第2話:劇的なビフォーアフター
なんということでしょう。ってお話。
えちえちクモちゃんのえちえちボディをハイパー無慈悲にバイオレント大切断した、謎の血みどろ系おさかな怪人ことオレの親友、みずっち。
首元から脇腹までをバッサリぶった斬られたクモちゃんは、最後までぶれないアニメ声で『クモーッ!』っと可愛らしく断末魔をあげて消滅した。わたあめみたいな真っ白いケムリとなって、ポンッとマヌケな音をたてて消し飛んだのだ。おーえいめん。おーぶっだ。
…え、なにそれ。なんで消えたのクモちゃん。てっきり特撮怪人よろしく火薬たっぷり大爆発でもするのかと思ったのに。
うぅむ、流石は令和最新のクモ怪人。クソデカナパームでド派手に退場するのはもはや化石の演出よ。やっぱり時代はエコなんだねぇ。
「……」
そんな地球に優しいクモちゃんをズバッとパニッシュしたみずっちは、スタイリッシュな海産物フェイスをシュンとうつむかせてじっとしている。きっとクモちゃんをコロコロしちゃったコトに凹んでるんだろう。
そう、そうなのよ。優しい子なのよウチの子は。昔っからそう。虫もコロせないくらい優しい子なの。あのションボリヘッドはきっとクモちゃんへの黙祷なのよ。なむあみなむあみ。ぽくぽくぽく。
え?オレ?するわけないよね。両腕折られてんだよねこっちはね。黙祷どころかツバ吐いちゃうもんね。ぺっぺっ!
ってダメだ、口ふさがれててツバ吐けねぇや。ぬえぇい、くやしいのぅ。
「んー、んむっむー」
(訳:おーい、みずっちー)
とりあえず助けてー。クモちゃんのネチョネチョで動けなーいへるぷみー。
「……」
お、気づいた気づいたこっち見た。
さ、こっちゃ来いこっちゃ。そのかっちょいいヒレでオレのネチョネチョをスッパリさばいてやってくれぃ。
「…なんでかぐっちが………」
なんか遠くでボソボソ言ってら。
いいからはやくーへるぷみー。
「んむっむー」
「……」
来ねぇ。なんだアイツ。
ってか、あの、すんません、マジではやくたすけてください。ネチョネチョもヤバいんだけど腕がほんとにヤバいです。イタイを通り越してなんかもう、熱いし寒い。明らかにヤバい悪寒がする。めっちゃ冷や汗出てる。死んじゃうかもしれない。
「んむっむー。んむっむー?」
「……」
いやガン見でガン無視すんなコラ。ほんとに死んでやろうか。
とりあえず来いよ、来てくれよ。実はけっこう怖いんだよ今。なぁ。
みずっち。
◇
「助かったー。さんきゅー」
「……」
9回目くらいのんむっむーでようやく来てくれたみずっち。期待どおり腕のヒレで白いネチョネチョを切り裂いてくれました。あざっし!
「あ、バイクあっちに置きっぱだよ。忘れんようにねー」
「……」
相変わらずサイレントマナーモードのみずっち(おさかなフォーム)。
どしたんだろね。偏頭痛かな。
「みずっち?」
「エッ!?」
めっちゃ叫ぶじゃん。びっくりしたわぁ。なにをそんなにシャウトってんの?
「な、なんで…!?」
ま、いーや。なにやら変なご様子だけど、みずっちが変なのは今に始まったコトでもないし。どーせこのサカナマンスタイルも思いつきのイメチェン戦略かなんかっしょ。ギターやらバイクやら始めた時といっしょよいっしょ。大して気にするアレでもないやね。
つーわけで。とりあえず今はアレよ、救急車よ救急車。腕の痛みがヤバすぎて逆に楽しくなってきたんでねぇ。うぇへへへへへへ!
いたーい。
「なぁみずっちスマホあるー?119して119ー。なんかオレ腕折れちゃってさー、スマホ持てないのよねー」
「っ!?」
ひゅっ、と小さく息を呑む音。ははーん。
さては意外と大ケガでビビったな?
「…んっ、んんッ!」
…なーんか咳払いしてら。なんとも挙動不審なおさかなだコト。まぁ確かに今のみずっちは文字通りの不審者だけども。全身ウロコまみれだし、たぶんだけど全裸だし。うーんこの不審者。あ、不審魚?
「み、みせてみろ」
「は?」
なんて?
「う、うでをっ!…んんッ…う、腕をみせてみろ。ボク…じゃなかった、ワタシに。かぐっ…じゃなくて、えと、えと…しょ、少年」
「ぶふはっ」
おうコラ、笑かすな。骨に響くから笑かすな。
なんだそのヘッタクソな低音と喋り方。お前そんなキャラじゃないだろ無理すんなこの天然ぶりっ子ソプラノ野朗。低音が全然低音じゃねぇんだよみずっち。イメチェンはそのギレ◯モ・デル・トロ映画に出てきそうなサカナスタイルだけでいいんだよ。しぇいぷおぶなんたらってアレみたいなさ。観たことないけど。
「な、なぜ笑う。少年」
「ぶははははは!」
や、やめてみずっち!その『少年(精一杯の低音イケボ)』がマジおもろすぎ!くふふふふっ!イテェ、イテェよ!お腹と腕めっちゃイタいひひひひひひっ!
やばいやばい!しんじゃうしんじゃうみずっちにコロされちゃう!笑いすぎて腕めっちゃイタイってまじやばいってうひひひひひひっ!
「お、おいっ、少年っ。笑うなっ、少年っ。ワタシはっ、おっ、おっ、オトナだぞっ。少年っ、少年っ。少年っ。」
「だはははははははは!」
や、やめてー!しんじゃうからやめてー!たすけてーころさないでー!うははははは!
みずっちー!
◇
さて、それではここで楽しい楽しい解説のコーナー。なしてオレがみずっちの超棒読みかっこつけ口調と超低クオリティ低音ボイス(高音)にここまでゲラゲラ笑っているのか。
その理由はちょーカンタン。あまりにも普段のキャラと違いすぎるから。
普段のみずっちは大体こんな感じ。
『かぐっち、おはよっ♡』
『えへへ、おそろいだねっ♡』
『えー、ボクわかんなーいっ♡』
『むぅ、ボクわるくないもんっ♡』
…きっついなぁ、改めて見ると。
そう、みずっちはキツいのだ。女の子みたいな天然ソプラノボイス+くそ甘ったるいぶりっ子口調の高二男子とかいう、地獄じみたキツさを持つ男なのだ。
いやーキツいね。マジでキツい。ぶっちゃけかーなーりキツいと思うよ、オレの親友。
『キツくないもんっ♡』
うっせーばかきもいんだよ。解説時空にまで発生すんなこのオカマモドキが。しっしっ。
あ、ちなみに語尾の♡はオレの悪意。こうすればみんなにもみずっちのキツさが伝わるかなって。口調もだいぶ悪い方向で強調してみたよ。どうかなみんな?
『ボクこんなんじゃないもん…』
いやいやだいたいこんなんだって。ヒトの印象なんてこんくらい誇張されるもんなのよ実際。
受け入れろ、受け入れるのじゃ、解説時空のみずっちよ。
『ぶぅ…』
いやぶぅじゃねんだわ。そーいうとこよホント。
『かぐっち真面目にやってよぉ…』
はいそこ涙目禁止。一挙手一投足全てがキツいなお前。泣くな泣くな大の男が。
…はぁ。しょうがないやね。ほな真面目にやらせていただきます。エヘンエヘン。
みずっちこと水原瑞稀は、オレ神楽坂香久耶の大切な親友でちっちゃい頃からの幼馴染。家が隣同士で互いの両親も仲良しで〜っていう、どっかの学園コメディみたいな関係だ。幼稚園から高校までずーっと家族ぐるみの付き合いをしてきた、ほとんど兄弟みたいなヤツなのね。
…香久耶に瑞稀とか二人して名前が女の子っぽすぎるけど、そこはスルーしてね、特にオレの方ね。瑞稀はまだ男の子にもいる名前だけど、香久耶はマジで見たことないよね、オレ以外ね。ほんとトキメクお名前だコト。
って、んなこたどーでもいいやろがいってね。ごめんごめんご。話戻します。
みずっちは昔っからふわふわして可愛らしい(褒めてはいない)子犬みたいなヤツで、ちっちゃい頃はそりゃもう蝶よ花よとみんなに愛されまくっていた。
ちっこい身体、きゃわいい顔面、真っ白い肌に甘い声。明るい亜麻色の髪はふんわりくしゃくしゃな猫っ毛で、おまけにちょー人懐っこくて明るい性格。みんなみずっちが好きだったし、みずっちもみんなが好きだった。けっ、モテ天使サマがよ。ぺっ。
ただまぁ、そんなみずっちの愛され天下はせいぜい小学校低学年までだったよ。そっから先はむしろ、クラスのみんなから煙たがられるようになっちゃったんだよね。残念なことに。
うん、かわいそうだけど『そらそうよ』って感じよね。いくつになってもくそ甘ったるいぶりっ子キャラなんてやってたら、そらぁ周りからは白い目で見られますよってね。
難儀なのは、みずっち自身は別にぶりっ子でもなんでもないってこと。
天然。天然なのよ、ウチの子のきっついぶりっ子キャラは。マジであいつは幼児の頃からほっとんど性格が変わってない。どんだけ周りにボロクソ言われたりイジメられたりしても、素の自分をどうこうするなんて器用なマネはみずっちには出来んのよ。割と重い業を背負って生きてんのよね、あの小動物は。
んで結果、みずっちはみんなの愛されキャラから華麗に転身。ちょっぴり哀れなぼっち系男子になっちゃったのでした。うぇーい(陰)。
『かぐっちだってぼっちじゃん』
オレは昔っからぼっちだったからいーの。空気読めな過ぎてウザいきもいってね。ふはははは。どうだ、まいったか。
『じゃあボクよりダサいじゃん』
だまれ。効かぬわ。そんな悪口オレには効かぬわ。オレが泣くのは表向きはホラー映画と犬映画とジ◯リ映画だけよ。だからやめろ。裏で泣いちゃうから。ひーめそめそ。ひーぴえん。
っていうオレのぼっち自慢は置いといて、大事なのはみずっちの話。
ひたすら明るかったみずっちの性格は、それ以降ほんのちょっとだけ暗くなり、いつしかあんまり積極的に他人に話しかけなくなっちゃった。
やーい陰キャ陰キャーオレも陰キャー。
へへっ、虚しい。
そのうえ若干グレちまったのかなんなのかしらないが、中学の時には親父さんのおさがりのギターを弾きはじめた。オレらは家がお隣さんなので、夏場になると開けた窓からみずっちのやたら激しいギタープレイがべんべけべんべん漏れ聞こえてくるんだよね。もう神楽坂家にとってアレは夏の風物詩みたいな扱いになってます。風鈴ちりりん、ギターギュィィィィン!ってね。はは、うるせー。
…まあ、これはいい。ギターくらい別にフツーだ。ギャップがすごすぎて意外ではあったけど。問題はその次よ。
高校に入ってから、みずっちは喫茶店でバイトを始めた。めっちゃダンディーなマスターが個人でやってる、めっちゃオシャレで大人っぽい店だ。なんで採用されたのかは知らん。顔採用かな。多分そう。
そこでのバイトで大量の金を貯めたみずっちは、突如としてとんでもない非行に走りはじめた。
なんとみずっち、大事な大事な校則をおもくそぶち破って、こっそりバイクの免許を取りやがったのだ!オー、バッドボーイ!!
いやはやアレはビビったね!ふわふわした見た目に反してあまりにも素行が不良すぎる!こわいよマジで!マジこわ!
ちなみにバイクも中古だけどしっかりカッコいいヤツを所持してるよ。20年だか30年だか前の、紺色のニーハンネイキッド。ぶいてぃーぜっと、なんたら、みたいな名前の。なんだっけ。忘れた。なんでもいいや。とりあえず古くてコンパクトで、ブイツインエンジン?だかってエンジンを積んでるやつ。跨った姿が割とサマになってて羨ましいのよね、実は。
『かぐっちも免許とってバイク買いなよ、バイトしてさ。ふたりでツーリングいこ?』
いかねぇよ。とらねぇよ。そもそもウチの高校ふつうにバイト禁止だわ。てめぇ入学早々に校則無視してバイト始めやがって。恥を知れこのゆるふわ問題児。
『あはは、かぐっちヘンなの。校則なんて、バレなきゃ違反じゃないんだよ?』
なっ…こ、このイレギュラーめ。そりゃ犯罪者の思考だろうが。お前マジでヤンキーになっちまったな?
『むっ。ちがうもん。ヤンキーじゃないもん』
だから『もん』はやめろっつってんだろこのソプラノ半魚人。ヒレもぐぞヒレ。このヒレ野朗。
…ふぅ、邪魔が入ったぜ。もっかい話戻そうね。
そんなこんなで我らがみずっちは、『童顔女声天然ぶりっ子チビぼっち隠れ不良男子』とかいう、なかなかに意味不明な存在になった。この時点でだいぶ味付けが濃い。しかもあんまり美味しくない。なんかハズレのラーメン屋が作るまっずいラーメンみたい。オエー。
そんなオエーな普段のみずっちと、今の魚影〜なみずっちを見比べてみよう。
158cmしかなかったほっそいほっそいちびっ子ボディが、190を優に超える逆三角形細マッチョボディに超進化。碧色のウロコと刀みたいなヒレで全身を覆った、東洋龍風つよつよ変身ヒーロー(血みどろ魚介系)。これが今のみずっちだ。誰だお前。
喋り方は妙にかっこつけてるし、声もめいっぱい低い声を出してる。地声がガーリーすぎるせいで女性声優の少年ボイスみたいだ。
あ、あとバイクも変わってる。こじんまりした控えめサイズの紺色ネイキッドスポーツが、明らかにリッターマシンなでっかいレーサーレプリカに大変身だ。透き通ったクリアブルーのフルカウルがいかにも水属性って感じを演出してて、みずっちの碧色ボディにも実に映えてる。もう映え映えだ。映えっ映え。あとでイン◯タあーげよ。イン◯タやってないけど。ってか写真撮れん(両腕全損)。
…ってな具合よね。これでみんなにも、違和感ましましまっしぐらなみずっちパイセンの面白さとシュールさが伝わったんじゃないかな。マジでビフォーアフターが劇的すぎるよね。もうなんということでしょう〜って感じ。
正直一番の違和感は、虫もコロせないくらい優しいハズのみずっちが何の躊躇もなくヒトっぽいバケモノを残虐ファイトでぶっコロコロしたコトなんだけど。
ま、そこは一旦スルーよスルー。これギャグ小説なんでね。シリアスとかいーらね。ぽいーっ。
ハイ、これで解説は終わり。ご清聴どうもどうもでした。なぜか本編より長くなったけど、今回の解説時空はこれで終了です。
ってか、もういいや。今回これで終了です。ハイ。もうオレ喋り疲れたんで。げほげほ。
うわ、ノドも痛くなってきた。この時勢にノドイタはまずいぜ城之内くん。これは早急に帰って養生せねばならんぞな。
うーしそんじゃかえりまーす。ハイてっしゅーおつかれあざしたー。
…………。
『…え、ウソだよね?今回ボクの悪口しか言ってないよ?ほんとにこれでいいの?ねぇほんとに?かぐっち?』
…………。
『うわ、ほんとに帰ってる。すっごい自転車漕いで帰ってる。もぉ〜かぐっちぃ〜…』
…………。
『……』
…………。
『……』
『あ、終わりです』
つづくッ!!
ちなみに作者はみずっちみたいなキッツい男キャラ大好きです。もちろんえちちな意味で。ヌッッッッ!