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第21話「テレビゲームだったら負けませんよ! 本場は日本です!」

いらっしゃいませ。

「ノーペア」

「ワンペア」


「スリーカード」

「ストレート」


「フルハウス」

「フォーカード」


「ストレート」

「フラッシュ」


「強いな」

「当然」


 心霊(みれい)はきちんと心理戦を仕掛けている。

 もともと、彼女はあらゆる場所に侵入出来るよう鍛えられているのだ。庶民レベルから貴族レベルの遊び事まで。苦手なことと言えば遠慮し続けた性関係だが、今この場においてそれは不利に繋がらない。

 そんな感じで午後五時少し前になり、


「五時になったら明日へ持越しだ。あと一回だね」

「了解です」


「フルハウス」

「フォーカード」


「あっはっはっはっはボロ負けだ」

「…………」

「おやご不満のようだね」

「貴方に向けられているギャラリーの視線とブーイングが私の心境ですよ」


 やれやれと頭を振る者、もう飽きて手元でなにかをしている者、オールドワイズマンを睨め上げる者、ストレートな罵声を浴びせる者まで出る始末だ。


「う~む、居心地が悪い」


 そう言って頭をかく。しかし笑みは消さない。ギャラリーを良く観察するとオールドワイズマンと同じく笑んでいる者も何人かいた。心霊の味方だろうか? それともオールドワイズマンの?


「とにかく、本日はここまでだ。この後は自由となるからまずお部屋までご案内しよう」


 わざわざオールドワイズマンが案内しなくても良さそうだが、それでも彼は先頭切って歩き始めた。心霊は伸びをして一つ二つ骨を鳴らすと見張りに全力投球してくれていた璃月(りつき)と一緒にオールドワイズマンの後に続いた。


「見張り、お疲れさまです璃月くん」

「見張る必要なかった気がします。ギャラリーは中立がほとんどに見えたし後方に位置していたから手が出せるはずもない。オールドワイズマンにもズルはなかったです」


 言って前を行くオールドワイズマンの背を見る。楽しそうにスキップ寸前の歩き方をしていた。

 今日は見張る必要はなかった。が、まだまだ一日目。彼は一勝すれば良いのだからXデーまで油断は出来ない。そう思って璃月は鋭い視線を背中にぶつけてみるがオールドワイズマンが振り返ることはなく。


「こちらだ」


 連れてこられたのは最上階の一室。いや一室と言うか……フロア全てがワンルームになっている最高級の部屋だ。


「鍵はカードと指紋認証になっている。二人の指紋を登録するから、ちょっと待ってくれ」


 何度か機械を操作し、


「順番に人差し指をここに置いて」


 と二人に指紋の提供を申し出た。まず心霊が登録し、ついで璃月。最後にカードを二枚受け取って部屋に入った。


「荷物はすでに届けられている。

 ああ、ベッドは離れて五つほどあるからご安心を。

 では、ごゆっくり」

「ハイ」


 二人が部屋に入ったところでドアが閉じられ、オールドワイズマンとは一時別れた。

 ベッドが離れているとは言え、心霊さんと同じ部屋! 急に緊張しだす璃月。顔もきっと赤くなっている。

 一方心霊はと言うと。


「わーすごい眺めですよ璃月くん」


 窓まで駆け寄った心霊は外を眺めて目を輝かせた。

 璃月も近寄ってみると、なるほど確かに良い景色だ。東京や北海道には負けるが県庁所在地の街並みが一望出来る。空は右は赤から橙色へと変化していて、左には夜の気配を予感させる紺色がじわりと姿を見せている。もう少し経てば美しい夜景が見えるだろう。


「少し怖いですが、良い部屋ですね」

「まあゲーム機いろいろ揃っていますよ璃月くん」

「……風情とか緊張とかは?」


 大きなため息を零して、それでも璃月は心霊の横に体を置く。


「部屋に監視カメラや盗聴器がないかを調べたらひと勝負します? ポーカーで勝ちすぎたからせめて接戦してもらいたいのですけど」

「テレビゲームだったら負けませんよ! 本場は日本です!」

「数年前スマホに負けましたが」


 本体の出荷台数で。

 スマートフォンが棒状のガジェットになってからは更に差が開いている。


「うっ。あ、あれはあくまで電話です」

「まあ確かに通話機能を持っていなかったら買う人は少なかったでしょうが」

「ですよね!」

「それより、まず調査です」

「は、ハイ」


 コンセント、ライト、人形、絵画、ペン、時計など調べてみたが特になにも見つからない。二人の目でちゃんと確認したし、スマートフォンの探査機能を使っても確認した。なにもない。ま、部屋を盗み見ていてもポーカーで勝てるわけでもないか、と心霊は一人で頷いた。


「うう」


 ぶるっと体を揺らす璃月。


「ちょっと手洗いに」


 そそくさとトイレに行く璃月を途中まで目で追って、心霊は持ってきた棒状スマートフォンの投影機能を作動させた。自宅の監視カメラ映像をチェックするためだ。テーブルの横にある椅子に座して映像を投影し、早送りで確認。うん、各部屋は異常なし。花壇や池のある庭にも不審者が立ち寄った形跡はない。

 心霊を誘い出して家からなにかを奪う気ではないようだ。

 璃月が戻ってきたところで心霊は投影をオフにしてスマートフォンをケースにしまってテレビをつけた。どこも夕方のニュースを流していて、政局や事件事故を報じていた。子供が行方不明になって三日が経つらしい。事故と誘拐の両面で調べているらしく、写真を載せて情報提供を呼びかけていた。

 他にも少しばかりエンタメ系の話があった。特に大きく報じられていたのは有名な男性歌手による結婚発表。お相手は一般の人で、子供を授かっての入籍らしい。付き合い自体は五年になるのだとか。


「心霊さん、夕食はビュッフェだそうですよ」


 テーブルの上にあったボードを見ながら楽しげに言う。


「五時から始まっているそうですけど、すぐ行きますか」

「ん~、一時間休みます。手首が疲れたので」


 筋肉痛にまではなっていないが今日は良く使ったから。


 その夜、これと言った異変もなかったために大人しく就寝した。

 まあ大人しくと言っても璃月は緊張で大人しかっただけだが。

第21話、お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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