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第二十話 柊乃巫女

フュリスは魔族と人間が戦う戦場を目指し、次なる四天王と対峙します。

「おいおいおいおい!

 これは一体何だ?

 何があった!?」

 薄革の紙を握り締め、黒髪の男が苛立ちを顕わに歯軋りした。

 それに現れた魔導の印に、同胞が窮地にあって伝えた意思を感じ取ったからだ。

 長身で鍛え上げられ引き締まった身体に露出の多い黒革の服を着た男は、目を見開き紙を握る手をぶるぶると震わせている

 革張りの大きな天蓋の中には彼の他に男が2人。両者も同じような革の紙を手にして、深刻な表情で見つめていた。

「『フュリスは危険。見逃すな』か」

 厳つい顔に5本の短い角と口の端に上下に突き出た牙を持つ男が、紙に現れた文を低いしゃがれた声で読み上げた。

 その体躯は大きく分厚く、ボサボサに伸ばした頭髪は獣のよう。男性としては大柄なはずの他の2人よりも頭3つは背が高い。

 そしてまるで動く砦のごとき肉体を見せつけるように顕わな服。

 巨漢は大胡坐をかいたまま、武骨な指で摘まんだ紙を表裏と確かめた。

「消えるな。やられたのか」

 静かに呟いたのは長身痩躯に弓を背負った長髪の男だ。濃い灰色の髪を後ろで無造作に束ねて背に垂らし、髪と同じ色の動きやすそうな服に身を包んでいる。

「なんだと! あああ、消える! 消えちまう! キーナ、キーナあああっ!

 消えるんじゃねえっ!」

 黒髪の男が紙を開いて大声で喚き嘆願するが、紙に現れた色彩は見る間に薄れ、文字ではなくなり点と化し、ついには消えた。

 七彩のライキーナは最後の一瞬に魔導を発し、同胞である四天王に警告を伝えていたのだ。

「キーナ、おめぇよぉ、こんなところで滅んで、どうするんだ。

 人間どもをこれから皆殺しにするんじゃなかったのかよぅ」

「バーザック……ライキーナの仇は必ずや」

 土の上に敷かれた敷布の上で膝をつき、紙に額をこすりつけて嘆く黒髪の男に、長髪の男が呼び掛けた。

 黒髪の男が顔を上げる。

 目には殺気を漲らせ涙の替わりに黒い瘴気を溢れさせ、魔族四天王が1人、万影のバーザックは2人を睨んだ。

「当たり前だ。ジャフィール、ハリス、俺にやらせてくれ」

 同胞の言葉に、巨漢が丸太のような両腕を組んで口を開く。

「ライキーナの力は多彩なれど、戦いにおいては四天王最弱」

 地の底から響くような低い唸りは牙に唇の動きを妨げられて歪み聞き取り難かったが、バーザックは巨漢を睨みつつも黙って聞いた。

「だがしかし、最弱であったは我ら4人の内でのこと。

 あのライキーナを屠った相手を侮るわけにはゆかぬ。

 加えてバーザック、貴様にはその万影の名に相応しい役目が、あのお方から与えられている」

 バーザックが歯を軋ませ、握った拳がミシリと音を立てた。

「ここは、儂が行く。

 この儂が、フュリスと言う人間の正体を暴きライキーナの仇を討つ。

 一矢のハリス、万影のバーザック、お主らは命ぜられた役目を果たしてくれ」

 ダン!

 バーザックが地に拳を叩きつけた。

 ダン! ダン! ダンダンダンダン!

 叩きつけ、何度も何度も殴りつけ、それからゆっくりと顔を上げた。

「あんたの言うとおりだ、無双のジャフィール。

 あのライキーナを倒せる奴に中途半端はいけねぇ。

 俺が、俺がやるよりも、四天王最強のあんたがやるべきだ」

「儂の力ではこの戦の役には立てぬ。

 拳を振るえば人間どもは間違いなく、勝ち目がないと逃げるが故にな。

 故にバーザック、世に現れし頃からライキーナと共にいたお主のその憤り、儂が預かる。

 ハリスと共にあのお方の命を果たせ。任せたぞ」

 3人は立ち上がってお互いの手を重ねた。

「任された」

「おう。やってやるさ。キーナの分まで人間どもを切り刻んでやる。だから」

 バーザックは、自身の主の命を思い出したために声を途切れさせた。しかし、

「フュリスって奴を間違いなく、その拳で叩き殺してくれ」

 彼は同胞に、己の望みを託した。


 フュリスは険しい山の道なき道を進んでいた。

「急がないと。時間はそんなに無いはずよ。

 それまでに、最後までやり遂げるのよ」

 先を急ぐフュリスの旅路は、小柄な少女としては異常なほどに早かった。

 ライキーナと戦ってから2日間、フュリスは魔族と人間の軍が戦っている丘陵地帯へ向けて進んでいた。3時間ほどの睡眠を除いては一切の休息を取らず、湧き水で水を飲む以外には何も口にせずに険しい山の中を最短経路で歩いていた。

「だんだん、この力のことがわかってきたわ。もっと早く進める」

 目の前にそそり立つ断崖絶壁。

 フュリスは山羊のようにわずかな足掛かりを蹴って駆け上がった。

 山と山の間に広がる鬱蒼とした森。

 フュリスはリスのように木を登って枝を飛び移った。

 行く手を阻む深い谷間。

 フュリスは光の葉を両腕に束ねてムササビのように滑空。崖にしがみつくとヤモリのように岩肌に張り付いて登って越えた。

 崖を登る途中に岩もろともに落ちたが猫のように着地して、身体を落ちた岩に潰されても蟻の如く押しのけてから傷を癒して立ち上がった。

 力は強くなり続けていて、進むべき目標が明確な険しい旅路は今まで力に慣れる機会が無かったフュリスに、その本質に触れる学びを与えていた。


 ふみゃああぁぁぁ

(わしの出番がない)

 ルークは非常識なペースで進むフュリスを辛うじて追いかけながら、呆れて鳴いた。

(あれの力はわかっていたが、借りを返そうにもどうにもならん。

 さっきのは何だ?

 身体より大きな岩を押しのけて自前で傷を癒して、またすぐに歩きだしておった。

 こちらは腹が減ったら歩けぬ身だぞ? 加減せい。

 匂いを追って力を駆使しても見失わずにいるのが精いっぱいだ)

 フュリスが手入れしていた黒い毛並みはぼさぼさで、無理やり藪や水場を通ったために汚れやごみがついてみすぼらしく、荒い息に疲労は色濃い。

(これでは、貴族とは呼べぬな。

 乞食猫と呼ばれても言い返せぬ。

 しかし借りを返さぬは我が身の恥よ)

 ルークはディアナとの戦いでフュリスに爪を貸したが、しかし、エミリーの一撃に不甲斐なく倒されてしまった。これでは貸し借りゼロで意味はなく、返すべき借りは健在だ。

 フュリスが越えた尾根を登って岩の上から探せば、彼女の姿ははるか下方、鷹のように舞っていた。

(もうこれ、わしはいらんのではないか?)

 呆れたルークはもう一度、疲れた声でふみゃぁと鳴いて、したっと岩から飛び降りた。


 旅路は山岳を抜けて荒涼とした丘陵地帯へと差し掛かった。

 一際高い丘の上から南を見れば、幾つもの丘を超えた先に海が見える。この辺りは魔物の侵入が無いために見張りの砦が無いのだが、あと一日進んで南方大陸に繋がる地峡地帯に出ればガルトルード伯爵の軍がいるだろう。

「誰かに見られるわけにはいかないわ。

 一度南に向かって、海沿いから進みましょう」

 フュリスは海へと向かおうとしたが、丘を2つ挟んだ高台に人影を、途方もない瘴気を秘めた巨漢の姿を認めて足を止めた。

「ライキーナさんよりもずっと強い。

 きっと、四天王の1人ね」

 周囲を探っても何も潜んでいる様子はない。となれば、相手が1人でいることは好機だ。

 例えどれほどの強敵であってもどこかに隙はあるはず。それを補う仲間がいるよりは、いない方が勝てる可能性は高い。

 だからフュリスは、迷うことなく前へと進んだ。


「儂は魔王ヴェルハリード陛下が配下四天王の1人、無双のジャフィール。

 その力、そのアザ、お前がフュリスだな」

 厳つい顔に大きな口。額には5本の角、口の端には上下に突き出した牙。

 低くしゃがれた声は牙のために不明瞭だったが地鳴りのように轟いて、フュリスは自分の名前を聞き取ると、迫力に負けまいと力を込めて、肚から声を出して答える。

「そうです」

「ライキーナを滅ぼしたのはお前か?」

「そうです」

 短いやり取りをして、ジャフィールは丸太のように太い両腕を組むと目を閉じた。

(すごい瘴気。まるで人の形をした嵐だわ。触れれば吹き飛ばされそう。

 でも、どうして動かないの?)

 高台に仁王立ちしたままのジャフィールを見上げて、フュリスの内に迷いが生じた。

 これほどの殺気をぶつけてきているのに、彼からは戦おうという意思が感じ取れない。

 その疑問を口に出そうとした矢先に、ジャフィールは目を開いた。

「ライキーナは、強かったな?」

 機先を制され息が止まる。

 轟いた問いかけと共に叩きつけられた強烈な戦意がフュリスに、これに答えれば戦いが始まるのだと教えてきていた。

(この人は、正々堂々と戦いたいのね)

 フュリスは真っ向からジャフィールに向かい合う。

「ライキーナさんは強かったです。

 もし10秒戦いが早かったなら、もし私の力がもう少し弱かったら、負けていました」

 一切の虚飾を用いず伝えると、巨漢は満足げに頷いて両腕を解いた。

「四天王に相応しい最後であったか。

 フュリス、お前は死なせてはならんと命ぜられたが、いかなる手段を用いても構わぬとも言われている」

 ジャフィールは鋼のような筋肉を引き絞り、拳を握り左右に広く顔の高さに構えつつ、左足を進めて腰を落とした。

「ライキーナの仇をただで済ますつもりも無い。

 殺さぬ程度に力を削いで、あのお方の元に連れてゆく。

 四肢が欠ける程度は覚悟せよ」

 フュリスの肩幅より太い脚が撓んで弓のように力を溜めた。

 フュリスも深緑の力を放ち、光の葉が群れとなって渦を巻いた。

「行くぞ」

 巨漢の姿がかき消えて

 バン! ズドオォォン!

 右腕が爆ぜて消滅したフュリスは全身から血を噴き出しながら宙を舞った。



「何よこれ」

 アニタはネリーから焦げついた紙の束を手渡され、不満げに目を細めた。

「小屋を片付けていたら、かまどの中で残っていたんだよ」

「フュリスが証拠を燃やそうとしたってこと?」

「そうとしか考えられないね」

 断言するネリーの声音は酷く冷たく突き放すようで、アニタは彼女の心変わりに半ば憤りながらも、仕方がないとも思いながら紙をめくった。

「『聖女のことを知らせろ』……私と会った頃の日付ね」

 悔しさが湧き上がり、声音に漏れた。

「その紙は南方大陸に棲む獣の革で、魔族だけが使うものさ。

 こっちじゃ絶対に手に入らない。

 アニタ様、もうこれで決まりだよ。

 フュリスは魔女ではなかった。

 だけど、裏切り者だったんだよ」

「嘘でしょ、フュリス……」

 その紙は3割程度が焼けていたが、読めば魔族の四天王直々に送られてきた指令書だと明らかだった。内容には抜けがあるようだったが特に秘密を守るべきものは破棄していたと考えれば筋は通ったし、アニタたちが知る近年の動向と十分に一致していた。

「ディアナとエミリーのことも書いてある。いつの間に手紙を受け取っていたんだか。

 フュリスの力なら『魔女だと疑われても否定できる』ね。

 あーあ、アタシもロディも、焼きが回ったもんだよ」

 ネリーが椅子に腰かけてから天井を仰ぐ。

 正に、彼女らはこの指令書の通りに考えていたのだ。

 震える手で紙を捲るアニタ。終わり間際の紙の間から封筒がこぼれて床に落ちた。

「これは?」

「アニタ宛だったから、触っていないよ」

 ネリーが関わりたくも無いという気持ちを顔に出して、ペーパーナイフを差し出した。この場で開けろと言う意味だろう。

 それを受け取り、アニタは封を開けて中から手紙を取り出し、開いた。

 手紙を持つ指が握り込まれ手が震えて、膝を折って床に座り込む。

「フュリス、あなたは、あなたは本当に私たちを、裏切っていたのね」

 力なく床に額をつけ、歯を食い縛りながら嗚咽し涙した。



(なに、が、お、きた、の?)

 視界が真っ赤でぼやけている。耳がキーンとしていて何も聞こえない。身体中がバラバラになったみたいで上手く考えることができない。

 仰向けに倒れたフュリスは全身のいたるところで内出血を起こし、あるいは皮膚が破れて血が流れ、右腕は肩の先から無くなって傷口は真っ黒に焼けていた。

 服も胴の半分ほどが破れてしまっている。

(立た、ない、と)

 ぼんやりとした思考が辛うじて現在の状況に対応しようとする。しかし意識も視界も朧げでまとまりがなく、ただ、緑の光がちらちらと舞っていることだけが不思議とはっきり見てとれた。

 地響き。

(こ、れは、あしお、と?)

 ジャフィールの存在が意識に現れ、フュリスは自分が倒されたのだと自覚した。

 彼女の命をバラバラにして持ち去ろうとする「死」の糸。フュリスの周りでそれを断ち切り続けていた光の葉がフュリスの覚醒を機に役目を変え密度を増して、右肩に集まり腕の形となる。

「死なぬ程度にはしてある。早く立て」

 しゃがれた低い声に顔を向けると、ぼやけた視界に大きな影。

 身体中に深緑の光をまとわりつかせ傷を癒やし、元通りになった右手を握って開くと、フュリスは立ってジャフィールと対峙した。

「傷を癒したか。だがその力が尽きるまで、お前を殴る。

 死んでくれるなよ」

 巨漢が再び拳を握り、その姿が霞む。

「ひっ」

 初撃のショックが恐怖を呼び、フュリスは思わず背を丸めた。

 朧げな記憶に焼きついていたのは今と同じく、一瞬で目の前に迫る巨大な影と振り上げられた拳。

 元々戦う技術に縁遠いフュリスには何をされたのかも理解できてはいなかった。だが、恐怖に目を閉じながらも光の葉を重ね、初撃の威力に見合った守りを固めた。

 つもりだった。

 バン! ズドオォォン!

 守りはわずかに遅く間に合わず、今度は左腕が消し飛び身体中を突き抜けた衝撃波に血を撒き散らし、フュリスは地面に衝突して大きくバウンドしてから落ちた。

「儂の拳に、そんな守りは通じん」

 ジャフィールは何も特別なことはしていない。

 ただ、「ものすごく早くて重いパンチ」で殴っただけだ。

 巨体の重さを完全に乗せた拳速が音を遥かに超えていて、当たったものを何であれ撃ち抜き焼いて粉砕してしまう威力があるだけだ。

 単なる余波でも衝撃波が相手の全身を駆け巡り内臓から筋肉から引っ掻き回してあちこちの皮膚を引き裂く破壊力を持っているだけだ。

 大気を震わす拳圧が巨大な鉄槌のように或いは荒れ狂う竜巻のように相手を吹き飛ばしてしまうだけだ。

 盾? 鎧? 加護? 法術?

 そんなものは一切関係がない。

 それが、魔族四天王最強の戦士、無双のジャフィールだ。


 ふみゃあ

(あれは無理だ)

 ルークは尻をぺたんと地面につけたまま、立ち上がるフュリスをただ見ていた。

(脚に力が入らぬ……あんなものにこの身を晒して、どれほどのことができようか)

 ジャフィールの拳撃にすっかり腰を抜かし尻尾を丸め、地面に染みを作ったルークは彼我の戦力差を見積ることさえ諦めた。

 バン! ズドオォォン!

 3度目の轟音。

 ジャフィールの拳も、ふらつきながらも傷を癒して立つフュリスの力も、あまりにも圧倒的。

 猫の貴族(ケット・シー)たる己の身が蟻の如くに感じられた。

(わしはあれに麦が伸びて穂を垂れるほどの命を貰った。

 だが、例えこの身を投げ打っても、わしにはあれの命を瞬き一つほども伸ばしてやれぬ)

 ふみゃああぁぁ

 己の無力に、ルークは力なく鳴いた。


 バン! ズドオォォン!

 4度目の轟音と共に右脚を失い、フュリスは縦にぐるぐる回って飛んで頭から地面に突っ込んだ。運良く頭の下になった両腕が嫌な音を立ててひしゃげた。

 しかしすぐに両手で身体を支え深緑の光は脚を象り、フュリスは素早く立ち上がる。立ち上がったときにはもう、右脚は元に戻っていた。

(これは、きっとアニタさんが“見つけた”のね。

 ごめんなさい。信じてくれて、ありがとう)

 深緑の光が刺々しい葉の形となって宙に舞う。

 この窮地にあって、フュリスの力はさらに強まっていた。

 光は数を増しつつ濃さも増して、ついには光に包まれた実体の葉と化した。

 縁の鋭い棘も色合いも艶やかさも柊の葉そのものだ。

 フュリスの左頰から額まで、胸腹背中、手足まで、新たにアザが浮かび上がる。

「その力、これまでとは違うな。

 だが、いかなる仕掛けであろうと撃ち砕くのみ!」

 ジャフィールが構える。

 圧倒的な膂力、圧倒的な早さ、どんな力であっても使われる前にぶん殴れば一切無力。

 フュリスの呼吸を読み切って拳が放たれた。

 拳は確かにフュリスを捉えた。しかしフュリスの身に満ちた力は彼女の命と意識を繋ぎ止め、渦巻く柊の葉は拳も衝撃波も一切まとめてジャフィールまでも飲み込んだ。

「なんのこれし、き? なんと? この儂の拳を? 身体を? 馬鹿なあああぁぁっ!」

 嵐が晴れると、そこには何も残っていなかった。



 戦場には夜が訪れ魔物たちは息を潜め、不気味なほどに静まり返っている。

 銀之聖者ことバーソロミュー・グレイズヴェルドはガルトルード伯爵が指揮する本陣を離れ、丘の上の砦にある見張り塔の屋上に独り立ち、天を仰いで世界を読んだ。

「魔除け座はますます輝きを増し、その内に新たな星を得た。

 緑に輝く星だ。

 霞を飾った虹は消え、暗く星を隠そうとした雲は吹き払われた」

 暗がりからの囁きが、バーソロミューの耳に届く。

「七彩のライキーナ、無双のジャフィール、共にフュリスにより滅ぼされました。

 フュリスはこの地を避けて地峡へと南下し、魔族の陣地を目指しているようです」

「なんたることだ。

 我らが計画は大きく狂ってしまった。

 速やかにこの戦いを終わらせ、フュリスを止めなければならん」

 銀髪の英雄が呻き、影からの声に動揺が混じる。

「畏れながらお伺いしたく申し上げます」

「なんだ」

「フュリスは、あれは何者でございましょうか」

「あれは、古い力だ」

 バーソロミューは再び天を仰いだ。

「草花、木々、鳥も獣も魚も虫も、ありとあらゆる命に現れる始原の力だ。

 魔導とも法術とも異なる強大無比な自然の猛威。その根底にあるものだ。

 あまりにも根深くあまりにも広大な力故に、全貌は私の知識すら及ばぬ」

「なんと」

 影に潜む者が驚愕を漏らす。

「かつては人間たちもあの力を敬っていた。

 大地の恵み、世界樹の加護などと呼んで供物と祈りを捧げていた。

 しかし魔女の汚名を着せられ迷信じみたまじないと貶められて、廃れたはずだったのだ」

「そのようなものが……」

「あれは目覚めさせてはならなかったのだ。力を学ばせてはならなかったのだ。

 だからこそ我が手元に囲い込み聖女としての知識を学ばせ、他には何もできぬようにし続けていたのだ。

 だが、フュリスは我が手から離れ力に目覚めてしまった。

 しかもあの娘は、戦いに身を投じる道を選んだ……完全に計画外の、最悪の事態だ」

 王国にあって人の世に稀代の英雄と名高い男の声に、震えが混じる。

 バーソロミューは己の配下が潜む影を見下ろし、息を整えた。

「フュリスが何者か? そう言ったな。

 かつて、あの力を崇めていた者たちの言葉ならばフュリスは、魔を払うと言われた力の表れを示して、そう……」

 バーソロミューは天に挑む様に振り向き空高く輝く星座の中心、緑に光る星を睨む。

「柊乃巫女。そう呼ぶのが相応しい」

 睨んだ先の空から流星が一つ、強く瞬きながら天を渡った。


第四章終わりです。


もし面白いと感じたり続きが楽しみと思ったりしていただけましたら、お手数でも評価などいただければ幸いです。

たぶん、知命を超えたおじいさんが2分くらい小躍りして喜びます。

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