16:本当にお前なのか!?
参道脇道の先、ログハウスにて
レンタカーに乗り換え、森の中を走る。道中、安倍が不満げに聞いてきた。「そろそろ、どこに行くか教えてくださいよ」。俺が「怒ってるんじゃなかったのか」と聞いても、「なんで私が怒ってるんですか」と返す。その返しは怒っているだろ。
「…キャンプ場だ」
目的地は、晴と初めてキャンプした思い出の場所。手紙の「カレー」とは、その時俺が初めて作って晴が喜んでくれた、あのカレーのことだ。
車を止め、遊歩道を抜けると、手紙に書かれた**「参道脇道」**があった。それは、昔まだ晴が6歳だった頃に見つけ、二人で登った山道だ。その上には、ただひらけた場所があり、肩車して山々を見た、俺たちの思い出の場所。
急な山道を登り、息を切らしながら上りきると、丸太作りのログハウスが見えた。そして、その前にしゃがんでいた人影が、俺たちに気づき立ち上がる。
「待ってくれ!怪しいものじゃないんだ!」
必死に呼び止めながらログハウスに近づくと、その人物はゆっくりと振り返る。そこには、よく見知っているが、随分と歳を重ねた顔があった。
「お前はまさか…」
「大分察しはついているんでしょ」
俺の問いに、その女性は静かに告げた。
「ヨルなのか」
「そ、やっと来たわね、オ・ヤ・ジ」
驚きで腰を抜かす俺たちに、ヨルを名乗る女性は麦茶を出してくれた。一気飲みし、ようやく落ち着いた俺は、核心を問う。
「あなたはヨルなのか」
「そうよ、お察しの通り私がヨルよ。でもなんで年を取ってるかって、それに体も現実世界にある、それが聞きたそうね」
彼女は、俺が知っているヨルとは口調も雰囲気も変わっていたが、俺の心の内を覗くような鋭さは健在だった。
「私はね、あの時過去に飛ばされたの」
彼女が言う**「あの時」**とは、漫画のラストシーン。晴が飛び降りた瞬間、助けようと晴の体を動かした結果、13年前のこの場所に飛ばされてしまったという。
「それが今のお前って事なのか。ん?ちょっと待て、13年前って今のお前は俺より若いのか!?」
「ああ、この体の事?確かに70歳ぐらいのおばあさんに見えるわよね。これは私が具現化した代償って奴じゃないかしら」
しかも、彼女の身体は晴のモノではない。ヨルが未来の晴の肉体から離脱し、この時代で別の身体を具現化したということだ。
「いるじゃない、今は学校に行ってる時間でしょ」と、目の前の晴は無事だとヨルは言う。だが、その未来の晴はどうなったのか、ヨル自身にも分からなかった。
3. レベルアップした「超予測」と使命
ヨルは、俺が次に聞きたいことを見越していた。
「そうだよ、あの漫画、ドッペルをどうして書かせたんだ」
「もちろん、あなたに読んでもらうために書かせたに決まってるじゃないの」
ヨルは、具現化した時に能力が**「比べ物にないくらいレベルアップした」と告げた。限定的だった未来視が、「見たいと思った人の行動を二十年先以上見通すことができる」**ほどに。ただし、未来は枝分かれしており、絶対ではない。
「だからオヤジが読む確率を、九分九厘まで上げる努力をしたのよ。結構大変だったんだから」
彼女は、未来が良い方向に進むことを見越して漫画を使い、俺をここまで導いた。
「晴は大丈夫なのか?」
「それは断言できない、枝分かれしているって言ったわよね」
ヨルは同行を断りつつも、「あなたの努力次第で千パーにもなるから、大丈夫、あなたならできるわ」と、俺に最大限の安心感を与えてくれた。
「あの集団、謎の組織は大丈夫なのか」
「あの人たちは大丈夫、もうちょっかいは出してこない、音御市さんからもう聞いてるでしょ?」
行動のすべてを見透かされていることに驚く俺に、ヨルは意地悪そうに笑う。
「すべては見えてないわよ、見えてたら恥ずかしくてあなたの顔、まともに見れないじゃない」
(夜な夜なしていることや、トイレで唄う癖まで指摘されたが、これは心を読む能力ではないと否定された。絶対に嘘だ。)
ヨルは、俺を外に出し、安倍と二人きりで話し始めた。俺はブランコに座り、ヨルの言葉を反芻する。未来のヨルが最善だと信じて行動しているのなら、俺も自分の信じる道を進むしかない。
その後、俺も交えて三人で話したが、ほとんどは俺が漫画を読み、ここにたどり着く確率を高めるための仕掛けだったという。
日が沈みかけるころ、未来の夜が口を開く。
「さぁそろそろ帰ってちょうだい、晴が心配するわ」
ヨルは名残惜しそうに涙ぐむ。「久しぶりに人と話したからおセンチになっちゃったわ」とごまかすが、その寂しさが痛いほど伝わってくる。
「晴の事、私の事も頼んだわよ」
「ああ、任せろ!」
安倍が「私も!ヨルさんは見えませんけど、晴ちゃんの事しっかり守ってあげます、それに言われた通り頑張りますね!」と意味深なことを言う。ヨルが安倍に何か託したのだろう。
俺は涙をこらえ、ヨルの「ええ、いってらっしゃい」という、晴のいつもの声色に錯覚しそうになりながら、キャンプ場を後にした。




