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奇妙な来客

山奥の谷間の山小屋。

そこに身を潜めるようになってから、しばらく経った頃の話。


地元の人間もほとんど足を踏み入れないような山奥の一軒家。


更に奥に昔からの住人が一人住むだけで隣家などはない。


周囲には打ち捨てられた廃墟のような朽ちかけの空き家が数軒あるだけだった。



ある日の朝早く、ドアを叩く音で目が覚めた。


大声でこちらを呼ぶ声まで聞こえる。


嫌な予感がした。


あのDV男が来たのだろうか…?


恐る恐る窓から覗くと、見知らぬ作業着の男性が立っていた。


焦りが滲んだ表情を浮かべている。随分困っているようだ。


無視することもできずに、コートを羽織って外に出た。


話によれば、男は近くの工事現場の日雇い労働者だという。


宿泊費を抑えるために山奥の空き地に車を停めて、車中泊をしていたが、目が覚めるとバッテリーが上がって困ってしまったとのことだった。


お宅の車でバッテリーを充電させて欲しい。それが男の要望だった。


私はさっさと去って欲しかったのでそれに了承した。


無事にバッテリーが回復し、何度も頭を下げる男に、ふと気になって聞いてみた。


「どうして家に来たんですか?」


DV夫から逃れてきた家は、外からでは中の気配が分からぬようになっていた。


それなのに、この男はどうして迷わず家に来たのかが不思議だった。


怪訝そうに尋ねる私に、男は笑顔で言った。


「お婆さんに教えてもらったんですよ!」


「あそこの家に人がいるからさっさと行けって」


男はそこまで話すと再び頭を下げて去っていった。


ぞわと鳥肌が立った。


この山にお婆さんはもう住んではいない。

数年前に他界したと聞いている。


老婆が住んでいたという空き家からは拒絶するような嫌な気配が漂っており、私はなるべく近づかないようにしていた。


男が車を停めた空き地は、奇しくもこの空き家の敷地だった。


死んでなお、家に留まる老婆の霊が、自分の土地に他所者が居ることを嫌って、私のところに行くように指示したのだろうか…?


どちらにせよ、当時の私にとって、誰にも知られていないはずのシェルターに私が住むことを知る老婆の存在は、私の心をジクジクと蝕むのには十分すぎる恐怖だった。

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