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蟲飯

 幼い頃から私はよく悪夢で目を覚ました。その日も真夜中過ぎに悪夢で目が覚めた。


 ぐっしょりと汗ばみ、心臓の鼓動は全身に及んでいる。悪夢の続きに怯えながら眠れずにいた私は、恐怖からの出口を求めてあちこちに視線を泳がせていた。


 そんな中、過敏になった六感は一階のリビングから聴こえる楽しげな声を拾い上げた。どうも母と父が談笑しているようだった。


 私はゴソゴソと起き出し、叱責や嫌味を覚悟して一階のリビングへと向かうことにした。


 静静と階段を降りるとガラス戸の向こうは薄暗く、テーブルの上に電気スタンドが灯るだけだった。


 嫌な予感がしてこっそりとガラス越しに部屋の中を覗き見ると、その光景に息を呑んだ。


 茶碗にこんもりと盛られた白米の上に、黒々と光る甲虫の姿があるのだ。


 それは一匹や二匹ではなく、折り重なり数が分からぬほどの量だった。


 母は向かいに座る父に向かって、普段は決して見せないような笑顔を向けて、蟲飯を頬張っている。


 満点の笑顔と白い歯と蟲飯。


 決して同居し得ない光景を前に私の脚は諤々と震えた。


 あまりの悍ましい光景に目が釘付けになっていると、一瞬真顔の母と目があった。


 私は慌てて顔を引っ込めると、音を立てぬように二階へと戻り頭から布団を被って狸寝入りを決め込んだ。


 するといつの間にか朝になっていた。目覚めてすぐ夢で良かったと私は安堵した。


 しかしその日の朝、母はいつになく不機嫌だった。


 不機嫌な母が私を睨むその目と昨夜の目とが、私には重なって見えたのだ。

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