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第13話「手に入れた情報の正否を確かめ、手段の善し悪しを判断出来る人であれ」

いらっしゃいませ。

「ほほぅ」


 温泉エリアに入って、璃月(りつき)を試すように流し目を向けた。

 そんな心霊(みれい)の妖しげな様子にドキリとする璃月であったが今はそれ以上の問題がある。


「どうします璃月くん?」

「どう……え? 心霊さんは入る気ですか?」

「当然ですせっかくの温泉ですよ」


 胸に手を当てる心霊。

 こちらは本当に入る気満々だ。


「でも……」

「でも?」

「……混浴ですが」


 一方璃月は怖気づいたのか恥ずかしいのか実は入りたがっているのか困惑しているご様子。

 いざこう言った場面になると男の方が弱いのかもしれない。


「混浴ですねぇ」

「他の男もいるんですよ?」

「それは『オレにだけ見せるならオッケー』と言うことでしょうか?」

「そ――あ、いや」


 思わず頷きそうになった。


「本当に良いんですか心霊さん?」

「良いんですよ璃月くん。

 だってホラ」

「え?」


 一歩前に出る心霊。

 すると彼女の体で隠れていた木の案内板が璃月の目に入って――


「『水着でどうぞ』?」


 と案内板には書かれていたのだった。


「璃月くんのエッチ」

「心霊さんのバカ」


 顔が真っ赤になった。

 ここはあくまで水着で楽しむレジャー施設。よくよく考えれば当たり前だった、と。


「ふふ、からかいがいのある子です」

「~~まあ? 心霊さんを楽しませるための演技ですから?」

「ハイハイ」

「演技ですから!」

「さ、入りましょう」


 クスクス笑いながらさらに一歩前に出る心霊。自動ドアのセンサーが反応し、開いた。中の熱気を逃さないためだろうか? ドアは二重になっていたからもう一つ開く。


「うわぉ」


 やはり、だ。漂う熱気が二人の体を包み込んだ。


「暖かい、と言うより熱いですねぇ」

「まだ廊下なんですけどねここ」

「ですね。

 では本番と参りましょう璃月くん」

「ハイ」


 今度は璃月が先行し、浴場への扉を開く。


「「オオ~」」


 扉を開いた途端湯気に襲われた。立っているだけで汗が出てくるようだ。


「いっぱい種類がありますねぇ」

「泉質だけで、

 単純温泉

 塩化物泉

 炭酸水素塩泉

 硫酸塩泉

 二酸化炭素泉

 含鉄泉

 硫黄泉

 酸性泉

 放射能泉

 の九種類。

 形態は、

 露天風呂

 打たせ湯

 泡風呂

 大浴場

 ふかし湯

 オンドル浴

 岩盤浴

 外気浴

 水素風呂

 水風呂

 などなど。

 サウナもいくつかあるみたいです」

「全クリア目指しますよ璃月くん!」

「ふやけないかなぁ」

「ゴーです!」




「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」


 泡風呂に入って、二人してため息にも似た声を出す。


「はぁ~って言っちゃいますよね」

「落ち着きますよね……オレ、どっかで寝ちゃいそう」

「日頃の疲れが吹っ飛ぶ勢いですからそれもしようがないですね」


 とは言え入浴中に寝るのは普通に危険だ。

 だから。


「冷水でも浴びて目を覚ましましょう、璃月くん」

「ですね~」

「ああ、とろけていますよ」

「はっ」




「つめたァ!」


 水風呂のある場所に行って桶から水を頭に浴びる璃月。思ったよりも冷たくて、あっさり睡魔の撃退に成功した。


「心霊さん、頭からは浴びない方がい――あ、もう入ってる」

「はぁ……死にそうなほど寒いです」

「それヤバい状態では?」

「でもなんと言うか、身が引き締まりますよ。

 璃月くんも早くおいで」


 手招きされた。


「心霊さん、招き猫みたいです」


 本当は「招き猫みたいで可愛いです」と言いたい璃月だったが、恥ずかしいのでやめておいた。


「……では、いざ」


 まずは脚から浸かる璃月。ゆっくり腰まで浸かり、震え、肩まで浸かって心霊の横に並んで座る。


「よ、よくジッとしてられますね心霊さん」

「いやぁこう言うのって動くと逆に冷たさが増すモンですよ」

「めっちゃ震えていますが?」

「ふふ、そろそろ体の感覚がマヒして――」


 と、その時だった。


「――!」


 心霊が弱い耳鳴りを感じたのだ。

 この感覚は彼女の本来の役割であるデバイスとしてのモノ。バグが発生した時の音だ。


「…………」


 しかし場所が場所、ともにいるのは璃月。ここで騒ぐわけにも璃月を心配させるのも悪いだろうと心霊は平静を装った。装って、周囲を確認する。耳鳴りはバグが発生したのが地球の裏側でも鳴るのだが、彼女の感覚が『近い』と告げている。心霊が考えるに例のオバケの可能性が高い。

 高いが、まだ耳鳴りは弱い。バグチップへの第一歩にも満たない程度の歪みだろう。


「(とは言え放っておくなど出来ませんしね)」


 温泉を出たらきちんと確認に向かおう。と思ったところで耳鳴りが止んだ。どうやらひとまず落ち着いたらしい。

 だがそうなると【矢瞳(ポインター)】で様子を探ることも出来ないだろう。


「(さてどうしますか)」

「――さん、心霊さん」

「え?」

「震えが尋常じゃないんですが!」

「……オゥ」




「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」


 水風呂から出て、芯から体を温めようと岩盤浴へ。


「これは……癖になりそうです。お腹あったか」

「良かったです、心霊さん唇まで真っ青でしたから」

「おや、私の唇に興味がおありで?」

「~~~~~~またそう言う」

「ふふ、動揺する璃月くんが可愛すぎるのが悪いのです」


 可愛い、と言われると微妙だなと苦笑、璃月。


「オレはかっこ良くありたいんですけど」

「かっこ良くですか。探偵さんのようにビシッと謎を解いたり?」

「探偵……いえ。探偵は事件を解決出来ても防げないので。オレは犠牲を防いで誰かを守りたいです」


 出来るなら心霊を。


「そうですか。

 なら身も心も強くなくてはなりませんね。

 それに賢き人であるのも重要です。

 手に入れた情報の正否を確かめ、手段の善し悪しを判断出来る人であれ。

 間違った信念で振るわれる力は人を傷つけるだけですから。身も心もね」

「身も……心も」

「璃月くんは小学生時代から中学生卒業まで弓を習っていたんですよね?」

「ハイ」

「であるなら受け皿は出来ているはず。あとはお皿を埋める心と力を育てるだけです。

 力だけではなく心もですよ」

「……ハイ」

第13話、お読みいただきありがとうございます。

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