表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/49

第14話「ぜひ一年後も隣にいてくださいね」

いらっしゃいませです。

 地球が浮かんでいる。

 パーク『(みそめ)』の外はもう日が沈んでいるのだろう。それに合わせてパーク内もライトが落とされて、頭上には大きな地球が浮かんでいた。


「幻想的」


 浮かぶ地球――ホログラムの地球に手を伸ばし、そっと撫でる心霊(みれい)


「ハイ」


 璃月(りつき)は心霊をひっそりと見ていた。地球を見るふりをしながら。

 心霊は暗闇に浮かぶ地球を幻想的だと言った。けれど璃月の目には心霊こそが妖精のようで幻想的に映っていた。

 今、二人はナイトプールに浮かぶソファ代わりのエアーベッドに並んで寝転んでいる。

 時間限界までこうしているつもりでいたのだが。


「――?」


 地球の上に、動くなにかが見えた気がした。

 他の誰も気づいていない、心霊にだけ見えたなにか。いや見えたと言うか……感じた、と言った方が正しいか。

 なぜなら『なにか』から感じられた波長が誰かに似ている気がしたから。

 でも、誰に?




「ああ、もう終わりなのですね」


 プールの上に浮かんでいた地球が消えた。閉園の時間がやってきたから。

 名残惜しそうな表情になる心霊に璃月は。


「また来ましょう。

 オレ、何度でも心霊さんと来たいです」

「……璃月くん」


 少しだけ胸が痛む。今日ここに来た目的はオバケの真相を確かめるためだった。いや、璃月との休日を楽しんでもいたが彼には内緒の理由で付き合わせてしまったことに変わりはない。


「あのね璃月くん」


 言うべきか?

 それとも彼の気持ちを考え黙っておくべきか?

 ……ノーだ。そんなの自分のためでしかない。


「私、ここに来たかったのは――」

「オバケ騒動に興味があったんでしょう?」

「……え?」


 先を越された。

 と言うか知っていたのか。


「『よすが』でお客さんの話に耳傾けているの見ましたから」

「そ、そうなのですか?」


 意外だ。絶対に気取られないよう普通を装えていたと思っていたのに。


「気づけますよ。

 オレ、えっと……ずっと心霊さんを見ていたんですから」

「え、ほんのりストーカー?」

「ちっ違いますよ!」

「ボリューム」

「あ、ごめんなさい」


 上半身を起こし、周囲に一度頭をさげる。

 迷惑な客――とは思われなかったようで、少しだけ笑われてしまった。


「……璃月くん」

「あ、ハイ」

「私はね、ちょっぴり普通とは違うんです」


 自分の胸に手を当てる。ただの人間であれば心臓がある胸。けれど心霊の体に内臓はなく。

 では、心はあるか?


「『ここ』にいる人たちは私を拒絶しない。

 すんなりと受け入れてくれる。

 そう言う風に出来ているのです」


 それは璃月がずっと感じていた違和感だ。

 不思議な存在である心霊を誰も不思議と感じない。


「だから、璃月くんが私に向けてくれている感情もその一つで――」

「オレ、貴女に興味があるんです」

「……興味?」

「ハイ。

 どうして誰も心霊さんの妖しさを怪しいと感じないのか。

 どうして誰も心霊さんを疑わないのか。

 最初なにかに化かされているような気持ちでした。

 だからずっと秘密を知りたいと思っていた。

 それを広める気はなかったけれど、暴きたいと言う好奇心から貴女を見ていたんです。

 けどね心霊さん。

 皆が貴女を受け入れているのは極めて簡単で単純な理由だったんです。

 貴女が人として魅力的な人――それだけなんです」


 横になったまま、心霊は璃月を見つめ続ける。

 放たれる言葉を吟味し、彼の真意を得ようとする。

 ……嘘なんてない。本気で璃月は言った通りに思っている。


「私、魅力あります?」

「大ありですね」

「人として?」

「ハイ。

 だからオレは、心霊さんが好きなんです」


 僅かに開く、心霊の瞼。

 璃月の気持ちには気づいていた。だってそう出来ているから。けれど違うと璃月は言う。

 ああ、どうしてだろう?

 気づいていた気持ちなのにどうしてこうも胸が弾むのだろう?


「……璃月くん、バグってます?」

「は? バグ?」

「いえ、冗談です」


 これまで誰に告白されても動かなかった心が動いた。

 ならば自分も正直にならなければ。


「私には今、恋する相手はいません」

「……ハイ」


 いけない、表情を曇らせてしまう。

 では話をやめるか? 否。


「恋出来ないのは、私が『ここ』の人たちをどこか俯瞰で見ていたから。

 けどそれやめます」

「え」

「璃月くん、私はこれから皆さんを普通に見ます。

 特に――璃月くんを。

 けれど誰を好きになるかは私にも分かりません。神さまにだって分かりません。

 ただ私をそうしたのは貴方。

 璃月くんが今、恋する相手に一番近いのだろうと思います」

「オレ、誰にも抜かれないよう頑張ります」

「ふふ、ぜひ。

 ぜひ一年後も隣にいてくださいね」

「――ハイ」


 アナウンスが聴こえる。閉園を告げるアナウンスが。

 今日のデートはここまでだ。いや、家に帰るまでがデートか?


「さて、そろそろ着替えに行きましょうか」

「ですね」


 本音を言えばもう少し心霊の水着姿を見ていたかったが、仕方がない。今日は終了。

 これからやってくる夏にまた誘おう。そうやってデートを重ねて、いつの日か振り向かせよう。

 心霊の隣は誰にも譲らない。

 誰にでもなく心の中で璃月は自分に誓った。

第14話、お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ