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10/19

10:一人で出来る事なんて限界があるってこどだな


「あの探偵、全部見透かしてたんですか!」


安倍は驚きの声を上げながら、俺に喋りかける。あくる日の昼休憩、最近は毎日安倍といつもの屋上で作戦会議という名の雑談をしている。


「そういう事になるな」

「じゃあ私が付けられていると気づいたのは、ワザとだったという事ですか」

「だろうな、あの口ぶりから察するに、安倍の尾行はただの記念だそうだ」

「何の記念でしょうか、それにしてもあの漫画とイメージがずいぶん違いますね」

「音御市が言うには晴の視点で描かれているからだそうだ」

「なるほど、じゃあダメな探偵を晴ちゃんの前では演じているという事ですね」

「そう言ってたよ」

「それを含めて音御市、きゃつは中々な切れ者ですね、伊達に元デカの探偵ではないってところですか」


「それが今度は味方になってくれるんだから」

「ええ、今度は三人で今後の事を話し合いましょう」

「でも安倍、良いのか、この先危ない目にも合うかもしれないぞ」

「何言ってんですか、ここまで来て仲間外れはないですよ、最後まで付き合います!」

「ありがとうな」


三人での顔合わせ

時刻は過ぎ夕方五時半頃、会社からほど近い喫茶店に三人で顔合わせをすることになり、俺と安倍は一緒に店に入ると、彼が奥のテーブル席で手を上げて手招きしている。


「お待たせしました」

「いえ、私もさっき来たところですよ」

「あの、初めまして、じゃないですよね」


「ええ、よく存じてますよ、安倍彩さん、ウソの依頼と分かっていても依頼は依頼、しっかり調べさせていただいたので、あなたも私の事を知っているでしょう、ですが顔を合わせて話すのは初めてですよね、どうぞ、よろしく探偵の加賀谷音御市です」


二人は軽い挨拶を済ませ、アイスコーヒーをそろって注文した。


「これ、ありがとうございました」


漫画の入った紙袋をテーブルに置き俺に差し出す。


「それではこれからの事話し合いますか」

「ええ、お願いします」


「まずは、順序を決めましょう」

「順序?」

「ええ、目的の順番です」

「それは娘の晴が命を落とさない事です」


「それは当然として、そのために何が大切かって事ですよ」


「それ、私も思ってました、まずは作者を探すことが先決なんじゃないかって」


「そう!その通りです、まず第一に作者の捜索、それで次に全巻漫画をそろえる、そして最後にヨルは何者なのかといった具合ですね、晴ちゃんの動向はこの際どうでもいいんですよ、最終巻まで無事なのはわかっているのですから」


「え、でも」

「お父さん、娘さんを心配する気持ちは分かりますが、冷静さを欠いては駄目です」

「そうですよ!アキラさん、こういう時こそ冷静な判断が必要なんですから、今は物事をフラットに捉えて何が重要かだけに集中しましょう」


「わかっていますね、安倍さん、その通りです、何事も冷静沈着でなければ物事は解決しません、そこに感情を入れていては、遠回りになりますし、最悪な結果につながりかねませんから」


「すいません、つい…、そうですよね、晴が死ぬこともまだ確定してませんし」


「晴さん、というかあの漫画のラストで主人公が死ぬのは間違いないみたいです」


「本当ですか!?」

「うそ…」


安倍は信じたくないといった表情を浮かべながらつぶやく、俺も全く同じ気持ちだ。


「ええ、その手の事に詳しい奴に聞いたのですが、あの漫画が終わった頃、ラストに主人公が死んでしまう事への批判的な書き込みがネットであふれかえっていたようですが、出版社の都合でことごとく、すぐに消されたようです」


「今どき珍しいですね、漫画への書き込みは、大抵その程度では消されないはずですが」


「出版社に圧力をかけられる組織という事になります、その点で言えば大きな組織と言えるでしょう」


音御市からの情報共有

音御市は手帳のページを切り取り、書き出しながら説明してくれる。


単行本は1~9巻まで出ているが、月刊誌の連載は8巻の終わりで終了。


公には作者の**「くまいのち」**が病に伏したため終了と言われている。


9巻は連載終了の1年後に出版されたが、部数は非常に少なく、当時読者でさえ発売を知らなかったほど。


「これは、本屋の知り合いと情報屋に調べてもらったからわかった事ですよ、ネットの情報なんてただのものさし程度にしか使いません」


「さすがプロって感じですね」


「話を続けますね、それから作者の情報ですが、まったく足取りがつかめません、組織的に意図されて隠されているとしか考えられない、となると是が非でも出版社の関係者に、裏からコンタクトを取らないといけないので、時間を要する事になりそうです」


「組織的って何か大きな陰謀というか、そう言ったものが絡んでいるのでしょうか」


「それはわかりません、今のところの印象でそのように感じただけですから、ですがもしいるとしたならば、出版社に圧力をかけられる組織という事になります」


本の捜索:月刊誌の方も含め、今のところ見当たらない。


「その点に関しては私も心当たりがあるんですよね、アキラさん、大きな書店しか探してないでしょうけど、こういうのって古い小さな書店の方が見つかりやすい気がしますよ」


「さすが安倍さん、漫画愛好家なだけはありますね、その通りです」」


ヨルの存在:


「私も生霊という奴、あれ、ぼんやりですけどわかるんですよ。そしてヨルとされているドッペルゲンガーですが、晴さんの影のように見える事があるのでいるのは確かですね」


「加賀谷さんははっきり見えるそうですが、最初からじゃないんでしょう?どうやって見えるようになったか詳しく聞かせてください」


俺は恥ずかしさを押しとどめ、あの公園で逆上がりして見えるようになった経緯を説明した。


「真夜中の公園で、ですか、中々シュールな絵ですね、それは」


「しかしそれで、見えるようになるなら試してみる価値はありますね」

「そうですね、私も早速帰りの公園でやってみるのでアキラさんも付き合ってくださいね」


ヨルの正体:


「私も他の世界線の晴さんじゃないかという考察に行きつい来ました、専門家に例えばの話として伺ったら、何かのはずみで二人の間に、亜空間が開いてしまい、吸い寄せられるように出会ってしまったのではないかと言われました」


「魔術的な事じゃなくてですか?」

「それも含めての話ですよ、魔術の類は別の空間から呼び出すという意味でも、同じ結論になるわけです」


晴からの問い

「今日はこの辺でお開きにしましょうか」


「わかりました、私もあまり遅くなると晴も心配しますし」

「え!?帰っちゃうんですか、この後飲みに行くんじゃないの?」

「いかねぇよ」

「ええええ~、アキラさんとじゃなきゃ嫌だ」


「今日は勘弁してくれ」


その後もしつこい誘いを何とか断る事に成功した俺は、晴とヨルが待つ我が家へと帰宅した。急いで帰ると、もう晩御飯を支度して待っていてくれた。


「お帰り、今日は早かったね」

「ただいま、今日はとんかつか、うまそうだな」

「丁度いいところに帰って来たわ、さっき揚げたばかりだから」


「私、結婚しないよ、きっと」

「馬鹿なこと言うな、子供は欲しくないのか」


「お父さん!?何?なんで泣いているのよ」


花嫁姿の晴を輝彦に受け渡す場面を想像してしまい、自然に涙がにじみ出てきそうになったのを悟られた。


「すまん、変な想像してしまって」

「私がいないとダメなんだから、ほんとに」


「ねぇ、お父さん」

「なんだ」

「いい人でも出来たの?」


「なんだ、急に!?」


「仕事だって言ってるけど、最近ずっと帰りが遅いじゃない」

「本当に?」

「前に送ってくれた女の人でしょ」


「だがら違うっていってるだろ、あいつはただの飲み仲間の同僚だ」

「うそだ!だってあの人お父さんの事、多分好きだよ」


「お!?何々?夫婦喧嘩か!!」

窓をすり抜け入って来たヨルが俺たちをからかってきた。


「ちがう!」

「ちがう!」


「へ?」


「ただの同僚で、あ、あいつが俺の事好きなわけがないだろう!ん?晴、お前まで違うって何だ突然、俺が言おうとした事と被ってびっくりしたぞ」


「あ、はは、いや今、父さんがきっとそういうんだろうなってとっさに違わないって、つられて言っちゃただけよ」


「まったく晴よ、お前みたいなのってファザコンって言うらしいぞ、オヤジも大概だがな」

「片付け済んだから私、先にお風呂入るわね」


風呂場に向かった少し後、トイレに行く振りをして聞き耳を立ててみる。


「もう!お父さんの前では静かにしててっていつも言ってるでしょ」

「だって楽しそうだったんだからしょうがないだろ」


ヨルと話しているときの晴はいつも怒っているように思うが、俺でもそうなるだろうな、だってあいつは幼稚で自分勝手すぎるから。


「もしや悪魔的なものがヨルの正体なのか、召喚してしまったという安倍の予想も案外当たっているのかも」


いっそヨル本人に聞いてしまいたいとこだが、あいつが俺のいう事を聞いてくれるとは到底思えない。なら晴にも打ち明けてしまえばいいのかとも思うが、それこそ一番危険だ。万が一俺が身代わりになって死ぬかもしれないといったら、晴はそれを許さないだろう。


自己犠牲が強い彼女だ、自分が我慢すればいいと、子供らしくない素振りを幼いころより見てきた。だから今は見守るしかできないのか。

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