就職と日常の変化
3月のライブが終わった後、4月からは僕は社会人だ。
中学を卒業後、僕はちえさんの口利きにより、ちえさんが働く会社への就職が決まっている。
広告代理店だ。
僕はちえさんと同じデザイナーとして就職するので広告のデザインを作成をしたり印刷の手配をしたりするのが仕事だ。
最初はちえさんが離婚する前に勤務していた僕の地元にある本店に勤務して研修が行われる。
デザインの研修なので技術をつける勉強時間でもあり、6ヶ月間の長い研修だ。
研修が終わると僕はあきちゃん達が住む街にある支店へ転勤が決まっている。
研修が終わると僕は支店の近くに家を借りてあきちゃんと一緒に暮らすのだ。
研修期間は電車で1時間ほどかかるあきちゃんの家に通うのはなかなか難しい。
休みの日にしか会えないのだが一緒に暮らす未来のためにお互い我慢する。
仕事は当時はまだあまり世間に普及していなかったパソコンを使う。
Illustratorを使ってデザインを作る仕事だ。
かなり専門的な分野で会社以外で仕事のスキルを磨く事ができない。
練習するための環境が会社のパソコンにしかないのだ。
Illustratorは使えば使うほど上達する。
会社としては上達が全てで数名いる研修生の中から技術の上達が遅い人は切られる可能性すらあるので僕は必死で練習した。
ちえさんが同じ仕事をしてるので技術を習うことはできるが高級品であるパソコンやIllustratorが結局会社にしかないので私用で利用できない。
自分で頑張るしかないのだ。
研修で落とされないように僕は真剣に頑張った。
全力でIllustratorの操作を覚え、会社に認めてもらえるように努力する。
ライブを繰り返し得た経験は何事にも臨機応変に応用が効き、僕を大きく成長させていた。
目的を達成するための努力を全力で行える性格になっていたのだ。
おかげで実力はどんどん伸びていく。
同期入社の誰にも負けないくらいの技術となっていたのだ。
そんな研修の真っ只中、6月頃にあきちゃんから告げられる。
『ゆうちゃんは今一生懸命に頑張ってるから集中力を奪ってしまいそうで少し言いにくいんだけどはっきり言うね、妊娠しちゃった。』
妊娠2ヶ月だと言う。
2ヶ月と言うと、あの時に出来たのか…なんて振り返ってみたが何の意味もない。
『すごく産みたいって気持ちが強いんだけどバンドも続けたいの。
ママの話を散々聞いてきたから両立は出来ないのはわかってるんだけど。』
あきちゃんは困り果てていた。
僕は妊娠をしたと聞かされたばかりだし、研修も忙しいのでゆっくり考える時間もなかったがあきちゃんと同じ気持ちだ。
子どももバンドもどちらも諦めたくない大切に感じるのだ。
まだちえさんには話してないとの事なのだが絶対に話さないといけない内容でもあり、経験者であるちえさんの意見や良かったこと、後悔してる事などを詳しく聞いた上で一緒に悩んでもらう事にした。
『ちえさん、あきちゃんを妊娠させてしまいました。
僕もあきちゃんも産みたいって気持ちが強いんだけどバンドも続けたい、諦めたくないしどちらも譲れない大切な事なんだ。
どうしたらいいかわからなくて壊れてしまいそうだから一緒に悩んで欲しい。』
正直に思っている事を全て伝えた。
『産みなさい。そしてバンドも続けなさい。』
ちえさんの返答は想像以上に早く、そして短い内容だった。
状況が飲み込めなく返答に困っているとちえさんが続けて話し始める。
『私とキミ達には大きな違いがある。それは私を始め、協力してくれる大人が周りにたくさんいる事。そしてキミ達の将来に期待している人達がたくさんいる事。』
『私たち大人はキミ達のためにする協力は惜しまない。後悔しないように、そして音楽業界のためにもキミ達は両方を手に入れなさい。』
ちえさんは何の迷いもなくハッキリと言い切った。
『ただ、条件として今後2人で暮らすのではなく、私の家で一緒に暮らしなさい。』
『赤ちゃんを見る人が必ず必要だし、今後の為にもお金を貯めて欲しいし。
私もなっちゃんもいるから安心でしょ。』
僕もあきちゃんもちえさんの強さに安心して涙を流した。
さすがちえさんだと感じる。
僕達の本当の理解者だ。
僕は研修が終わるとちえさんの家に引っ越すことに決まった。
それまでは僕は地元で研修に励む。
会えない時間は最近若い人たちにも普及し始めた携帯電話でたくさん話す。
この当時の携帯電話の通話料は高かった。
6月も7月も携帯電話の通話料は3万円を超えていた。
お互い寂しかったのだ。
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