復活フェス
今回のフェスも大きな特設のステージが用意されていたが、前回と違い会場の敷居がなかった。
宣伝が広がりすぎたので集客予想が立てられず、海水浴場全てを会場とするみたいだ。
この日のビーチは全てが会場。
そういった感じで開催されるみたいだ。
屋台が並び、フェスのTシャツなども売られていたりフェスのうちわが配られたりしていた。
一つの大きなお祭りみたいになっている。
朝早くから多くの人がビーチで遊びながら開演時間を待っている。
ステージの裏に僕達の楽屋になる仮設のテントが建てられていて参加バンドが集まった。
吉沢さんが挨拶に来てフェスの始まりだ。
タイムテーブルが配られ出番の30分前にはバックヤードに集合の約束をして僕達は出番まで自由行動となった。
出番は昼過ぎに1回と最後のトリだ。
メインバンドだからまぁこうなるだろう。
午前中は何も出番がないので僕達は海で遊ぶ事にした。
体力は使いすぎないように、浅瀬で楽しむ程度だ。
ほとんどの人がフェス目当てで来ている人なので、いろんな人が僕達の事を知っていて話しかけてくるので一緒に遊んだり話したりした。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去る物で、出番の30分前になり急いでバックヤードへ向かう。
時間がギリギリになってしまっていたのでまどかちゃんがソワソワしていた。
『遊ぶのはいいけど体力ちゃんと残しとかないとダメなんだからね』
結構焦っているみたいだ。
まだまだ子供な僕達は体力を温存するなんて概念があまりない。
昼からは大人しくしておく予定だと伝え、楽器のチューニング調整を始める。
フェスはステージの近くになればなるほど人の密度が高い。
バックヤードへ向かう道は関係者以外立ち入り禁止なのだがその道に進むまでの道のりですら密度が高く移動に時間がかかってしまう。
昼過ぎからもっともっと人が集まる予想だったので僕達は1回目の出番が終わった後は楽屋で休んでおく事にしていたのだ。
やがて出番の時間となりステージに上がる。
去年と同じMCタレントさんが早速話しかけてくる。
『続いてこのフェスのメインバンド。No Nameです。
去年ぶりだね。今年も期待してるよ。』
『久しぶりっ♪あき達に会いたくてウズウズしてたんじゃない?』
あきちゃんはタレントさん相手に友達感覚で話す。
『もちろん!!期待し過ぎて最近は夜しか眠れなかったよ!!』
さすが売れっ子タレント。ボケながら返してくる。
5分程度の簡単な雑談が繰り広げられ僕達の出番が始まる。
ステージ上から見る会場は人しか見えない。
大量の視線を浴びながら僕達は立ち位置に立つ。
期待の視線が心地良く沢山の声援が飛び交う。
『さぁお待ちかねっ。高校生になったあきちゃんだよー。
美しさのあまり卒倒しないように気をつけて聴いてねー。』
あきちゃんお決まりの「ニヤリ顔」で演奏が始まった。
最初のテーブルでは去年の楽曲を数曲演奏した。
僕達のオリジナル楽曲なんだが、何回も演奏しているのでライブにいつも来てくれていた人の多くは知っている楽曲だ。
あちこちから歌う声が聴こえてくる。
販売したCDの中にも収録している曲なので知ってくれている人が多いのだ。
『ホントアマチュアバンドと思えないレベルだよねー。
次のテーブルはフェスの最後のトリだね。期待してるね。』
最後の演奏が終わるとタレントのMCが入る。
音楽番組みたいな進行だ。
『次は今年作った未発表の曲で行くからねっ。
お楽しみにー。皆さん最後までお付き合いお願いしまーす。』
あきちゃんが締め括り僕達はステージから退場した。
ステージから降りると吉沢さんが僕達を待っていた。
楽屋だと他のバンドも多くいてゆっくりと出来ない恐れがあるので吉沢さんが使っている別のテントを使ってもいいと言ってくれた。
吉沢さんのテントは楽屋テントと違い少し小さめだが、20人くらいは使えるだろう。
真夏なので暑さは凌げないが、太陽の光は直接当たらないので体力温存には最適だ。
夜の出番まで、他のバンドの演奏を聴きながらのんびりと過ごした。
まどかちゃんが屋台から食べ物を色々買ってきてくれて腹ごしらえも準備万端。
出番の30分前にバックヤードに入る。
最後の僕達の演奏の直前はAnotherの演奏。
さすがはベテランAnother、会場は盛り上がりまくっている。
もう夜なのにまだまだ盛り上がるお客さん。
入れ替わりなどもあるとは思うが相変わらずすごい数の人だ。
長時間盛り上がり続けているお客さんは倒れたりしないだろうか?
そんな事を考えながら僕達の出番となりステージに上がった。
去年と同じく歓声の大きさからすごい数の人がいるのが手にとるようにわかる。
去年との違いはペンライトや光るブレスレットをつけている人が多く、幻想的な光が広がる一面に驚いた。
ペンライトは屋台で売られているらしく、ブレスレットは配布されているらしい。
夜になると光で応援するお客さんが多くて会場内のテンションは去年よりも高い。
『わぁ。めっちゃ綺麗やん。
こんなとこで歌えるなんて本当に最高♪』
あきちゃんが感激をマイクでみんなに伝える。
会場内からは笑い声と共に僕達の演奏に対する期待の声が飛び交う。
『それでは本日の最後の演奏。メインディッシュ!
No Nameの皆さんでーす。』
MCのタレントさんは僕達の紹介をする。
『ホントあき達の事が大好きだねぇ。』
あきちゃんはタレントさんをイジろうとする。
『そりゃね。最高の演奏を去年のフェスで聴かされてるからね。
ファンになっちゃったよ。』
社交辞令のようにも聞こえるが真意はどうなんだろう。
本当に有名タレントがファンになってくれたのならすごく嬉しいな。
『今後の活動スケジュールとかは決まってるの?』
タレントさんに聞かれる。
『次は12月に吉沢さんのお店でワンマンライブするよ!1回やってみたかったの。
実はその告知として今日はフライヤーをみんなに配ってます♪』
次回12月に僕達はついにワンマンをやる事が決まっていたのだ。
曲数も集客力も今なら問題ないだろうとの判断だ。
このフェスに合わせて宣伝用のフライヤーとチケットの印刷が完了している。
『チケット今日から発売開始だから欲しい人はどんどん買ってねー。
直接買ってもいいし吉沢さんのお店でも販売してるからね。』
『んで、もちろん買うよね?』
最後にあきちゃんはタレントさんに聞く。
『えっ。買うに決まってるよ。今買います。売ってください。』
財布を取り出すタレントさん。
『残念ながら今ステージ上にチケット持ってきてないから演奏終わったら売ってあげるね。』
なぜか上から目線で本物のアーティストにチケットを売りつけようとするあきちゃん。
10000人以上がいる会場を大爆笑に包み込む。
そしていよいよ演奏の時間となる。
僕達は未発表の曲を次々と披露した。
未発表曲なので合唱はないが、会場内の無数のペンライトの光が大きな縦ノリになり信じられないくらいの歓声が湧き上がる。
キミと見たライブの景色は今年は無数の光に包まれた幻想的な景色だった。
まるで別の世界のような、心地よくて大好きな音楽に包まれた幸せな世界。
残り5分、次の曲は去年のようにMCタレントさんの曲を演奏すると発表。
あきちゃんは「ニヤリ顔」で手招きしながらタレントさんをステージに呼ぶ。
『今年も僕の曲をやるのかぁ。
僕が歌うより盛り上がるから自信無くしちゃうんだよなぁ。笑』
変な冗談を言いながらノリノリでマイクをとるタレントさん。
『今年もボーカルバトルね。
あきの方がうまいことをみんなにシッカリ聴かせちゃおう♪』
大きな笑い声が会場から湧き上がりながら演奏を始めた。
さすがプロのアーティストの楽曲だ。
多くの人が知っていて会場は大合唱になる。
あきちゃんはボーカルバトルと言うが、ワンフレーズ毎に交互にタレントさんと一緒に歌っているのでまるでデュエット曲のように聴こえる。
いつもと違う雰囲気となった楽曲は会場を楽しませた。
ステージ上も会場も、全員が全力で歌い、盛り上がり、大きな一つとなる。
一体感と共に満たされる感情。
脳内が気持ちよすぎて倒れてしまいそうになる。
上下とか左右とかの感覚すらわからなくなりそうなくらいアドレナリンが出続ける。
あまりにも大きなエネルギーに包まれて演奏するのが精一杯だ。
『まだまだー』
あきちゃんが叫びサビが繰り返されて演奏が終わらない。
気持ち良すぎて狂ってしまいそうになりながら必死で演奏を繰り返す。
何度もサビを繰り返して10分くらいこの1曲を演奏していた。
『最高ーーー。
みんなーー愛してるよーーーーーー。』
あきちゃんが叫んで曲が終了した。
もう閉演時間はとっくに過ぎている。
これで終わりだと思っていたけどアンコールが始まった。
どんどん大きなアンコールとなり会場全体に響きわたる。
このまま終わるなんて当然出来ない空気だ。
『最後のアンコール、キミ達のとっておきの曲で終わろうよ。
去年の最後のあの曲。何度も聴いて僕も覚えてきたんだ。
ボーカルバトルだっ!!』
去年の締めに演奏した曲。タレントさんが一緒に歌おうと提案してきたのだ。
すごく誇らしい気持ちになり、最後の体力を絞り出して演奏を始める。
曲が終わった後はぶっ倒れても良い。
明日からしばらく動けなくなってもいい。
お願いだから体よ動いてくれっ!!
そんな事を想いながら全ての力をぶつけるつもりで演奏した。
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