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偽双の花嫁  作者: 趣廻
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必敗法

「とりあえず野宿の可能性が消えて一安心って感じだよ。」


 テーブルをはさんだ先で先輩が気を抜いたように背もたれへ背を預ける。


「断ったら野宿するつもりだったんですか?こんな雨の中で?風邪ひくどころじゃ済みませんよ?」


「まあ、後輩君は私を見捨てないと信じていたから野宿だった場合のことはほとんど考えてなかったけどね。」


「わかりませんよそんなの。もしかしたら見捨ててたかもしれませんよ。」


 先輩は時たま相手の行動も計算に入れて動く節があり、その計算が外れたことはほとんど無いに等しい状態だったためこんな自信たっぷりそうな態度なのだろうが、少し危うさが感じられたので少し釘を刺しておくことにする。


「見捨てないよ。私の信じる君はとてもやさしい人だからね。」


 一切の羞恥も感じないそのまっすぐな眼差しにこちらが恥ずかしくなって慌てて視線を逸らす。


「先輩、風邪ひいちゃいけないんで風呂で温まってきたらどうです?あ、風呂場はこちらです。」


「逸らしたね、視線も話題も。まあ、頂くことにするよ。それにしても異性に風呂を勧めるなんて君も結構大胆なんだね。」


 先輩を風呂場に突っ込んだ後、しばらく二重の羞恥を感じ悶えていた。




(そういえば、先輩着替えとか持ってないよな。)


 ふと思い立った俺は部屋着として使っているジャージの1着を持って風呂場の扉前まで行きノックする。


「先輩すいません、着替え持ってきたんですけど今大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だよ。」


「失礼します。」


 扉を開けて脱衣所に入る。確認したから当たり前だが、もちろん先輩は浴室の中だ。


「私の体が見られなくて残念だったかな?」


「確認したんだから見られるわけがないでしょう?」


「律儀だよね、君。」


 嬉しそうな声色で話す先輩。


「着替えおいていきますからね。」


 先輩に一声かけて脱衣所を後にした。




 思春期の誘惑に悶々としながらリビングでスマホをいじり時間をつぶしていると、不意に扉の開いた音がした。


「上がったよ。ありがとうね。」


 目線をそちらに向けると、長い髪をタオルに包んだジャージ姿の先輩がいた。


「どう?」


「どうと言われましても何がですか?」


 先輩は手を広げこちらを見ながら問いかけてくるが、いかんせん意図が読めない。


「何がって、君の服を着た私についての感想だよ。やっぱ征服欲満たされる?」


「何言ってんですか」


 呆れたようにつぶやくも感想を求めるように先輩は近づいてくる。


「ノーコメントで、あとこっちも風呂入ってきます。」


 先輩の濡れた髪とか肌とかに色気を感じ、慌てて目線をそらして風呂場に向かう。


「残り湯とかなくて残念だった?」


 そんな俺の様子を見て先輩はこちらをからかってくる。


(先輩近いしなんかいい匂いするし、ていうかほんとにうちの石鹸の香りかこれ。)


 先輩の香りとかに翻弄された俺は「いりませんよ。」と答えるので精いっぱいだった。




「ところで後輩君、私はどこで寝ればいいのかな?それとも一緒に寝る?」


 風呂から上がりリビングでくつろいでいると、対面に座っていた先輩が尋ねてきた。


 一緒に寝るというのは嬉しい提案だが、そんなわけにはいかない。耐えられる自信がない。


「そんなわけないでしょう?来客用の寝袋があるんで俺はそれで寝ます。先輩は俺の寝室使ってください。」


「ベッドを譲ってもらうのはさすがに心苦しいし、泊めてもらえるだけありがたいから私が寝袋を使うよ。」


「いや、俺が寝袋で寝ます。」


 さすがに先輩にかたい床で寝かせるわけにはいかない。


「いや、家主は君で私は来客なんだから私が寝袋を使うべきだ。」


 先輩も一歩も譲らず話は平行線をたどる一方だった。


「このまま話していても埒が明きません。ここは公平にじゃんけんで決めませんか?」


「たしかにこのまま話していても決まりそうにないね。仕方ない、その手で行こうか。」


 先輩は納得した様子で頷くが、公平というのは嘘だ。じゃんけんにおいて先輩に対する必敗法がある。


 先輩はじゃんけんにおいて9割方初手にチョキを出す。先輩の友人曰くチョキは勝利のVらしい。


 つまりパーを出せば確実にこちらの意見が通る。


 そうとも知らず先輩は気合を入れて拳を握っている。


「行くよ、後輩君。最初は…」


 結果として俺は寝袋で寝る権利を手に入れた。

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