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第15話「……黒ベールさん、貴方は何者?」

いらっしゃいませ。

「誰も~いませんね」


 時間ギリギリで更衣室に戻ってきたからだろう。もう残っている人は僅かで、いま心霊(みれい)のいる角には誰もやってくる気配はない。

 ひっそりと水着を解いて普段着に。


「なにも見えない、と」


 発生したバグチップの視界をおぼろげに映し出す【矢瞳(ポインター)】を確認するも現在なにも映っていない。活動中のバグチップは(多分)存在しない。

 耳鳴りの件は気になるが静まっている以上確かめようもない。バグチップが誰かに危害を加えた前例もないから今日はこのまま帰るのが良いだろう。初めての例がここで確認されるかもだが。


「――とは言え」


 ホログラムの地球上に見えたなにか。これもこれで気になる。


「なので最後にちろっとプールを覗き見です」


 更衣室の扉を開けて、プールエリアをザッと見回す。

 もうライトも最低限しか灯っておらず、プールの水は黒く見えた。


「少々怖いですね……特にホラ、あそこにいるスタッフさんがオバケに見えて――スタッフさん……?」


 ではなかった。

 だって『(みそめ)』のスタッフはあんな風に黒く床につきまくるほど長いベールなんて被っていない。


「え? なにあれ?」


 バグチップではない。

 いったいなんだ? 本物のオバケか?


「……確かめざるを得ないですよね」


 心霊の目の光が明滅する。普通の人間やバグチップなら侵入出来るはずだが――無理だった。


「やはりバグチップの類ではない、と」


 念のためにかんざしを【花銃(フィックス)】に変化させ、黒いなにかと距離をたっぷりとって正面に回る。


「えぇ……」


 ベールの内は、なんと言えば良いのか……星空、か? 沢山の細やかな光で溢れているのだがベールが黒いから星空に見えた。しかし星空がこんな風に出歩くなどあるはずもなく。


「しかも薄っすらと人の体があるし……」


 これでは本当にオバケではないか。


「一度撃ってみましょ――っつ!」


 耳鳴りがした。バグ発生を報せる心霊のデバイス能力。


「近い」


 それも強烈な音だ。バグチップとなってしまったのだろうと思われた。


「こちらも気になりますがまずはバグチップを。

 ――ん?」


 黒ベールが動いた。想像していたよりもずっと速く、まるで氷の上を滑るかのような動きであっさりと心霊の脇を通り抜けられた。


「どこへ?」


 追うかバグチップを優先するか一瞬迷ってしまった。その一瞬で黒ベールはもう遠くまで去ってしまい、悲鳴がパーク内に微かに響いた。


「いけませんスタッフさん方!」


 遭遇してしまったか。

 なら、優先すべきは黒ベールだ。

 一度決めると心霊の行動は早い。即座に黒ベールを追うべく駆け出し、ほどなくして立ち止まる黒ベールに追いついた。

 ここは――機械室か? 恐らくパーク内のライトを操作する部屋。その入り口で黒ベールは立ち止まっている。

 窓から中を覗けば男性スタッフが二人壁を背に立っていて。後ずさって壁についたと言うところだろう。

 ただ気になるのはもう一人、男性スタッフが黒ベールの前に立ち尽くしていると言う事実。


「彼がバグチップですね」


花銃(フィックス)】を構え、撃――


ガ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!


「あれ?」


 撃とうとしたところで銃声が鳴った。

 心霊ではない。彼女はまだ撃っていない。

 では誰が?


「……嘘」


 黒ベールの手に、【花銃(フィックス)】があった。デザインは心霊のモノと同じ。ただ心霊のモノが金なのに対して黒ベールのモノは白。真紅の死花に対して蒼白の死花。

 その銃口は今、バグチップの胸にピタリとあてられていて――


「っ!」


 バグチップが蒼白の炎に包まれた。

 ゆっくりとくず折れるバグチップ。そんな彼の体を黒ベールは優しく抱き上げる。白羽(しらは)となって消えて逝く体を。

 そして最期に、額にキスを一つ。

 なんだこれは? この黒ベールは一体?


「あ」


 いけないと思った。目撃者がいる。困惑は新たなバグを発生させてしまう。

 だから。


「強引になりますが」


 明滅する心霊の目。本来バグチップにしか使用してはならない力だが仕方ない。


「ごめんなさい」


 立ち尽くす男性二人に侵入し、眠らせることに成功した。

 さらに明滅する目。一連の出来事の記憶を消去せねば。


「……良し、完了。

 あとは――」


 黒ベールだ。

 今、黒ベールは昇っていく白羽を眺めている。心霊に対しなにかをする気配はない。


「……黒ベールさん、貴方は何者?」


 オバケの噂はこの黒ベールに違いないだろう。

 なら、この黒ベールは心霊よりも早くバグの発生に気づきここに出向いていた、となる。


「『外』から来たのでしょうか?」


 黒ベールは応えない。そもそも言葉を発せられるのだろうか?


「むぅ、困りましたね。

 あら?」


 白羽が全て消えた。空気に溶けるように霧散したのだ。

 それを見届けた黒ベールの姿も消えていくではないか。


「ちょ、ちょっと待って」


 しかし心霊の伸ばされた手は姿を消して往く黒ベールを掠めるだけ。届かない、触れない。

 そうして黒ベールは――幻だったかのように消えた。


「……どうなっているの?」

第15話、お読みいただきありがとうございます。

今後もよろしくお願いします。

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