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第19話「ご自分の名を恥じてはいけませんよ」

いらっしゃいませ。

「日本人ではなかったのですね」

「日米のハーフだよ」

「でもこれ、どう考えても噓でしょう。怪しすぎですよ」

「コードネームさ。本名はちょっと……」


 頬をほんのり赤くして頭をかく。

 どうやら名乗れないのではなく恥ずかしいから名乗りたくないようだ。


「ご両親が精一杯考え愛情をもって名づけられたのでしょう。

 ご自分の名を恥じてはいけませんよ」

「……僕、今そんな表情しているかい?」

「していますね。恥ずかしく、けれど人の好さそうな表情が張りついています」

「ふむ」


 眉根を下げるヴァイナー。困ったように右を見て、左を見て、改めて心霊(みれい)に向き直る。話そうかどうしようか迷ったらしい。こうして正面を向いたのは話そうと思ったからだ。


「かくれんぼが好きだった」

「あー随分前、子供の頃にやった覚えがあります」


 思い出せるのはまだ年齢が一桁前半の頃。


「僕もやっていた。高校に入ってからも」

「貴方高校生になってもやっていたのですか……」

「甥っ子がいるので遊びに付き合うのだ。今度紹介しよう」

「いや別に」


 紹介されても困る。


「心霊嬢にご家族は?」

「どうして私の家族構成を貴方に教えなければならないのです。

 くっそ迷惑です」

「ははははは。ときどき毒を吐くのも面白い」

「マゾか」

「ポジティブだと言ってくれ。

 あっと、僕の名前の話だったな」


 こほん、わざとらしく咳を一つ入れる。

 本当に自分の名が苦手なようだ。


「……オールドワイズマン」

「なんだ。良い名ではないですか。

 って、かくれんぼどう関係が?」

「え? かくれんぼのくだりは僕の思い出を知ってもらいたかっただけなんだが」

「殴って良いですか?」

「僕に触れたいのか」


 良いぞ、と頭を差し出された。


「……本当にポジティブですね」


 本気で呆れた。一歩引いてさえいる。


「名前、恥ずかしいわけじゃないんだ」

「へぇ」


 流すように話を聞き、雑な返事になってしまった。

 けれど相手が相手なのでまあ良いかとも思う。


「聞く人が聞いたら僕を恐れる心配があるのでな」

「? 不良とか犯罪者とかですか?

 はっ、まさかお尋ね者?」

「いやいやいやいや。

 母国でそれなりに強さや権力を持っているってだけだよ。

 大統領とお茶出来たり」


 どこがそれなりなんだ? とまたも一歩引く。


「そんなわけで本名を積極的に名乗るのは控えているんだ。

 だけど、心霊嬢が本名が良いと言うなら呼ばれ続けても良いぞ」

「ぶっちゃけどちらでも良いのですが」

「はははははははは。名乗らせておいてそれか。

 キミは中々にSだな」

「違います」


 辛辣なのはオールドワイズマンに対してだけだ。


「勝負をしないか」

「は?」

「僕がポーカー(ホールデム)で敗けたら二度とキミを口説かない」

「私が敗けたら?」


 怪しい条件が来そうだと眉を寄せる。

 だが。


「なにも要求しないよ。これまで通りで問題ない」


 なんと。てっきり付き合えとかデートしろとか言い出すと思っていた。

 だから心霊はちょっとだけこの男を見直した。

 まあそれを差し引いても好きにはなれないが。

 唇に人差し指を当てる心霊。暫し目を閉じて黙考して、目を僅かに開く。細く開かれた目には光が鋭く宿っていて。


「良いでしょう。受けましょう」


 オールドワイズマンの表情が華やいだ。心底嬉しそうだ。

 一方で心配そうな表情を浮かべるモノもいた。


「良いんですか? この人勝負は一回なんて言っていませんから勝つまでやる気かも」


 接客を終え、カウンターにて合流してきた璃月(りつき)である。


「そう言えばそうでしたね。

 オールドワイズマンさん、何戦やるつもりで?」

「勝つまでと言いたいけれど滞在が許されているのは――」


 左右の指を使って七本おっ立てる。


「今日を除き残り一週間。一週間を過ぎると一度アメリカに戻って仕事モードに入らなきゃいけない。

 だから一週間出来る限り勝負して、一度でも僕が勝てばこれまで通りと言うことで」


 これまで通りとは言え、アメリカに戻るならもうほとんど『よすが』に顔を出したりはないのだろう。


「申し訳ありませんが貴方の都合は考えません。

 一週間で済むと言うならそれまで捌き続けさせていただきますよ」

「構わないよ。

 僕も勝つつもりでいくから」


 頷く、心霊。


「では、勝負はいつどこで?」

「う~ん。折角だからそれなりの舞台を用意しよう。

 ホテルのホールでも借りようかな?」

「え、待って。一週間拘束されるんですか私の時間」

「ダメかな」


 言ってオールドワイズマンが目を向けるのは心霊ではなく、雇い主である薫風(くんぷう)だ。


「俺に聞くな。

 心霊に聞け。心霊が良いと言うなら一週間は俺がなんとかしよう。

 ただし、お前さんが不正をしないよう璃月をつける」


 満足そうに頷く、オールドワイズマン。


「で、どうする心霊嬢?」

「……」


 一度薫風を見て、璃月を見る。

 薫風はいつも通りの表情だが璃月は心配していますと言う表情だった。けれど。


「……分かりました。璃月くん、見張りよろしくお願いします」

「……ハイ」


 勝っても敗けても心霊に損はない勝負だ。

 オールドワイズマンとの関係を断てるなら、それで今後璃月に心配をかけないで済むのなら、一週間くらい付き合ってあげよう。


「それじゃ、明日の十時にここに迎えに来るよ。

 一週間分の服の用意を。

 ああ、部屋は最高級のモノを用意する。お金もこちらで持つから心配なく」

「分かりました」

第19話、お読みいただきありがとうございます。

この次もよろしくお願いします。

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