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第17話「おれは千秋(かずあ)」

いらっしゃいませ。

 璃月(りつき)はいつも朝のランニングを行っている。

 高校では部活に入っていないから体力と筋力の低下を防ぐためだ。これは心霊(みれい)に好かれたいからではなく、自分が理想とする体型を維持するためのモノである。


「良し、昇るぞ」


 いつもの神社――地威神社(ちいじんじゃ)と言う――の階段に辿りついて気合を入れる。朝だけは走って昇るからだ。


「せーの」


 一歩二歩、一段二段と元気良く昇っていき――


「いつもながら……厳しい」


 最後の方ではバテバテになりながら、それでも速度は落とさずになんとか昇りきった。


「はぁ」


 まずは呼吸を整えようと軽く歩き続ける。

 その間に例の建物に目を向けると、看板が出ているのが見えた。どうやらもう開いているらしい。

 加えて桜色のエプロンをつけた男性が水まきもやっていた。これから昼にかけてやってくる熱波に備えてだろう。


「さて、行こう」


 呼吸は落ち着いた。

 汗も拭いた。

 これでようやくなんの建物なのか謎が解けるぞと璃月は男性に近づいていく。


「あの」

「うん?」


 声をかけられてようやく璃月の存在に気づいたらしく、男性は顔を向けてくれた。


「(あれ? この声どっかで……)」


 聞いた覚えがある気がする。どこでだ?


「えっと、この建物は?」

「ああ、ホラこれ」


 男性――残夜に近い色の目で背が高く白髪だがまだ若い青年は看板を指さした。

 それだけなのに優雅な仕草だった。

 顔も優し気で整っていて、半袖から覗く腕には見て分かる筋肉がついていて、けれどもマッチョではない。必要なだけの筋力をつけたと言う感じだ。


「雑貨屋だよ。『育ちの丘雑貨』って言うんだ」


 なるほど確かにそう書かれている。いや描かれている。

 しかし、雑貨屋だって? こんなところで? 璃月は少し頭を捻る。


「もちろん許可は貰っているよ」


 男性は、璃月の心を読んだかのように答えをくれた。


「おれは千秋(かずあ)

 ここの店長で唯一の店員。

 ラヴァース・千秋。千秋と呼んでほしい」

「あ、オレは璃月です。

 湯和(ゆわ) 璃月です」

「敬語はいらないよ。よろしく」


 手を取られた。しっかり握られて、上下に軽く振られる。


「(この手?)」


 これもどこかで覚えが……。


「あの、オレたちどこかで会ったかな?」

「会ったね、『(みそめ)』のプールでだ」

「プール……あ!」


 あの人だ。

 なぜか溺れかけてしまった時に助けてくれた男性。間違いない。


「開店資金を集めるために『(みそめ)』で働かせてもらっていたんだ」

「あの時はどうもありがとう、助けてくれて」

「いやいや。

 彼女さんとは仲良くやっているかい」

「彼女……ではないんだけど」

「あ、そうなんだ?

 それじゃ、好きな彼女とは仲良くやっているかい」

「す――」


 なぜバレている?


「キミは分かりやすかったからね」

「そ、そうだったかな。

 あー、どんなの売っているの?」


 恥ずかしくなったので話をそらした。

 けれどクスクスと笑われてしまった。が、璃月はそれには気づいていないよとばかりに店内へと入っていって。


「恋愛成就のペンダントに……宝石……香水?」

「ここは縁結び神社だからね。

 それに因んだモノを売っているんだ。だから出店オッケーが出たんだよ」

「ああ、そっか」

「璃月もなにか買っていくかい?」

「そうだね……」


 助けてもらった礼もある。心霊との仲が深まるなら尚のこと欲しい。


「お薦めは?」

「どれも。と言いたいとこだけれど、一際出来が良いのはこれかな?」


 千秋が手にしたのは。


「小さいけど……弓?」

「ハマユミさ。破魔矢に使われるヤツで、好意を射止められるように」

「好意」

「ポケットにでも入れておくと良い」

「……じゃ、それを買わせてもらうよ」


 千秋からハマユミを受けとりながら。


「ありがとう。

 五百円だ」

「五百円……と、現金?」

「現金でもデジタル円でもどちらでも」

「それじゃ」


 千秋の出してきた端末で顔認証、チャリンと音が鳴って、これで支払い完了だ。


「また来ても良いかな」

「当然」

「じゃ、今日はこの辺で」


 互い軽く手を挙げ、璃月は階段まで行き振り返りもう一度手を挙げる。千秋の方ももう一度手を挙げ、笑顔での別れと相成った。

 璃月と千秋――二人の間には熱を冷ますための水があった。

第17話、お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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