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12/13

12:敵と呼べる者とは何か。


 あれから数日後、商店が連なるアーケード街で、誰も知るはずのない曲を唄う、女の子の綺麗な声とギターの音色が響いていた。俺は陰からこっそりとその光景を覗き見ている。

唄っているのは晴だ、真剣に唄う彼女の横でヨルの姿が薄らいでいなくなっていく、もしや、晴の中に入っていっているのか。

とても俺が作った曲と思えないほどの名曲に聞こえてくる音の旋律に、観衆は足を止め聞き入っている。

歌が終わると歓声が上がり、その中心で晴はペコペコと頭を下げている、その横でいつの間にかヨルが現れていて、得意げな顔をしている。

それにしてもいつ、俺の曲を覚えたんだ?こっそり俺の部屋に忍び込んで譜面を見たか、はたまた聞いて覚えていたのか、もしかしたらヨルがのぞき見して、晴がそれを聞いてたのか、ほほえましい彼女らの姿を想像してにやけてしまう。晴がやりたい事はもしかしたら、この事だろうか、いつかの俺の夢を、お前も同じように抱いているのか。

もしそうなのだとしたなら、絶対にその夢を追う事が心おおきなく出来るようにしてやるから。


こっそりとその場から立ち去り、どこか誇らしげな俺は、その気持ちを深く心に刻み帰路に着いた。


残暑が残る蒸し暑い夕方六時ごろ、俺と安倍はとあるカラオケボックス店の中へ入る。

自動ドアが開かれ、入ってすぐにカウンターが設置された受付で、男性店員が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」


「あの加賀谷 音御市で予約してあると思うのですが」


店員は調べもせずに、マイク二本と伝票が入った籠をテーブルの上に置くと、説明してくれた。


「かしこまりました、加賀谷様で承っております、ではこちらをどうぞ、お部屋は二階にございます、201号室でございます」


店内は洋風のお城をイメージされた白色で統一された作りで、受付の両サイドに楕円を描いた階段があった。

一階に大部屋と数室の小部屋があり、二階にも数部屋ある作りのようだ。

階段を上がり、角を曲がるとすぐに目的の部屋にたどり着いた。

 部屋の中は長細いシンプルな作りで、トランプを柄としてあしらったグレーの壁が印象深かった。


「音御市さん、まだのようですね」


「ああ、でもすぐに来るだろう、飲み物でも取りに行こう」


一階に設置してあるドリンクバーがおかれてある場所に行き、各々好きなドリンクを入れて部屋に戻ると、そこに音御市はいた。


「や、どうも、お二人さん、ご無沙汰しております」


「どうして!?すれ違ってませんよね?」

挨拶より先に質問が出てしまう安倍、俺も同じ質問が頭に浮かんだ。


「脅かしましたか、すいません、そんなつもりじゃなかったんですが、入れ違いになったみたいですね」


「いえ、こちらこそ驚いてしまって、確かにすれ違ってなかったので」


「ああ、私は非常階段から入らせてもらったので、ここの店長と知り合いでして、店の周りを調べてた後、念のためにね」


今日の音御市は今までとは違い、とても慎重のようだ。


俺と安倍は音御市と向い合せるように座る。


「その位置より少しドア寄りに座ってください」


俺たちは不思議に思いながらも言われるまま、右方向に移動する。


「その辺で結構です」


「なるほど、監視カメラですか」


感心したように安倍は言う。


「まぁ、音も聞こえないはずですし、知り合いですから大丈夫でしょうが、念のためです、さて本題に入る前にまずは、こちらをどうぞ」


何かの土産が入ってそうなデパートの店名が書かれた紙袋をテーブルの上に置き、その中から『ドッペル』全巻を取り出して俺たち二人の目の前に置く。


「揃えたんですか!?」

俺は驚いてそんな言葉しか出てこなかった。


「昨日、ようやくそろえる事が出来ました、苦労しましたよ、さすがの私も時間がかかりました」


「すごい!私でさえ、一つも見つからなかったのに、さすがですね!」


安倍はまたもや感心したように言う。


「こちらは持って帰ってもらって結構ですよ、まずは加瀬谷さんが読んでもらうのが良いでしょう」


「ありがとうございます!」


「いえ、実はあれから、4・5巻とほどなくして見つかり、信条を考えればすぐにお知らせするべきですが、内容もさほど重要性があるものではなかったというのもありますが、なんせ入手経路が特別で危険性を考えればすぐには無理だったんです、すいません」


確かにすぐ知らせてほしかったが、色々とあるのだろうな。


「謝らないでください、こうやってそろえてくれたことに感謝こそすれ、謝られる筋合いはないですよ」


「そう言ってもらえると、罪悪感も薄れます」


「それで、もう内容は読まれたのですよね」


鼻息荒くして安倍が音御市の見解を求める。


「ええ、暗記するほど何度も、少し長い話になりますが、話してもよろしいですか、これまでの経緯と、これからすべきだと思う事を」


「ええ、お願いします」

横にいる安倍もうなずいて返事をする。


「まず、先ほども話しましたが、思い当たる店を数件探して、4と5巻はすぐに見つかりました、読めばわかるのですが、5巻最後のあたりで、謎の組織をにおわす演出がなされています、普通ならこれからどうなるのか気になる展開ってだけで終わりますが、この漫画に関して言えば、これは現実の出来事です、この組織は現実にいるという事になります、なので私はここからさらに、慎重にこの本の事を調べました、数ある情報屋の中から信頼がおけるものだけに依頼し、なるべく私がこの事を調べていることが広まらない様、気を配りながら、そのせいもあって調査速度を下げざるおえませんでした」


そこで話を区切り、お茶を一口飲んで考えを整えるようにしている音御市。

俺が思っている以上に音御市のしてくれていることは、相当に難しい事のようだ。


「そして6巻以降が難航しました、探偵仲間にも依頼したりと色々としましたが、見つからない、このまま見つからないのかと思う程でした、がしかし、それは意外なところから見つかりました」


「どこで見つかったんです?」


早く続きが聞きたいのだろう、一息入れる間さえ与えるのがもったいないといった感じで安倍は催促する。


「事務で働いてくれている親戚の女の子ですよ、あえてこの事を彼女には伏せていたのですが、ダメもとでこの漫画の事を聞いてみたんですよ、読んだことあるかって、そしたら持ってたんです、8巻まで、灯台下暗しとはよく言ったものですね」


「ちょっと間抜けですね」

安倍が半笑いで言う、正直俺も笑ってしまいそうだった。


「まったく、私もこんな事なら早く言っておけばよかったと後悔しましたよ、でもこの子は、もしかしたら晴さんに会う事になるかもしれないから黙っておきたかったんですけどね、出来るだけ晴さんの周りで真実を知るものは少ない方が良いので」


 よくある話だ、俺も仕事上で似たような経験をしたことがある、どうせ駄目だろうと思って行かずにいた得意先に、たまたま用事で寄った時に訪ねたら仕事がもらえたなんてことがあった。


「話を戻しますね、それから9巻、想像した以上に見つかりませんでした、ですが漫画のコレクターに会う機会を得まして、その人に何とかストックを譲ってもらいましたよ、相当骨を折りましたが」


「私たちだったら集められたかどうかわかりませんでしたね、アキラさん」


「ああ、本当にありがとうございます、加賀谷さん、これからの事ですが、私たちが読んでからが良いでしょうか」


「いえ、ここで先に私が思うこれからの事を話させてください、思った以上に晴さんの危険が及ぶまで時間が短いようですので」

なんだと、それは晴が死んでしまう様なことが起きるまで、時間があまりないという事か。


「もうラストまで時間がないという事ですか」

安倍は気遣ってそのように表現して音御市に問う。


「ええ、そうです、なのでこのまま漫画の感想とこれからどう行動すべきか私が思う事を言わせてください」


「わかりました、聞かせてください」


お茶を又口に含むようにして飲み、長い話になる予感をただ寄せながら音御市は話し出した。


「私は手に入れた本をすぐに読みました、その間に晴さんと現実で出逢う機会は度々ありましたが、すべてが漫画に描かれているわけではない事を確認します、あとやはり、晴さん視点でしかこの漫画は描かれていませんでしたね、それから6巻あたりから出てくる宿敵“的井(まとい)”彼について色々と調べます、本名は的場来希(まとばらいき)、漫画では的井忠信(まといただのぶ)、初めて名前が異なる存在でしたので、探すのに苦労しました、なんせ情報量が少ないので、彼は呪いの類を使ってディープウェブサイトを通じ暗殺の依頼を受け、金儲けをしている人物です、結果から言うと彼をヨルが殺してしまいそうになり、それを止めるため晴さんは飛び降りて死んでしまうといった内容なのです」

晴が自殺する!?それが答えなのか、だがその原因は悪い男によって引き起こされるという事だ、なら。


「的場来希、こいつさえいなければ」


「加瀬谷さん、お気持ちは分かりますが、そんな類で解決する問題じゃないですよ、彼のバックには大きな組織が絡んでいます、それも政府さえ巻き込むような、なので彼がいなくなったところで、代わりのモノが現れ、今度は逆に晴さんが倒さるか、勝ったとしても同じ決断をしてしまう可能性が高い」


話が大事になって来たな、それでも晴が助かる可能性があるのなら俺はいとわない、たとえ誰かが犠牲になろうとも、自分の手が血で染められることになったとしても迷わずそれを選択するだろう。


「でもそんな人いるのでしょうか、名前だけが独り歩きして、存在しないなんてことも都市伝説でよくある落ちですよね、その組織も」


安倍は俺が深く憎しみに震えている姿を、見かねて音御市に聞いてくれた。


「彼は実在します、その世界では有名のようで、必ず依頼は成し遂げ痕跡を残さない暗殺者だそうです、晴さんたちが関わるとなると、やはり生霊を操る事が出来る能力だと推察できます、そのように描かれていますし、そして彼の痕跡をたどると、ある時は自殺に見立てたり、病を煩わしたりとそんな事をしているようです、ですが、姿かたちをとらえる事はできませんでした、漫画でもようやく9巻になって晴さんたちの前に姿を現すようなので、決して表舞台には出てこないでしょう、私もこれ以上突っ込んで調査するのにためらいすら覚えましたから」


「すいません、思った以上に危ない橋を渡らしているようで」

もうこれ以上、音御市に迷惑をかけるのは止そうと思った。ここからは俺一人でやるしかない。


「大丈夫です、私はこういった事が本業ですし、こんなこと何度もこなしてきました、ですので、一人でやろうとか考えないでくださいね」

全てお見通しか、さすがだな。


「それでこれからの計画ですが、まずはこの漫画のラストに繋がる話の展開が10月頃と予想できます、開始の合図ははっきりしていて、私のところに一家心中をした家族の調査が舞い込んだ時です、漫画を読んでもらえればわかりますが、そこから事件は転がるようにして大事になり、廃校になった校舎で決戦が行われます、その時に私たちで晴さんを救う、それから漫画の事を晴さんに打ち明ける、大まかに言ってそんな具合です」


「それだけですか!?」

つい興奮気味に言ってしまう、続いて安倍も興奮して言葉をはさむ。


「そうですよ、この際この事を晴ちゃんたちに言ってしまえばいいじゃないですか」


「いえ、これは言ったところでどうにかなる話ではないのです、何故なら今も晴さんはヨルを幸せにするためにはどうすればいいか悩んでいるようなので、そのために出した結論がラストの自殺です」


「そんな、じゃあ、もし助けたとしても晴ちゃん、自殺しちゃうんじゃないですか」


「いえ、決してそんな事はない、自殺というものは、往々にして計画的にできるものではなく、ふとした思い付きによって起こる事象なので、今もしこの事を打ち明けて話したとしても、そんなわけはないと彼女は突っぱねるでしょう、でもいざ、この状況に置かれたとき、彼女は同じ結論にたどり着き実行する、なので一番は自殺をする時にそれを食い止める事です、統計学的に言っても、自殺を食い止められた人は、再び同じ行為をすることは極端に少ない、こと晴さんに関して言えば、ヨルさえ説得できればもうしないはずです、ヨルも応じるはず、生存本能の塊のような彼女だ、きっと大丈夫です」


冷静に話す音御市の会話を聞いてはいるが、全然頭に入ってこない。

だって彼は晴が死ぬかもしれない直前まで、何もするなと言っているように聞こえるからだ。断じて容認できない、俺は必ずそれまでに的場来希を探し出して、亡き者にしてやる、そしてその背後にいるという謎の組織とやらをぶっ潰してやる。まずは武器が必要だ、スジモンに言って重火器を集めなくては、貯金だけで足りないだろうな、カードで現金を借りれるだけ借りてそれから…


「加瀬谷さん!」

「アキラさん!」

同時に二人の呼ぶ声にハッとなり、顔を上げる。


「どうしたんだ、二人とも」


「凄い顔してますよ、アキラさん」


「え、そうか、どんな顔してた」


「今にも人を殺しに行こうって顔です」

確かに人をぶっ殺しに行く算段を考えていたから正解だ。


「加瀬谷さん、落ち着いて、危ない考えは止してください、今の話はあくまでこのままならの話ですから」


「それは、どういうことですか」


「話を続けさせてもらって大丈夫ですか、ここからが肝心ですので」


「アキラさん、冷静になってください、きっと訳があるんですよ、音御市さんも」


「ええ、そうなんです、話す順番が悪かったですね」


どんな訳があるというのだ、ただ指をくわえて見てろ、というその訳とやらを聞こうじゃないか。


「すいません、つい娘の事となると熱くなるもので、なるべく冷静に聞くようにしますので教えてください」


「いえ、私も迂闊でした、順序だてて話すべきでしたね」

一段とやさしい目で俺を見ながら言う音御市、そんな彼を見ていると感情的になってしまった事に罪悪感を覚える。

安倍は俺達二人の様子を見ながら話を切り出す。


「それで、どうして晴ちゃんにあまり干渉してはならないのでしょう」


「先ほども言いましたが、それはこのままならと、言う場合のみですが、その可能性が今は高いのです、この漫画が少ない理由、考えたことありますよね、皆さんは今の話を聞いた上でどう思いますか」

素直に思ったままを口に出す。


「どうと言われても、単に人気がなかっただけでは」


「いえ、人気はそれほど悪くはかったようです」

何か思いついたのか、目を見開き安倍が答える。


「あ、わかった、誰かが買い占めていたんだ、それが謎の組織の仕業という事ですね」


「ご名答、正解です」


指を弾き、安倍を指さしする音吾士、そしてそのまま話を続ける。


「この組織、実は私がずっと前から探している奴らなんです、空良さん以前お話ししましたよね、同僚を私が亡くしていると」


「ええ、仰ってましたね」


「彼等に消されたんです」

衝撃の事実を聞かされ言葉を失う。


「うそ、そんな事って」

安倍も信じられず、口を両手で押さえ驚いている。


「驚くのも無理ありません、こんな話は空想の中でしかないと一般の人は思うかもしれませんが、事実です、彼、佐倉さくらは、ある奇怪な事件の調査をした結果、その組織の関与に行きつき、その事を上層部が知ると調査を打ち切りました、それが納得できないと佐倉は上司に詰め寄りますが、結果は変わらず、なら内密に調べてやると行動していた時に謎の転落死をします」


安倍が察したように言う。

「それってもしかして的場の能力で」


「ええ、恐らく、的場来希の仕業でないにしても、それに連なる組織の仕業でしょうね、なのである程度こいつらの事は知っています、組織の名前は“ハタガラス”多分彼らの仕業でしょう」

その名前に良く似た言葉を聞いたことがある、たしか古史古伝に伝わる伝説上の生き物だ。


「彼らは昔から日本で暗躍してきました、古い書物にも存在が確認できるほどの組織で、いつからいたのか、それはもう古い時代、私の調べでは弥生時代より少し前か、あるいはその後か、いずれにせよ、発祥はとても古い時代からいたと思います、そして今もこの国を拠点とし、世界を裏から糸ひいている組織です、多分ね」


「なるほど、それで音御市さんは都市伝説のサイトを運営したりして、彼らの事を探っているってわけですか」


「さすが安倍さん、察しが良いですね、その通りですよ」


「えへへ」

そんな事を言われて頭をポリポリ書きながら照れている。


「そう、私は佐倉を失ってから刑事を止め、探偵業の傍ら、密かに彼らについて調べていいました、都市伝説サイトもその一環です、都市伝説というものは実際にあった出来事に尾ひれがついて広まった話でしょうが、火のない所に煙は立たぬ、ということわざがあるようにそこに真実が隠されている、私の経験則ですがね」


彼の話を聞くうちに頭が冷えたのか、俺は冷静になって話を聞いていた。


「話を少し戻しますと、彼らはこの漫画の存在を的場が出てきた連載中の月刊誌、巻数で言うと8巻あたりの話で気が付き、それから回収を始めたのではと仮定します、それを知った作者は連載を止め、9巻を一年後に出した、そう解釈すると、ドッペルが載っている月刊誌の部分だけが極端に少なく、単行本が見つからないという全ての辻褄が合うわけです、そして彼らは、この話が真実で未来の話だとさすがに今は気づいていない、ですが、現実世界で今物語の佳境部分に入りつつある、さすがの彼らもその事に気が付くでしょう」

そうか、音御市が言いたい事が見えてきた。


「そうですよね、異形の能力を操る連中です、気が付かない方がおかしい」

俺が口にしたことを同意するように横で頷く安倍。


「そうです、こんな調査を堂々としていたら、彼らの監視対象として我々も入る事になる、そして晴さんを助けようとするときっと妨害をしてくるでしょう、それこそ命を狙われるほど、それは晴さんの存在は彼らにとっても邪魔な存在ですから、このまま亡き者になってくれた方が良いと考えるかもしれません、それとも晴さんを取り込もうとするかも、どっちにしても派手に我々が動けば、すべてを知っていると気づかれ、消される危険があります」


言いたい事が大分わかって来た、俺たちが置かれている状況を音御市に聞いてみる。


「だから、今はあまり干渉しない、気づいていない様に動く必要があるという事ですね」


「ええ、空良さん、酷なようですが、今はそれが最善だと私は考えます」


「でも、それはこのままなら、って言いましたよね、それは作者に会う事が出来れば何らかの解決方法があるという事ですか」


「安倍さん、いつも察しが良いですね、そうです、この作者はきっとすべてを知っていると思うのです」

俺は、納得してはいない、だが理解はしたつもりで口を開く。


「そうですね、私もそう思います、そして相手は強大、ここからはさらに、慎重に作者を捜索しましょう」


今は音御市の言いたい事をすべて理解した。どんなに人の命が係わる事といえ、音御市にとって晴の事は、結局のところ他人事だと思っていたが、彼にも因縁のある話だったのか、必死になって調べてくれる理由が他にもあったという事だな。

やる気を俄然出てきたように安倍が言う。


「そうですね、音御市さんほどじゃないにせよ、私も最大限力になりますよ!先輩!!」


「ありがとう、安倍」


「ここはひとつ、お互いの無事と晴さんの展望を祈って堅い結束を結びますか」


そう言うと音御市は掌を前に出す、安倍もその上に手を重ね、俺もそこに手を置く。互いの目を見合わせ、固い決意を確かめる。


「相手は強大です、ですが決してスキがないとは言えない、同じ人間ですから」


「ええ、奴らを出し抜いてやりましょう」


安倍は力を込めて俺たちの言葉に続く。

「私だって力になります」


音御市は言葉の語尾を、号令の様に強い口調で言う。


「まずは作者を皆で探します、やってやりましょう!」


「ええ!絶対に晴は助ける!!」


こうして長い会議がおわりを告げる。

互いにこれ以上話さなくても分かり合えたと思えるほどに、熱い想いを交わした。安倍はどうだろうな、俺を宥めてくれて、時折涙していたように見えた。この数日、俺の中で安倍の印象ががらりと変わったように思う。


以前は男勝りで、時折女の部分を出す、頼りになる部下程度に思っていたが、今は思いやりがある優しい女性で、ちょっとエッチぃ部分がある大人の女の子という、相反する表現が似合う奴だなと思うようになった。よくこんな危険が多い事に、付き合ってくれるものだな。それも彼女の性格の好さがなせる業だろう、ありがとうな、安倍。


兎にも角にもたくさんの事がわかり、こうしてこれからの展開がより明確になりまた一つ前進した。決して明るい未来が待っているわけではないが、それでもやり遂げなければならない、命に代えても。


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