第23話「お話、しましょうね」
ようこそいらっしゃいました。
以前に『魅』で遭遇した謎の存在。
心霊と同じ【花銃】を持ち、バグチップをデリートしていた謎の存在。
「? いや? 黒ベール?」
「御存じないのですね……」
「待て。なんだいそれは?」
「私が聞きたいくらいですよ」
額に手を当てる、心霊。
いろいろ詰め込んだせいで頭痛がするようだ。
「……私は、私の役目はバグチップをデリートすることです」
心霊の目の明滅。
かんざしが死花を抱く【花銃】へと変化した。
「僕がキミに秘密を話した意味を考えて欲しい」
「こんな大勢の前で話す必要ありました?」
戸惑いが伝わってくる。
きっと心は伝播し、人はバグを起こしバグチップとなってしまうだろう。
「あったとも。
同類を産むためには一つでも多くの白羽が必要だ」
「私を利用するつもりですか」
「いやならばこの場で僕をデリートすれば良い。
しかし優しいキミに意思疎通の出来る相手を消せ――」
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
「「「――!」」」
銃声が響く。反響する。
けれども撃ったのは心霊ではない。
「……ああ、なるほど……黒いベールだ」
オールドワイズマンが蒼白の炎に包まれる。
それもどうだろう? 人の姿ではなくなって、真っ白な鹿になってしまった。沢山枝分かれした細い木のような角を持つ鹿に。
きっとこちらの方が彼本来の姿なのだろう。
その黄緑色の目に映るのは――どこから現れたのか件の黒ベール。
出現と、オールドワイズマンへの接近を許してしまった。
デリートを……許してしまった。
「くそ……」
オールドワイズマンの体が椅子からずり落ちた。
いや、彼の体が床に着く前に黒ベールが抱きとめた。
最期のキスをするために――
「ふ、キミのような子のキスはいらないな……」
白羽が舞う。
オールドワイズマンが消えようとしている。
黒ベールの唇がオールドワイズマンの額に――
「いらないと言った」
届く前に、なんとオールドワイズマンは自ら白羽となってしまった。
しかし。
「――?」
白羽の様子がおかしい。霧散せずに漂い続けている。
風もないのにふわり・ふわりと舞って、
「いけない!」
この場にいた人たちの体へと溶け消えた。
「痛っ!」
心霊の耳に強烈な音が響く。バグ発生の耳鳴りだ。
「なんてこと!」
白羽の侵入を受けてバグチップとなってしまった人たち。
オールドワイズマンの遺志を受けて、黒ベールへと群がり始める。
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
けれども黒ベールの動きは速く、一人、また一人と撃たれ、消えて逝く。
「お止めなさい!」
心霊の持つ【花銃】の銃口が黒ベールへと向く。
効くかどうかは分からない。だが。こんな消し方はダメだ。
だから。
ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!
撃った。
「……ダメ」
なにも、起こらない。
効かなかった。
だが黒ベールは心霊を認識したらしい。だってバグチップを消し尽くした黒ベールが銃口を心霊に向けたから。
指がトリガーにかかり、
「心霊さん!」
璃月が間に割って入り、黒ベールの動きが止まった。
自分を攻撃したわけでもバグチップとなってしまったわけでもない璃月を見て、止まったのだ。
「璃月くん」
彼の背中に隠された心霊。
黒ベールは璃月を撃つこと出来ず、いや、撃たず、暫し璃月と睨み合う。
璃月は体を張って心霊を護りきるつもりだ。
だが彼は知らない。【花銃】は銃弾を撃ち出す銃ではない。目標を炎に包む銃だ。間にいる覚悟に意味はない。
と、思われた。
「……え」
一言もらしたのは、心霊。
黒ベールの妖しい気配が消えたから。それどころかこれは――親愛の気配?
黒ベールが【花銃】を降ろした。降ろして、そのまま空気に溶けるように、消えてしまった。
「はぁ!」
どうやら緊張で呼吸を止めていたらしい。一気に空気を吐き出す璃月。
「はっ……」
「璃月くん……ありがとうございます」
荒い呼吸に肩を揺らす璃月の背を優しく撫でる。
「いえ……ただ――」
「分かっています。お話、しましょうね。
この部屋を片づけてから。
『よすが』に帰ってから」
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