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17/19

17:最終決戦!

 

 作者のヨルと話したあの日から一か月が過ぎようとしていたある日、音御市からメッセージが届いた。


“晴ちゃんはお元気ですか、良かったらいつもの場所で飲みましょう”


このメッセージはあのラストに繋がる依頼が来たことを知らせる暗号だ。

 遂にこの時が来たのだ、晴を救うための最後の日か。

そして申し合わせていた時刻7時に三人で集まった。いつものカラオケボックス、俺の横に安倍が座り、向かい側に音御市、これも定番の位置だ。


「さて、早速ですが、会議をしましょう」


「ええ、お願いします」


「あのアキラさん、剛志さんは来てないんですか」


「あいつはとはまだ連絡が取れないんだ、最後にもうちょっと調べてみると言ってから電話にも出ないし、俺の返信が既読になってない、あいつの知り合いに聞いたら、携帯も移動しているし、心配ないからって言っていたが」

安倍は携帯が移動していることに言及してくる。


「なんですかそれ、携帯の位置情報が見られるっどういう人なんですか、その知り合いって」


「ああ、それな、携帯同期しているって言ってた、俺に無事を伝えるためにもしもの時のために剛志がその人としたんだと」


「ふーん、そんな事も出来るんですね、今の携帯って」


危うくシロちゃんの事を言わなきゃならない羽目になるところだった。私の事は絶対に誰にも言わないで下さいとシロちゃんにきつく言われていたのだ。


「残念ですね、彼のバイタリティーと機転には期待していたのですが、良いでしょう、いない人の事をこれ以上言っても仕方ありません、ではこれからの事を話し合いましょうか、と言っても以前から何度も打合せしている事なので、あくまで確認だけになってしまいますが、剛志さんもいないですし」


そうなのだ、三人なら何度もシュミレーションは重ねている、あいつが加われば更にもっと作戦を練れたものを。


一通り確認をしたところで音御市があの組織について語りだした。


 「今度の事もやはり気づいているでしょうね、彼等。あの協会の一件もただのいたずらで終わっているようですし、かなり大きな組織なのは間違いありません、ですが敵対勢力である我々の味方になってくれている組織もかなりのモノです、大丈夫、彼らにもこの事は伝えてあります、全力でサポートしてくれると約束してくれました、目的も一緒だからと言ってね」


「あの時の事は今でも、時折恐怖した記憶がよみがえりそうですが、加賀谷さんがそこまで言うのなら、大丈夫でしょう、作家の方のヨルも同じような事言ってましたから」


「この事を彼女にも伝えたのですか?」


「いえ、連絡先を知りませんし、携帯持ってないそうです、それに住所もありません、彼らに見つからない様にとの配慮だそうです」


「さすが作者のヨルさんと言ったところですか、じゃあこの作戦もきっと大丈夫でしょう」


「私はもしものために、見張りをしながら近くで待機しているだけですか?」

安倍は物足りなそうに言う。


「そうです、あくまであなたはサポート役に徹してください、あなたの役割も重要なんですよ、そのおかげで私たちが思い切った行動がとれるのですから」


「わかりました!しっかり見張ってサポートします」


「加瀬谷さん、しっかりと合図を暗記しておいてくださいね」


「大丈夫です、そんなに多くありませんし、何度もお聞きしていますから」


「了解です、しかし、物事と言うのはイレギュラーが起こるものです、最後は各々の機転にかかっていると言っても過言ではない、なのでそれも想定しての行動に期待してますよ」


「ええ、絶対に晴を救って見せます」


「任せてください」


「作戦は三日後、あの場所で落ち合いましょう!」



そして時はあっという間に流れ三日後の午後五時、廃校近くの公園で集まった。


「お二方、準備はいいですか?」


「ええ、もちろん」


「私はドキドキしてます、でも大丈夫!きっとやって見せます」


安倍はここぞという時に強いんだが、それでも今日はいつもと違って緊張しているようだ。


「そうですか、どっちにしてもやってもらいますがね、それではもう一度おさらいしましょう、私も長くここにいられないので簡単にですが」


音御市は廃校で晴たちと合流する手筈になっている。それも漫画に描かれている事で、偶然を装って、先回りしている音御市と晴たちが出会うという具合だ。


 話がおわり音御市と別れ、何度も下見してわかっているポジション、廃校のフェンス向こうにある草むらに二人で潜んで晴たちが来るのを待つ。物凄い速さで走っている小柄な黒いパーカーを来た男が校舎へと入っていった。奴だ!的場まとば 来希らいき人の命をどうとも思わないくそ野郎だ。あいつを追って晴たちももうすぐここに来る。彼が校舎に入るのを確認すると音御市は校門の前に立ち、彼女らが来るのを待つ。五分かそこらたったころ晴とヨル、それに輝彦がやって来た。音御市と話す晴、これから大変な目にあう事も知らないその顔を見ていると、今にも飛び出しそうだ。


「ダメですよ、先輩」


肩を強く握り、俺を押しとどめる。そうはいっても現にその時を目の前にすると抑えられない衝動に駆られる。ふとヨルと目が合った。俺じっと見つめてくる、彼女の視線から「大丈夫だからじっとしてな」と言われているような気がした。ヨルの奴、俺たちがいる事に気が付いてるな、そりゃそうか。あの後何度も彼女に作戦の事を伝えようとしたけど、あいつは良いと言って全く聞かなかったが、超予測能力がある彼女だ、きっとお見通しなのかもしれない。そうこうしていると、校舎へと入っていく面々、俺もその後に続くべく、急いで走って向かう。


「先輩!無茶しないでくださいね!」

そんなに叫ぶなよ、気づかれるだろ。

校舎に入り三階まで登ると、凄い物音が聞こえてきた。晴たちが戦っている音だ!急いで聞こえた方へ向かい教室の廊下から覗いてみる。


ここまで想定通り、この廃校には音御市と安倍の三人と何度も訪れ、漫画と照らし合わせながら、作戦のシミュレーションを行っているので、大体の展開は読めている。


ここからまた、戦いを繰り広げるうちに、彼を追い詰め屋上へと場面が移るはず。


「くそ!お前は何なんだ!!その力、やっぱりお前も組織の人間か」


壁に飛ばされ、上半身をもたれかかりながら的場が激しく動揺している。漫画の通りだ。


「あれ、思ったよりお前弱いな」

ん?こんなセリフあったか?晴に憑依したヨルが言う。


「やめだ、やめ、後は音御市に任せるよ、警察でも何でも呼んでくれ、こんな奴のためにこれ以上戦いたくねぇよ」

こんなセリフは漫画にはない、なんだ?この心臓が飛び出そうなほどの不安は、これが悪い予感って奴なのか、止めろ!ヨル、予定通りに奴を追い詰めるんだ、そこから先は俺たちが何とかするから。


「いま、お前、なんつった?」

怒りに震え的場が立ち上がりながら言う。


「あ?やめるって言ったんだよ」


「そこじゃねぇ!!お前、俺の事弱いって言ったよなぁ」


「なんだよ、めちゃくちゃ怒ってんな、それで強くなれるのか?漫画とかテレビのみすぎなんじゃないのか?」

やめろ、挑発するな!ヨル、悪い予感はなくならずいっそう心臓の高鳴りが激しくなる。


「うるせぇ!もう許さねぇ、俺は久しぶりにキレたぜ、もう構わねぇよ、全力でやってやるぜ、見られても構わねぇか、どうせみんな殺すし、ああ、それでも上の奴らに追い出されるかも知んねぇけど、よ」


怒りで言葉が収まらないのか独り言を呟きながら、晴にゆっくりと近づいている。

彼の異変に察知して輝彦がヨルに注意を呼び掛ける。


「なんか変だよ、彼、ヨル!離れろ!!」


続いて音御市も冷静に分析したことをヨルに伝える。


「晴さん!いえ今はヨルさんか、どっちでもいい、今は逃げた方がよさそうですね、とにかく彼から距離を取りなさい」


「うるせぇ!こんな奴に俺が負けるかよ」


「くく、どっちにしても逃がさないぜ!お前らもな」

鋭い視線で音御市、輝彦の二人を睨みつける。気圧され彼らも身構えて苦悩の表情を浮かべた。だらりと両腕の力を抜くとぶつぶつと何か唱えている的場、すると彼からもう一人の黒い影のような的場が出てくる。輝彦が驚いて恐怖と驚きが入り混じった声を上げる。


「なんだよあれ」


「あれは、晴さんと同じなのか」


「へー、そんな事が出来る奴がいたのか、まるで私みたいだな、にしても不格好だな、黒くてまるで影みたいだぜ」


「なんだ、お前知らないのか、間抜けだな、てっきり知ってやってるのかと思ったぜ、じゃあ表の連中と関係ないってことだな」


「あ?何言ってんっ!?ぐ…」

ヨルがしゃべっている途中で生み出された分身の手が伸び、晴の首元を掴んだ。


「誰がしゃべっていいって言ったよ、こっからは俺が神だ、俺の許しなく行動することは許さねぇよ!」

あの分身掴めるのか!だとしたら本当にやばいぞ!!

二人は同時に読んだ。

「ヨル!」

「晴さん!」


「この・や・ろぉおお!」

力づくで占められている手をほどけさせるヨル。


「だぁああ!!」

叫び声をあげながらほどき切る、すると伸びた手は元に戻っていった。


「ほう、まだ、そんな力があったとは、じゃあこれはどうだ?」

分身が手を伸ばしたとおもったら、途中で切れて、手の形をした影がヨルに幾重にも襲い掛かる、だが辛うじて避けている。


「すばしっこい奴だったな、じゃあこれならどうだ!」

ヨルにむけて掌を合わせ突き出した、すると影の手が二メートルほど巨大化してすごいスピードで伸びていき襲う。あまりの大きさによけきれず、物凄い衝撃とともに黒板が設置された壁と挟まれてしまう。


「はるーーー!!!」

輝彦が叫ぶ、俺も同じように叫んでしまいそうだった。


「うっせ、あんま叫ばないでくれるか、しかも、俺は今ヨルだぜ」


掌を受け止めながらヨルがかる口をたたき、そして掌を思いっきり蹴り飛ばす。


「無事のようですね、さすがはヨルさん、でもそれでは晴さんの体がもたないでしょう」


「そうだろうな、マジでやばい事になりかねない、しゃあね、ちょっと無理するから晴、明日は覚悟しとけよ」


あの様子なら大丈夫そうだな、でも俺の心臓は高鳴り続けている。どうかこのまま無事に終わってくれ。


「そうか、これもダメか、仕方がねぇ、俺もやってやるよ、お前と同じ事を、だけどな、これをやるって事は正気な俺じゃいられないって事だ、それがどういう事を意味するか、これからいやって程わかるぜぇ!ああ!たまらねぇ!!この高揚感、人をやる時のこの感じ!もっと早くからこうするべきだったんだ!」


そんなセリフを吐きながら彼の分身が重なるようにして入っていく、まるでヨルが憑依していた時の様に。


「なんだ、あいつ、俺と同じような事しやがって」


「でもみて、彼から黒いオーラのようなものが見える」


輝彦が言うように窓場の全身からどす黒いオーラのようなものが見える。


「カっ!!」


小さな掛け声とともに、一瞬にして移動し、ヨルの背後を殴りつけた。


「ぐぁっッ!」


反対側の壁まで吹っ飛ばされてしまった。的場を見るとオーラは拳に集中しており、それをまともに食らってしまったのだ。間髪入れず、一瞬にして詰め寄り連続で殴り掛かっている的場、何発かくらいながらも避けて距離を取る事に成功したヨルが大勢を立て直そうとしていると、そこに黒い掌の影が飛んでくる。ヨルはガードするのが精いっぱいで、攻撃がやむのをひたすらに待っている。


「ヨル!!」


「これはまずい!」


走りだし、的場へと詰め寄る二人だが、影の球を飛ばして壁まで吹っ飛ばされ、返り討ちにあった。しかし、そのおかげで攻撃の手が緩み、難を逃れて晴がさらに距離を置く。

的場はにやついた表情で体をゆらゆらさせ、三人の様子を伺っている、まるで余裕を見せびらかすように。


「二人とも大丈夫か」

ボロボロになり、息を切らしながら二人の安否を確認する。


「ああ、何とか」


「私も無事ですよ、衝撃で気を失いそうになりましたがね」


「よかったよ、こりゃやばいかもしれないな、二人は逃げな」

焦った輝彦が心配そうに尋ねる。


「え!ヨルはどうするんだよ」


「そうです、あなたはどうするんですか、とにかく今は一緒に逃げましょう!あいつは私の知り合いを呼んで何とかしますから」

知り合いって言うのは俺の事を言ってるのか?


「その知り合いってのは、どれくらいで来るんだ?」


「それはあと五分かそのくらいで」


「その間お前らを庇い続けて戦える余裕はねぇぞ、それにそいつにどうにかできるとは思えないな、いいから逃げて、私の事はいいから、いざとなったら逃げるからよ、ちったぁ私の事を信じなさい、あんたたちがいると全力が出せないの」


言葉遣いがころころと変わっている、晴がしゃべっているのか。いや二人同時に喋っているようなそんな感じだ。


「わかりました、行きましょう、輝彦!ここは晴さんに任せます」


「ヨル!絶対だかんな!!」


「ああ、分ったからさっさっといけ」

二人は立ち上がり、教室を出て行く、音御市は廊下にいる俺の方をちらりと見ると小さくうなずく、俺もうなずいて返事をする。


「がぁ!!」

雄叫びを上げ、二人の後追う的場。


「行かせるか!」

同時にヨルも飛び掛かり止めようとするが、軽くあしらうように腕を振って殴りつけた。


「きゃあ!」

今の声の感じ晴だ。


二人に瞬時に追いつくと階段を降りようとした方向に、影のオーラを伸ばしてたたきつけた。それをなんとか避けた音御市は、成行きで上へと続く階段を上る。ヨルは何とか立ち上がり、後を追って追いかけて行った。すぐさま俺も追いかける。どういう事だ。ヨルが戦いをやめると言った処から、展開が全く違う事になってしまった。でも屋上に向かっていくというストーリーは一緒だ、とにかく後を追ってみるしかない。屋上に着くと、今まさに倒れている輝彦に襲い掛かろうとしている的場がいた。それを止めようと間に割ってはいるヨル、強大化された拳がヨルの背中に直撃する。


「がっはぁっ!!」

地面にたたきつけられ悶絶しているヨル。首を高く持ち上げて、やらしい笑みを浮かべる的場。この光景、漫画で見た場面だ、いや違う!立場が逆だ、確かヨルが持ち上げ、歩いて端まで行き、そのまま的場を落とそうとするんだ。だが俺の予想とは違い、的場は晴を地面にたたきつけただけだった。ほっと胸を撫で下ろすが、それもつかの間、そこに追い打ちをかけようとさらに巨大化したオーラを身にまとって殴りかかる。


「やめろー!!!」

俺は思わず叫んでいた。その言葉に手を止めてこちらを見る的場。

ヨルがつぶやいている。


「オヤジ…」


「加瀬谷さん…」


屋上入り口の壁にもたれかかりながらか細い声で俺の名を呼ぶ音御市、相当ダメージを追っているのだろう。輝彦は気を失っているようだ。瞼がピクっと動いたので死んではいなさそうだな。


「音御市、色々と任せてしまって悪かったな」


「いえ、そんな事は、結局私は何もできませんでした」


「そんな事はない、お前はよくやってくれた、後は任せてくれ」


「オヤジ、なんで出てきたんだよ、危ないから隠れてろよ」


「ばか、俺はお前たちの父親だぞ、娘のピンチに駆けつけないで、いつカッコいい所見せられるんだよ」


正直言って何の作戦も無い、ただ晴たちがこのままでは死んでしまうと思って衝動的に飛び出したに過ぎない。だけどこんな俺でも、もしかしたら何かできるかもしれない。


どこからか力が湧いてくる、得体のしれない自信がみなぎって、全力で的場に向けて突進した。ほんの一瞬、目の前の奴が消えたかと思うと、真横に現れ、思いっきり腹部を蹴られた。鈍い音が体の奥から聞こえた、あばらが何本か折れたのだ。たまらずひざを折り、腹を抑えた。口からは唾液が力なく垂れている。声が出ない、息が思うように吸えなくて出せないのだ。


「ひひっ」

彼の小さな笑い声が聞こえたと思うと、背中に強い衝撃が走る。俺は地面に叩きつけられ、うつ伏せで倒れた。一瞬だったと思うが記憶がない。多分意識が飛んだのだろう、俺を呼ぶ二人の声が聞こえる。何てざまだ、かっこよく飛び出しておいて何もできずただやられるなんて、アニメや漫画のようにはいかないんだな。しかし、このまま死ぬわけにはいかない、なんとしても晴を助けなくては!!薄れゆく意識を奮い起こし、身体を起こそうとするが力が入らず、ままならない。


「死ね」

小さい声で確かにそう聞こえた、これは的場の声だ、やばいな、とどめを刺そうとしているのだ。


しかし地響きが起こり、俺にはいつまでたっても攻撃がない。


おかしく思った俺は状況を確認しようとすると寝そべったまま辺りを見渡す、すると横に細い女子の足が二つ立っていた。晴だ、いやヨルか、彼女は俺の横に立っているのだ。


「お父さん、大丈夫?」

そういいながらやさしく抱き起してくれる。


「お前はヨルなのか」

このセリフ二度目だな。


「ううん、どっちでもないよ、私たち(俺達)二人ってところかしら」


「的場は!?あいつはどうした?」


「奴なら、ホラ」

視線の先を見るとはるか後方に倒れてもがいている。


「何が起こったんだ?それにお前、なんかさっきと雰囲気がちがっ、ぐっ」


「ほら、今はあまりしゃべらない方が良いよ、多分骨が何本か折れてるから」

「ほら、今はあんまり喋んな、骨が何本か折れてるぜ、こりゃ重症だな」

二人の声がダブって聞こえる。


「晴とヨルの声が聞こえるぞ!」


「そうなの、お父さんには見えてたんだね、ヨルの奴、秘密が付けないとかウソ行って」


「ウソは行ってないぜ、俺の考えてることが伝わってしまうって言っただけだ」


憑依したまま二人で会話している、初めて見る光景だった。


「なんだよ、その状態、そんな事できたのか」


「いいえ、これは今が初めてよ」

「いいや、これは今が初めてだぜ」


なんか、二人同時で喋られると、何言ってるかわからないな


「そうね」


「たしかに」


「じゃあ、ヨル、おしゃべりは任せるわ」


「ああ、ついでに戦いも俺に任せてくれ」


「ぐうぅ」

頭を振りながら、起き上がる的場。


「やっとお目覚めってところだな」

ヨル達は余裕そうに言いながら的場の方へ歩いて行く。背後から見るヨル達の姿は、二人の姿がダブって見え、的場の様に黒ではなく青白いオーラを纏っていた。大丈夫なのだろうか、あの状態の二人を見るのは初めてで凄そうだけど、強くなったと言えないんじゃないか。


「ぐる“な”」

ごもった声で的場がしゃべった。


「お?意識を戻しかけてやがる、じゃあもう限界だろうな」


的場は掌の影をいくつも放つが、ヨル達はそれを容易くかわし、時にはじき返していた。避けた影の掌が、座っている横の地面に当たると抉れてしまう、どれだけの威力があるのかそれを見ていれば分かる。俺たちに当たらないかと思ってみていると、当たりそうなものは弾いてくれていた。


「ち、もうめんどくせぇ」


呟くと同時に瞬間移動したように的場の横にあらわれて、腹部を蹴り上げ、両手を組むとそのまま背後に叩きつける。もしやあの攻撃は俺にされたことをそのまま返したのか。

そしてうつ伏せで倒れた的場の背後にもう一発、振りかぶって今日最大の一発をお見舞いした。的場からオーラが抜けていく。体をひっくり返して胸ぐらをつかみ、顔を殴ろうとするヨル。


「ま、まってくれ、もうこれ以上されたら死んじまう、助けてくれ」

両手を顔の前に出して命乞いをする的場、プライドも何もあったものではない。


「命を何とも思わないお前が、自分の事になったらそんなこと言うのか」


「頼む、もうこの仕事からは足を洗うから」


「ダメだね、あんたの言葉を借りて言うならわたしがここまでキレたのは初めてなんだ、許せる自信がない」


「くそっぉおおお!!一体何なんだ!お前は!!その力は何なんだ!!」


「そうだな、それくらい教えてやっても良いか、あんたの分身には意識が無かったろ、だけど俺には意識がある、そんな俺たち(私たち)が同じ感情を抱いたらどうなる?それがこの結果ってわけさ(わけよ)」


「そんな事は聞いたことがないぞ!意識がある式神使いって何なんだ!!」


「は?式神ってなんだそりゃ知らねぇよ、もうおしゃべりは終わりだ」


声を遮るように高く首を持ち上げるヨル。


「なんでだ、どうしてこうなった」

首を絞められても喋るのを止めない的場。


「ま、しいて言えば、オヤジを殺そうとしたところかな、あれがなきゃ俺達もこんな風になってなかったぜ、怒りで心が一つになったってやつか?」


ヨルは答えをいいながら的場を屋上端に連れて行っている。まずい!!やっぱり未来は変わってなかった。

痛む体を起こして彼女らの元へゆっくりとだが少しずつ歩み寄る。頼む!間に合ってくれ!


「やめてくれ!!頼む!俺にもう力は残ってないんだ、あの技は一度きりなんだよ、な、だからもうこんな事は出来ないから、たのむよぉお!」


「信じられるか、そんな事、悪いがあんたを許せるほど私にって、あれ??」

喋っている途中で晴の体からヨルが抜け出した。


「どうなってんだ?なぜ抜け出しちまったんだ」


「ごめん、ヨル、やっぱりこうするしかなかったみたいね」


「何を言ってんだよハル!」


「大丈夫、私は死なないわ」

死なない?こんなセリフ漫画にはなかったぞ。


「おい!何する気だって聞いてるんだよ!!」


「たのむ、だずげでぇ…」


「ああ、ごめんなさい、もうあなたには力が残ってないのよね、もうこんなことしないでね、ヨル、この人の事、音御市さんにお願いしといて」


手を放して地面に落とされる的場。


「いだっ」


背中を打ち付けもだえる的場、力を使い果たしたのか、そのまま気絶してしまったようだ。


「ああ、ごめんなさい、ゆっくりおろしてあげればよかった、でもこれまでの事に比べれば、たいしたことないわよね」


「ハル!馬鹿な事はやめろ!!」


「大丈夫、この高さなら助かるから、でもきっと私は意識が戻らない、この体はあなたに譲る、だから幸せになって」


未来が見えているようなことを言う晴、これも漫画にはなかったセリフ。だが似たような事を言ったこの後、晴が飛び降りのだ。読んだ光景と現実が重なる。


「私はいつかあなたにも幸せになって貰いたかった、でも私の意志がある以上それはかなわない、それにあなたに人殺しみたいな事させたくないの、ごめんね、だまし討ちみたいなことして、さよなら」

そう言い放つと晴は屋上から身を投げた。


ここだ!何とか痛む体を走らせて、晴の手を掴み、そして引っ張って反対側に投げ飛ばす。

だが、その反動で代わりに俺が屋上端から落ちそうになってしまう、音御市が持っていたローブを投げて俺に渡そうとするが、ボロボロの俺の体では力が入らず、つかみ損ねてしまう。そして体制を整える事も叶わず、屋上から落ちてしまった。


全てがスローモーションのように見える。

叫びながら立ち上がろうと俺を見ている晴、音御市が苦悩の表情を浮かべて叫んでいた。


 やっぱり誰かが身代わりにならないと、未来は変わらなかった。最初から感じていたことだ、これで良かったのだ、晴は救われヨルも過去に飛ばされることもない。ハッピーエンドじゃないか、晴が言った事が気になるが、こんな今の俺じゃ助からないだろう、これで天国にいる薫に自慢話が出来たな、最高の結果だよ。ふと見るとヨルが俺に飛び掛かってきていた。お前じゃ俺に触れられないだろうが。焦って飛び出したんだろうけど、コイツなら落ちても大丈夫だ。


しかし、すれ違うであろうヨルの手が俺の腕を掴み、反対の手で屋上の端を掴んで、反動を利用して三階の教室に俺を投げ込んだ。

ガラスの割れる激しい音とともに体を激しく床に打ち付けた俺は意識を失った。


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