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第20話「では、始めよう」

ごゆっくりどうぞ。


「お待ちしておりました」


 翌日、『よすが』に着くと璃月(りつき)とオールドワイズマンが白い普通乗用車の前で待っていた。そしてオールドワイズマンは恭しく礼をするのだ。

 権力がどうのこうの言っていたからてっきり高級車で待っていると思ったが、違ったか。


「すまないね。いかにもな車を使うと余計なギャラリーがわいてくると思ったのでな」


 申し訳なさそうに頭をかく。


「気にしなくて良いですよ。別に私は豪勢な暮らしをしたいわけではないので。そもそもその気があるなら今の家ではなく高級マンションの最上階フロア全部買っています」

「それは良かった。では、乗ってくれ」


 ドアを開けて二人を招き入れる。

 心霊(みれい)だけでなく璃月にもそうしているあたりあからさまな区別をするタイプではないようだ。

 まあ、それでなびく心霊ではないが。




「こちらだよ」


 十分ほど車を走らせて、着いたホテルは某ブックにも載っている五つ星ホテル。車を正面に回すとホテルマンがすぐに駆けつけてドアを開けた。

 心霊はちょっとした街の有名人だが、彼女を見ても特に反応はなく。

 ひょっとするとホテルスタッフ全員オールドワイズマンの味方かもしれない。

 仕方ない。珍しい一週間と思って楽しみますか。と心霊はちょっぴりひっそり笑った。

 心霊と璃月はエントランス、ロビーを通り、大きなホールへと通された。

 中央に花とレースで飾られたテーブルと二脚の気品ある椅子が有り、その周囲に円を書くように少し見劣りのする椅子が並んでいる。


「全部で何人のギャラリーが入るのですか?」


 璃月の目だけで見張りが足りるかどうか。


「三十名ほどだ」

「多いですね。全て貴方の部下でしょうか?」

「いいや。僕が不正しないようにポーカーのプロに見張りを頼んだ。あくまで見張るのは僕だ」


 言葉に嘘はないように感じる。本当に自分を見張らせるつもりだ。


「ふ……ん。まあ良いでしょう」

「勝負は十一時からにしよう。その頃にはギャラリーも揃っているはずだ」

「使用するトランプを見せていただけますか?」

「ああ。テーブルに置いてあるモノがそうだよ」


 言われて中央にあるテーブルを見ると、確かに小さなケースがあった。

 手に取って蓋を開けてみると金箔で装飾されたカードの束が出てきた。一枚一枚取ってはテーブルに置いて、全て確認したが綺麗なこと・独特な絵であることを除いては普通のトランプだ。


「この日のための特注品だよ。終わったら差し上げよう」

「負ける気はないですが、敗戦した場合はいりません」

「そうか。ではその時は僕が。姪が僕の影響かトランプが好きでね」


 言いながら頭をかく。照れくさそうにしているのだ。


「貴方は昔からトランプを?」

「趣味と商売に。ポーカーでそこそこ稼がせてもらった時期がある。あ、賭け事でお金を稼ぐのはお嫌いかな?」

「別に。拝金主義者かギャンブル依存まで行くと引きますがプロにまでなったのなら誇って良いのでは」

「それは良かった。ああ、お客さまがいらっしゃったようだ」


 ドアの方に目を向けると、きちんとスーツを着た男女がぞろぞろと入ってくるところだった。心霊を見て目を大きくする男、ヒソヒソ話し出す女、緊張した面持ちになる女、反応は様々だ。

 ホテルマンに促されて彼らは着席する。それを見て心霊も中央の一脚に腰を下ろした。そのすぐそばにも椅子があって、璃月の席だろうと気づいた。心霊は璃月に目で合図して着席してもらう。

 十一時まで、二十分。




「十一時になりました、心霊さん」

「ええ」


 その時まで立ったり座ったりとギャラリーの話し相手になっていたオールドワイズマンが改めて着席。

 そして言葉を出す。


「では、始めよう」


 二人の間に立ったディーラーがカードを切って配っていく。ディーラーからも怪しい雰囲気はない。まあ怪しい人間が怪しさ爆発な格好をしているとは限らないが。


「さあ、勝負だ」

「ええ」


「ノーペア」

「スリーカード」


「ツーペア」

「ストレート」


「ワンペア」

「スリーカード」


 始まってみると、なんてことはない普通のポーカーだった。それもこのオールドワイズマンと言う男、弱い。心霊の勝利が十回続いたところでギャラリーからブーイングが上がり始めた。当のオールドワイズマンは素知らぬ顔で唇を尖らせ下手な口笛まで吹く始末だ。


「ストレート。ああ、やっとノってきた」

「随分ゆっくりした加速ですね。

 フラッシュ」


「フォーカード」

「ロイヤル・フラッシュ」


「フォーカード」

「ストレートフラッシュ」


「ノーペア」

「ワンペア」


「ロイヤル・フラッシュ」

「ロイヤル・フラッシュ」

「おっと、惜しいな」


 惜しくなどない。この男、ギャンブルに必須な心理戦を全く仕掛けて来ない。まるで無為。無意。無駄。と言うように。

 それでは敗けて当然だ。

 このまま心霊は勝ち続け、午後0時に一時中断し昼食を摂った。食事はこの場で行われた。ギャラリーは他に食べに行ったが三人の食事はここに運ばれてきたのだ。

 腹にもたれない程度に摂り、午後一時再開。

第20話、お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくです。

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