祖母の家
祖母の家によく預けられた。古い木造の二階建て。畳には所々染みがあり、壁は擦るとキラキラした粉が出る。そんな家だった。仏間にはなぜか般若のような面が掛けられていて僕はそれがとても怖かった。ある日のこと、僕が祖父の仏壇に茶碗を持っていくと、その面が僕の方をじろりと睨んだ。
慌てて部屋を飛び出して祖母に泣きついたが、祖母は笑って大丈夫、大丈夫、と繰り返すばかりだった。
その夜のこと、尿意を覚えて夜中に目が覚めた。僕は二階の寝室からそっと起き出して一階の厠へと向かった。すると襖の隙間から明かりが漏れている。襖の向こうは例の仏間だった。
なんとなく気になって用を足した帰りにこっそり中を覗くと、正座をした祖母が上を見上げて笑っていた。耳をすませると声が聞こえる。
「お爺さん孫を睨んでも無駄ですよ。だってあなたはもうそこから出られないんですから…」
僕は怖くなって急いで寝室に逃げ込むと毛布を頭まで被って朝まで震えた。
それ以来、祖母の家には近づいていない。預けられそうになると僕は泣いて母に懇願した。あの日見た祖母のぞっとするような笑顔が今でも脳裏に焼き付いて離れないのだ。