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第22話「そうやってこの『現実』はずっと続いてきたんだ」

いらっしゃいませ。

 そうして一日目が過ぎ


「ツーペア」

「スリーカード」


「スリーカード」

「フラッシュ」


「フルハウス」

「ストレートフラッシュ」


 二日目が過ぎ


「ストレートフラッシュ」

「ロイヤル・フラッシュ」


「スリーカード」

「ストレート」


「フォーカード」

「ロイヤル・フラッシュ」


 三日目が過ぎ


「ノーペア」

「ワンペア」


「ノーペア」

「ワンペア」


「フルハウス」

「フォーカード」


 四日目が過ぎ


「フォーカード」

「ストレートフラッシュ」


「ストレートフラッシュ」

「ロイヤル・フラッシュ」


「フルハウス」

「フォーカード」


 五日目が過ぎ


「フォーカード」

「ストレートフラッシュ」


「ロイヤル・フラッシュ」

「ロイヤル・フラッシュ」


「フルハウス」

「フォーカード」


 六日目が過ぎ


「フォーカード」

「ロイヤル・フラッシュ」


「ストレート」

「フラッシュ」


「フォーカード」

「ストレートフラッシュ」


 最終日


 午後五時五分前


「次を最後の勝負にしようか」

「良いのですか?」

「ああ」


 不審な点はない。これまで通りに打てば勝てる。

 敗けても良いのだろうか、このオールドワイズマンと言う男は。


「では出すよ」


 相手の手は――


「ロイヤル・フラッシュ、だ」

「――⁉」


 おかしい。強い手が行くような流れはなかった。

 と言うか、引かせなかったはずだ。


「どうした? カードを」

「……フォーカード」


 ホールが騒めいた。いやギャラリーが騒めいたのだ。

 思わず腰を浮かしテーブルに置かれたカードを確認する璃月(りつき)

 間違いなく敗けている。


「これで、これまで通りの暮らしだね」

「……そう言う約束ですから」


 敗けてショックはなかった。自分の力が完全無欠と驕る気はない。いくら心霊(みれい)がプロ級の腕を持っていると言っても全てを把握出来るわけでもない。でなければもう成長の幅がないとなる。敗けることもある。

 しかし――ここまで連勝が続いていて敗けるか?


「オールドワイズマンさん、貴方わざと敗け続けましたね?」

「察しが良いね」

「どう言うことです心霊さん?」

「ここに至るまでの勝負は全て私の心理を掌握するためのモノだったと言うことですよ」

「心理……」


 オールドワイズマンを見る。そんな高レベルの罠を張っていたなんて信じられないと言うように。


「心霊嬢、キミが一癖も二癖もある人物だと言うことは承知の上だった。

 キミに勝つには真っ向勝負をしてもムダだと踏んだんだ。

 だから、心理を掴みゆっくりと誘導し、最後の最後ラストゲームで弱い手を選ぶ道に持っていった」

「見くびっていました」

「そう思わせたのも、テクニックさ」


 つまるところ心霊とオールドワイズマンが出会ってからずっとこの男の掌の上で転がされていたのだ。

 ずっとずっと、心霊の上に存在し続けたのだ。


「……楽しかったですか?」

「それはもう!」


 オールドワイズマンの顔に笑みが広がる。若返ったようにすら見えた。


「僕はもう長年挑戦者をやっていなかった。キミの前ではそれでいられた。こんな幸福があるものか」


 少年のように目を輝かせて。


「キミはどうだい?」

「……正直、悔しいですが……どこか晴れやかでもあります」

「完全な敗北とはそう言うモノだ。

 キミは常勝の姫。敗北をしらない姫だった。

 これでキミは更に上に行けるだろう」


 まるでそれが目的だと言わんばかりだ。


「目的だよ。心霊嬢にはもっと素晴らしい女性になってもらわないと困るんだ」

「? どうして?」


 素晴らしい女性にはなりたい。ああ、なりたいとも。

 しかしこの男がなぜそれを望む?


「僕はね、世界の真実とキミの正体を知っている」

「!」

「そして、世界が誰の意識で形作られているのか、その答えを探している」

「なぜ!」


 把握してはいけない。特定され接触されてしまったら『現実』はきっと変えられてしまう。


「変えるんじゃない。継がせるんだ」

「……継がせ?」

「困ったことに人には寿命があるだろう? 長くても百年前後だ。

 独りの――【火光存在(クリエーター)】の意識によって創られている『現実』は終了してしまう。

 その前に今代の【火光存在(クリエーター)】が誰なのか突きとめ若い命に役目を継がせる。

 そうやってこの『現実』はずっと続いてきたんだ」


 心霊の背後で璃月が頭を捻っている。

 当然だ。彼からしたら二人がなにを話しているのか分からないのだから。

 だが心霊とて完全に理解出来ているのではない。

『現実』を継がせるだって? ずっとそうやって来ただって?


「心霊嬢、『外』から来たキミは『外』に帰れば良い。

 けどね、僕たちにとってはここが唯一の世界なんだ」

「……救いたい気持ちは分かります。私とて破滅論者ではないので。

 ですが、そもそも貴方は何者です?」

「キミが殺すべき相手――バグチップさ」

「……バグチップ」


 発生を見逃したと言うのか?

 いやさこんな間近にいて気づけないはずがない。

 加えて言うならバグチップとは人としてエラーを起こしている人間だ。こんなにも普通を装えるバグチップなんているわけが……。


「キミはバグチップをデリートした際、最後まで行方を見ているかい?」

「もちろんです」

白羽(しらは)の行方は?」

「え……」


 白羽。心霊によって焼かれたバグチップは白羽となって霧散する。


「霧散した先は?」

「……」


 知らない。考えた覚えもない。


「良いかい? 霧散した粒子は河となって存在し続けている。

 右に曲がり、左に曲がり、時に渦を巻く。

 渦を巻いて一点に降り積もり、バグチップ【ドリーミー】を産み落とすんだ」

「それが……貴方」

「グレードマザー【母性の象徴】

 オールドワイズマン【強さや権力】

 アニマ【理想の女性像】

 アニムス【理想の男性像】

 シャドー【コンプレックス】

 ペルソナ【表向きの顔】」

「最初からバグチップとして産まれた人……【ドリーミー】」

「ああ」

「私に素晴らしい女性になってほしいのは貴方がたが産まれるきっかけとなる女だから」

「その通り」

「待って。貴方の同類に黒ベールはいますか?」

第22話、お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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