第12話「璃月くん、終電は二十二時でしたよね?」
いらっしゃいませ。
海底をゆっくりと歩き、白い扉を潜った。するとその先は大きな階段になっていて、どうやら上へと続くようだ。二人は顔を見合わせて上へと昇っていく。
「おや、まあ」
「なるほど、水族館と繋がっていたんですね」
先ほどまでとは打って変わって非常に暗い。水槽の中を見やすくするためだろう、ライトは必要最低限しか灯っていなかった。
ヘルメットを回収しているボックスがあったのでそこに入れて、二人はトンネルになっている水槽回廊を歩み始めた。
水槽の中を泳ぐのはクラゲ。種々様々なクラゲだけだ。
「あ、柱になにやら表示されています。どうもここまではオープニングアクトでここからがヘッドライナーみたいですよ。
絶滅種が楽しめるそうです。
……え? 絶滅種?」
絶滅した種をどうやって楽しむのだろう? と頭を傾ける心霊。
璃月にも分からないらしく二人疑問に思いながらぺたぺたと足音を立てつつ移動すると、なんと絶滅種がトンネル型水槽の中を悠然と泳いでいるではないか。
「え? え? どうして?」
「えっと、説明がガラスに表示されています。
ロボット……ロボットだそうです」
読みながら、璃月も驚きの表情だ。
「マジですか」
「マジです」
「ほぇ~本物と見分けがつきませんね。本物、見たことないんですけど」
旧来のロボットのように不自然な動きが全くない。なめらかに泳いでいる。
本当に生きているようで、なんらかの技術で蘇らせたモノだと言われると信じそうになるレベルの出来だ。
「素晴らしいです、遺伝子を弄らずに絶滅種をこんな形で皆さんに披露出来るなんて」
「人間すごいってやつですね」
「ハイ」
「あ、心霊さん。
ここから先は現代種を挟んで未来種の展示があるそうですよ」
「未来種⁉」
「それも展示の仕方が違うみたいです。行ってみましょう」
「ですね!」
水槽に壁があるわけではなかった。
トンネルになっている一つの大きな水槽の中で絶滅種はゆっくり姿を消して、璃月の言う通りに生きた魚たちを展示する現代種エリアを挟み、これから誕生すると予想されている進化した魚たちに全てが置き換わっていくようだ。
「現代種がエリアから出ないのは絶滅種と未来種エリアより住みやすくなるよう水質を微妙に変えているから、ですって心霊さん」
水槽にいるのはさっきまでいた海中プールでは飼育出来ない魚たち。
「サメまでいますが、小魚が食べられたりしないのでしょうか?」
「前にテレビでやっていました、常にエサでお腹いっぱいにしているから大丈夫なんだそうですよ」
「あ~そっかそっか。
心配が一つ消えました。ありがとう璃月くん」
「いえ、ホント観ただけなので」
「人はそうやって知識を蓄えていくんですよ。
璃月くんの立派な知識なのですから恐縮する必要はないのです」
「……そう言うモンですか?」
「そう言うモンです」
そっか、と安心顔。
二人は静かにトンネルを歩き続け、未来種エリアに足を踏み入れた。
「未来種ですが心霊さん、ロボットではないみたいです。
3Dホログラムだそうですよ。
オレたちが普段使用するモノよりもずっと精密な3Dホログラムのようです」
こちらもまた、本物と見分けがつかないレベルだ。
「絶滅種はロボット技術で、未来種は3Dホログラムで。
なるほど人の技術でも進化を表現しているのですね」
「ここまで出来るとなると水生の生物だけじゃなく陸地や空の生物も表現出来そうですね。
オレ、恐竜が動いているの見てみたいです」
「計画はスタートしているようですよ。
ほら、あそこ」
他の利用者の迷惑にならないよう歩みを進めながら心霊はある一点を指さした。三十メートルくらい先だろうか、柱に埋め込まれているデジタルサイネージになにやら表示されている。
「心霊さん、目・良いんですね……」
「五感には自信ありです。
えっとですね、ここではないですが若い子を欲している地方都市のどこか二か所に新しく陸と空の施設を造る、ですって。
一年後の開業を目指しているようです」
「一年後かぁ。学生には遠いです」
「お休みの日はサッと時間経つのにですね」
クスクスと笑いあう。
なんと幸福な時間だろう。これが続けば良いのに、そう思う璃月であったが、
「あ、もう夕方なのですね」
腕時計を見ながら、心霊。
無情にも楽しい時間はあっさりと流れてしまったみたいだ。
「璃月くん、終電は二十二時でしたよね?」
「え? あ、ハイ」
念のため棒状の携帯ガジェットを取り出し、起動、ホログラムウィンドウで終電の時刻を確認する。
確かに二十二時だ。
「では温泉とナイトプールも楽しんでから帰るとしましょうか」
「ハ、ハイ!」
「声おっき」
第12話、お読みいただきありがとうございます。
よろしければ評価お願いします。