前書き
──日本のとある町
魔物が溢れ、人類の敵対者たる魔王が存在する世界。
大空を翔けるドラゴンに、未知なる大陸や人智を超えた力。
そんなファンタジー世界が好きだった。
現実から逃げるようにどっぷりとファンタジー世界に浸り、ゲーム三昧の毎日。戦隊ヒーローやアニメなども好きで、部屋にはコレクションのフィギュアが並ぶ。
インドア派の男子高校生、流詩音はそんな毎日を過ごしていた。
詩音の家は由緒正しい古武術の宗家なのだが、興味など持てずに跡取りとしての責任は放棄している。
何故なら詩音はこの世界に絶望していたのだ。
だってこの世界じゃあいつは──
結音は長く生きられない──
なんでこの世界には魔法がないんだ──
詩音の幼なじみの天翔結音。原因不明の心臓疾患により、いつまで生きられるのか分からないと言われ──
どれだけ調べてもどこにも異常は見つからず、だが確実に心臓は弱っていく。
そうしてこの二人だが、両思いであるはずなのに付き合ってはいない。何故なら結音が諦めているからだ。いずれ死んでしまう自分には誰かと恋をする資格はないと。
その決意は頑なで、詩音もそれを察していた。
詩音は寂しさを埋めるように、慕ってくれる先輩や後輩、果ては教師と関係を持つ。
そう、詩音はモテるのだ。性格は穏やかで優しく、顔は中性的で整っている。そのうえ実家の古武術を継ぐつもりはないし、争うことは嫌いなのだが──
運動神経が抜群によく、腕っぷしも強い。
流行りの「異世界転生してハーレム無双」的な物語があるが、詩音は既にハーレムで無双の要素を満たしていた。幼なじみの新見奈々に義理の妹の流麗。後輩の美優リーアと鬼神宝冠。先輩の不動蘭と、養護教諭の鈴音寿先生。
それでも詩音は結音を諦めることが出来ず──
皆が傷付いていく日々が過ぎていく。
そんな中、唐突に訪れた日常の変化。
この日本に──
世界に──
魔法や異世界という概念が現れたのだ。
そうして齎された希望。
異世界に転生すれば、結音さんは助かるわ──
私がサポートするから、詩音は自分が好きなファンタジー世界を創造すればいいの──
ゲームのような世界で結音さんと永遠に──
そう詩音の耳元で囁いたのは誰だったか──
これは元からハーレム無双だった男子高校生が異世界転生し、何者かの思惑によって記憶を失い、結局ハーレム無双する物語である。
徐々に取り戻していく記憶と真実。
殺意高めの斧持った覚悟ガンギマリの少年。
はわわと焦るちょろい女神。
転生した先の世界で繰り広げられる、シリアスな世界観でのアホみたいなバトルラブコメ。
いったい誰が記憶を操作したのか──
斧持ったヤバめの少年は何者なのか──
そうしていま、この文章を書いているのは誰なのか──
それでは少しミステリな【ヴァンズホープ/転生先の異世界で幼なじみやちょろい女神様とハーレムしてたら、デカい斧持った覚悟ガンギマリの少年が殺しにくるバトルラブコメ】をお楽しみください。