続・元〇〇ですが。〜妻の独白〜
白いベッドで眠る夫。
『先輩が事故に巻き込まれて、病院に運ばれました!』
夫の会社の後輩から連絡があった時は、大きく心臓が跳ね、目の前が真っ暗になった。
けれど、夫はどうにか持ち堪えてくれた。
数日が経ち、やっと規則正しくなった寝息を、顔を近づけ何度も確認してしまう。
きっと、もう大丈夫だわ。
夫はちょっと浮世離れした人だ。慣れない会社勤めで心が折れてしまわないように、私は何度も鬼嫁になってお尻を叩く。
本当は、彼をデレデレに甘やかしてあげたいのだけど……。寝言で何度も聞いた相手につい嫉妬してしまう。
「――くそ! 勇者め、次こそはっ」
ほら、また……。
思わずイラッとして夫のほっぺを抓る。
「でもまあ、無事だったから良かったわ」
私は真っ白の天井を睨む。
よくあるファンタジーのように、勝手に転生させられたり、召喚されたりしたら堪ったものじゃない。
私は心から彼を愛しているの。
ある意味、私と彼はロミオとジュリエットのようなもの。一緒になるために、どれ程の苦労をしたことか。離れるなんて絶対に嫌よ。
私は過去に禁術を手に入れた。かなりの危険をおかしても、絶対に必要なものだった。まあ、私だから出来たのだけど。
「たまには、聖女の夢をみて。恋敵になんて負けたくないわ。聖女は誰よりも魔王を愛しているのだから」
魔王討伐の最後の時――聖女は魔王を封印するのではなく、魂を異世界に転生させる禁術を使った。
そう、魔王と聖女ふたり一緒に。
「退院したら、あなたの好物を……唐揚げをたくさん作るわ。いつもは、控えめにしている甘い物もね。せっかく禁術まで使ったのだから……早く元気になって、私の魔王様……」
寝ずの看病のせいか、ついに睡魔に負けてしまった。
◆◆◆
――どういうことだ!?
俺の手を握りながら、椅子に座ったまま眠る妻の後頭部に視線を落とす。
「元魔王だって気づいていたのか……」
俺は敵である聖女に心惹かれていた。彼女の手によって、良くて封印、悪くて消滅させられると思っていたが、なぜか違った。
「ずっと、聖女と勇者はできていると思っていたが……。悪いが、もう離してやれん」
こっちの世界でも、ひと目見た時から妻に惹かれた。
「愛している……俺の聖女」
妻の髪をそっと撫でると、「……うぅん……」と唸る。嫌な夢でも見ているのだろうか。
「……絶対に、勇者たちから……魔王の貞操は守ってみせる」
え?
更に続く妻の寝言に、俺は震えることしか出来なかった。
「えっと……愛してる。これからも、永遠に俺を守ってくれ」
どうやら妻は、いろいろな意味で俺の救世主だったらしい。