にしたい。そうしないと未来が変わって対処出来ないなんて、そういう事態は避けたいからな」
少し考えるそぶりをして彼女は答える。
「わかりました。とりあえず、何か進展があれば教えてください」
「ああ分かった。すまんな、変なことに巻き込んで」
「なんであやまるんですか。私が無理に聞き出したようなもんだし、気にしないでください」
確かに、その辺は激しく同意だが、元々俺の独り言が原因だ。申し訳なさは残る。だがここまで言ってくれてるんだ、ありがたく御協力願おう。
「やっぱり、漫画見せてくれませんかね」
「……ダメだ!」
こいつ本当は信じてないんじゃないかと思いながら、その日、俺は秘密を共有する仲間を得たのだった。




