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16/19

16:本当にお前なのか!?

 島の最寄り駅に戻り、そこから電車で二つ隣の町に行き、レンタカーを借りた。

小一時間ほど走り街を抜け森に入る事、しびれを切らして安倍が行き先を聞いてきた。


「そろそろ、どこに行くか教えてくださいよ」


「なんだ、お前怒ってるんじゃなかったのか」


「なんで私が怒ってるんですか」

それはこっちが聞きたい。


「…キャンプ場だ」


「キャンプ場?」


「ああ、そこは晴と二人で初めてキャンプした場所なんだ」


「じゃあカレーっていうのは、アキラさんが作ってあげたとか」


「安倍はたまに鋭いな」


「なんで、星野さんはそれを知っているのでしょうか、それも彼女の能力の一部でしょうか」


「さぁな、それもあって聞けばわかるだろう」


平静を装っているが、近づくにつれ心臓が飛び出しそうなほど緊張してきている。


あとちょっとで、今までの謎がすべてわかる。

そのまま車を走らせ、辺りは鬱蒼と木々が生い茂る森になっていた。先の島とは違い森の葉は彩り始めて、秋の到来を知らせている。


 目的のキャンプ場が見えてきた。大きな湖、それを囲むように遊歩道が作られ、テントを立てられる芝生広場が広がっている。中央から少し外れた場所には、野外ステージまであった。

とても広い大きなキャンプ場だが、穴場スポットのようでいつもあまり人がいなかった。

車を端に止めてキャンプ場に入り遊歩道を歩く。

そこをそれるような上へと続く、山道の前で俺は立ち止まった。


「この先ですか、手紙に書かれていた場所は」


「ああ、昔、そうだな、また晴が6歳の頃に散歩していると、このわき道を晴が見つけて歩いて登ったんだ」


「上には何があったんですか?」


「何も、ただひらけた場所があっただけだった、けどそこから見る山々がとても綺麗で、晴を肩車して景色を見せてやったんだ」


「素敵な思い出ですね」


「いくぞ」


急な斜面を焦る気持ちを抑え、ゆっくりと登っていく。安倍は平気そうについてきていた。さすがまだ若いだけはあるな。俺は興奮も相まって息が切れて辛いが、それでもこの先に誰かが待っていると思うと休む時間さえ惜しかった。途中木製で作られた階段になり、幾分か楽に上る事が出来た。俺の記憶が確かなら、そんな工事はされていなかったが、後になってできたのだろうか。やがて山道の終わりが見えたあたりで、しゃがんでいる人影が見えた。向こうもこちらに気づいて立って見ている。


「誰かいます!」


「ああ」


荒い息を抑えながらそんな返事をするのがやっとだった。誰かわかりそうな距離になってその人物は、振り返って行ってしまった。不審に思って立ち去って行ったのだろうか、俺は精いっぱいの声を出し呼び止める。


「待ってくれ!怪しいものじゃないんだ」


急ぎ追いかけて行きたかったが、焦る気持ちと裏腹に足は鉛のようになり、思うように歩が進まない。それでも最大限の力で上り続け、ようやく坂の終わりが見え、そこから丸太で作られたログハウスの屋根が見えた。最後の力を振り絞り上り切った俺は、倒れこむようにそのまま地面に腰を落とし、座り込む。安倍も同じく肩で息をしながら横に座っている。


「ようやく来たのね」

声が聞こえ振り返ると、そこにはよく見知った顔があった、いや、知っている姿より随分と歳を重ねている。


「お前はまさか…」


「大分察しはついているんでしょ」


「ヨルなのか」


「そ、やっと来たわね、オ・ヤ・ジ」


「え!この人がヨルちゃん?親戚とかじゃないんですか?大分おばあちゃんに見えますが」


安倍にも見えるのか!どういう事だ、でもヨルだと認めた、一体全体理解に苦しむ。


「そうせかさないの、お二人さん疲れたでしょ、まずは冷たいものでも飲んで休みなさい」


コップを俺たちに渡すと、ポットから冷たい麦茶みたいな液体を注いでくれた。気は動転していたが、まずはこいつを一気飲みしたい。俺たちは一気にそれを飲み干すと、コップを横に置き、息を整えるよう努める。大分体も落ち着きを取り戻せた頃、振り返るとヨルを名乗る女性はログハウスの入り口へと移動していた。


「まずは、二人っきりでお話しましょ、安倍さん、あなたは悪いけど、そこの椅子にでも座って待っててもらえる」


「え?なんで私の名を」


「安倍、わるい、いいか」


「ええ、別にいいですけど」

呆気に取られている安倍をしり目に女性に近づく。


「さ、まずは中に入ってちょうだい」

ドアを開け中へと促す、言われるまま中に入る。


「そこの椅子にでも座ってちょうだい」


暖炉の前に置かれた木製の椅子に腰かける、動くと揺れるタイプの椅子だ、西洋の物語とかでしか見たことなかったけど、こういう椅子ってどこに売ってるんだ?


「ふふ、座り心地悪い?」


俺の心を読んでいるかのようなセリフ。やっぱりこの人。


「いや、別に」


「そう?」


俺が持っているコップにお替りの麦茶を注ぎいでテーブルにポットを置くと、斜め向かいの同じタイプの椅子に彼女も腰掛け、カーディガンを羽織りなおし、足にひざ掛けをかける。


「やっぱり、少し冷えるわね、そろそろ秋だもの、当然ね」

俺には丁度いい陽気だったが、年寄りの体には堪える様だ。


「さて、どこから話していいものやら、想定していたとはいえ、思いつかないものね」


「あなたはヨルなのか」


「そうよ、お察しの通り私がヨルよ、でもなんで年を取ってるかって、それに体も現実世界にある、それが聞きたそうね」


「さすがだな、さすがヨルってところか、俺の心は読めないけど先を見通す力でみえてる、だったか」


「でもね、あなたが知っているヨルより、今の私は力の使い方が上手くなっているし、ずいぶん強くなっているのよ」


「それにしても凄く雰囲気も、性格も変わったように見えるけど」


「そりゃあ、歳をかさねりゃ丸くもなるさ」


「歳を重ねてるって、それじゃあ今のヨルとお前は別人なのか?」


「別人ってわけではないけど、厳密に言えばそうなるのかしらね」


「なんなんだ一体全体、俺にはさっぱりわからない!ちゃんと説明してくれ」


「いいわ、ちょっと意地悪だったわね、じゃあなんで私が歳をとっているのか、全部教えてあげる、私はね、あの時過去に飛ばされたの」


「過去に飛ばされた??」


「そう、あの時っていうのは、オヤジもあの漫画を読んで知っているでしょう、あのラストのシーン、晴が飛び降りた時に助けたい一心で晴の体を動かして何とか助けようとしたのよ、それがどう言うわけか、落ちた場所と同じ十三年前に飛ばされたってわけ」


「それが今のお前って事なのか、ん?ちょっと待て、十三年前って今のお前は俺より若いのか!?」


「ああ、この体の事?確かに70歳ぐらいのおばあさんに見えるわよね、これは私が具現化した代償って奴じゃないかしら」


「ちょっと待て、その身体は晴のモノじゃないのか」


「違う、今の私の中には晴を感じない、入れ替わっていても晴を感じるもの」


「じゃあ晴はどうしちまったんだ?」


「いるじゃない、今は学校に行ってる時間でしょ」


いやまて、そりゃぁそうなんだが、こいつは未来からきたようなものだろう、ならその未来の晴はどうなったんだ、ここにいるのがヨルだけなら、きっとその後に分かれたはずだ。


「オヤジ、考えても仕方ないわよ、私も本を読んだりして調べたけど結局わからなかったわ、だから今ある現実だけを見るようにしたの」


そうだな、仰る通りだ、結局今ある現実を受け入れるしかないのだ、それにしてもヨルは変わった、言葉遣いにしてもそうだけど、思考さえも思慮深くてまるで別人のようだ。ま、いまだに俺をオヤジと呼ぶけどさ。


「そうだな、考えたところで現実が変わるわけじゃないものな」


「それよりもっと聞きたかったことがあるんじゃない?」


「そうだよ、あの漫画、ドッペルをどうして書かせたんだ」


「もちろん、あなたに読んでもらうために書かせたに決まってるじゃないの」


「そうだとして俺が読まないという場合は考えなかったのか」


「忘れたの?私には未来を見通す力、超予測があるじゃない」


「でも、それは限定的なモノじゃないのか」


「少しさっきも言ったけど、あの頃の私の力とは比べ物にないくらいレベルアップしたわ、具現化した時にね」


「そりゃどれくらいだ?」


「見たいと思った人の行動を二十年先以上見通すことができるわ、でもね、未来は枝分かれしていて絶対とは言えないわ、だからオヤジが読む確率を、九分九厘まで上げる努力をしたのよ、結構大変だったんだから」


笑いながら言うその最後の言葉、簡単に聞こえるよう配慮して言っているように聞こえる。相当苦労したのだろうな。


「じゃあ、あの漫画は」


「晴を救ってほしくて書いた、未来が良い方向に進むことを見越してね、だからオヤジにはこのまま思うように突っ走ってもらいたいの」


「突っ走るって、何かヒントのようなものはくれないのか」


「大丈夫、あなたなりに動いていればきっといい未来が訪れるから」


「晴は大丈夫なのか?」


「それは断言できない、枝分かれしているって言ったわよね」


「なら、お前が一緒に行ってアドバイスとかしてくれよ」


「こんなおばあさんを連れて?もう私の体は年寄りよ、休ませてちょうだい、それにきっと大丈夫だから九分九厘」


「100%じゃないのか」


「それはあなたの努力次第で千パーにもなるから、大丈夫、あなたならできるわ」


「それも見えてるのか」


「ま、そういう事ね」


背もたれにゆっくりと体を預けながらウィンクするヨル、その言葉を聞いて安心感が心を埋めていく。


「あの集団、謎の組織は大丈夫なのか」


「あの人たちは大丈夫、もうちょっかいは出してこない、音御市さんからもう聞いてるでしょ?」


どこまで見えているのだ、今までの俺の行動全て知っているのか。


「すべては見えてないわよ、見えてたら恥ずかしくてあなたの顔、まともに見れないじゃない」


何処を見ようとしてる!


「そりゃあ、あなた、夜な夜なしてるとことか、女の子とあんな事やこんなことしてるとこよ、あとトイレで唄う癖、止めた方が良いわよ、誰かに聞かれるとか考えないの」


「心を読むの、やめて貰っても良いか」


「読んでないわよ」


「あと変なとこ見ないでもらって良いですか」


「なんで敬語なのよ、仕方ないじゃない、考えたら見えたんだから」


「相変わらず、意地悪だな、お前」


「そんな簡単にかわりゃ苦労はしないって事ね」


どこかで聞いたセリフだ。


「そりゃそうだ」


「ふふ、前にもこんな会話あったわね」


しわの数は増えても変わらないものだ、意地悪そうに笑うが、それでもどこか憎めないヨルの表情に安心感を覚える。


「そうだな」


「そろそろ、安倍さんにも入ってきてもらって、あの子とも少しお話ししなきゃ、その間あなたは外で待っていて」


なぬ!?俺抜きで何話そうってんだ?


「なに?聞かれたらまずい事でもあるの?」


「別にないけどよ」


「どうせ私には筒抜けなんだから、今さらないでしょ、あと盗み聞きしようとしても駄目だからね、全部わかるんだから」


ちッ、全部お見通しか。


「いい大人が舌打ちとか、みっともないわよ」


「やっぱ読めてるよな!」


「ふふ、いいから、安倍さん呼んできてちょうだい」


俺と入れ替わるようにして安倍が中に入り、木に吊らされているブランコを見つけ、そこに座ってヨルと会話した内容を思い返していた。きっとあいつには見えているのだろう、これからの事もすべて、それを知ったうえであのように答えたのだ、それが最善だと信じているのだ。なら、答えは簡単、俺が最善だと思う行動をこれからもすればいいだけの事。


 未来の事や、これからどうすればいいかなんて教えてはくれなかったが、とてつもない安心感を彼女はくれた。


その後は俺も交えて三人でいろんな話をした。なぜ、その偽名なのかとか、晴たちの名前の違いに意味はあるのかとか、疑問に思っていたことをすべてじゃなかったが、色々教えてくれたが、大した意味はなかった。大体は想像通り、あの組織に知られないためと、俺があの本を読む可能性を高めるため、そしてここにたどり着けるよう書き加えたりしたのだそうだ。気が付けば日が沈みかけ、あたりに暗闇が訪れだしていた。


「さぁそろそろ帰ってちょうだい、晴が心配するわ」


「結構長居しちゃいましたね」


「そうだな、そろそろ帰ろう、また来るからな、ヨル」


「うん」


返事をする表情、とても寂しそうにする。今にも泣きだしそうだ。


「もっといてやろうか?」


「ううん、いえ、そうゆう事じゃないの、ごめんなさい、久しぶりに人と話したからおセンチになっちゃったわ、私らしくないわね、さ、もう帰った、帰った!」


目に浮かべた涙をぬぐうと、俺たちを追い出すようなしぐさで入って来たドアへと追いやる。


「わかったから、じゃあ帰るぞ」


「うん、晴の事、私の事も頼んだわよ」


「ああ、任せろ!」


「私も!ヨルさんは見えませんけど、晴ちゃんの事しっかり守ってあげます、それに言われた通り頑張りますね!」


なんだ?その言い回し、それは二人で話していた事と関係があるのか?


「安倍さん、それ以上は言わなくても大丈夫よ、分っているわ」


気にならないと言えばうそになるが、それは知ってしまえばよくない方向に進むのだろうな。


「じゃあな、ヨル」


「それではまた、ヨルさん!」


「ええ、いってらっしゃい」


今のセリフ、よく聞きなれた言葉だ、いつも晴が言ってくれる。声色が同じだから錯覚しそうになった。

こみあげてきそうな涙をぐっとこらえ、来た方角に振り返り、俺たちは山を下りて帰宅の途に就いた。


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