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騎士団の団長の息子であるナサニエルとその婚約者であるルーシーは、見た目も性格も正反対のタイプだった。


ナサニエルは剣と馬と筋肉のことしか興味がなく、頭の中には脳みその代わりに筋肉が詰まっている。

見た目はイケメンだし、次期騎士団長候補の筆頭でもあるため女の子にはめちゃくちゃモテるけど、ドレスやアクセサリーで着飾って香水の匂いをぷんぷんさせながら自分に群がってくる女の子たちを小馬鹿にして毛嫌いしている。曰く、臭くて喧しいそうだ。


ところが、そんなナサニエルの婚約者であるルーシーは、まさにナサニエルの嫌いなタイプの女子ど真ん中のスイーツ女子だった。


お洒落が好きで恋バナも好きで流行りのものにも敏感で、ナサニエルにキャーキャー纏わりつくということをしない以外は、まんまナサニエルの嫌いなタイプだったのである。


「くだらない話とはどういう意味かしら?」


隣に座っているナサニエルを、ギロリと横目で睨みつけながらルーシーが言う。


「くだらない話はくだらない話だ。なんの役にも立たないあほみたいな甘ったるい話」


睨みつけられていることにまったく気がついていない様子で、ナサニエルは興味なさそうに答える。


脳筋のナサニエルは、人の気持ちにもちょっと疎い。

一方でルーシーは察してちゃんのところがあり、二人の相性は最悪なのである。


ちなみに、ナサニエルの攻略難度はサムやバリー先生よりは高めに設定されており、それに伴ってナサニエルとルーシーの仲を取り持つのも難度が高めになっている。


「それじゃあ、どんな話がくだらなくない話だと仰るのかしら!?」


「そりゃあ鍛錬の話とか馬術の話とか、実戦に役立つような内容だろうなー。スイーツ食って美味かったなんて話はクソの役にも立たない。いや、違うか。なんか食ってるだけクソの役には立つのかな」


そう言って、ナサニエルはげらげら笑った。


スイーツ食ってる最中に、そんな話するのはやめてほしい。ルーシー、真っ赤になってぷるぷる震えてるし、バリー先生はプリンアラモード食べる手が止まっちゃったし。


サムは、普通にチョコクッキー齧ってるけど。


ちらりとマデリーンに目をやると、彼女がナサニエルとルーシーの方に目配せしてあたしに頷いてみせた。


やっておしまい! とその目が物語っていた。


「女ってのは、ほんとくだらない物にしか興味がないから嫌んなるわ」


「えー、でもこないだルーの部屋に遊びにいった時に、本棚に『世界の宝剣』ってタイトルの本があったの見たよー」


あたしは、マデリーンに頷き返すと、場を読まない呑気な様子を装って、乙女の秘密を暴露する。


「ちょっとフィー、なんでそんなところ見てるのよ」


「え? お前、宝剣とか興味あんの? ってか、お前フィーを家に呼ぶほど付き合いあんの?」


あたしのひとことに、焦り出す二人。


「宝剣は、貴金属として美しいからちょっと興味があっただけですわ。フィーとは、しばらく前から親しくしております。親友ですわ」


「…まじかよ」


ルーシーの返答に思わず青褪めるナサニエル。

そりゃ、浮気相手(予定)が婚約者の親友なんて、気まずいにも程があるよねー。


なので、あたしはさりげに追い討ちをかけておいた。


「ルー、フィーって呼び合うくらい仲良しなんだよねー。そう言えば、ルーの本棚には『トンファー入門』って本もあったよー」


「え、なにそれマニアック」


思わず声を上げるマイケルと満足そうに頷くマデリーン。


「意外な本を読まれますのね」


「ご、護身術の参考に手に入れただけですわ! わたくし、武器にも武術にも興味なんてありませんもの!」


真っ赤になって否定するルーシーだけど、ほんとはナサニエルとの会話の糸口にするために、そんな本を購入したことをあたしは知っている。そして、家の人が寝静まったあとに、毎晩本を見ながらトンファーを振り回していることも。


かわいい、かわいいよルーシー。脳筋ナサニエルなんかにやるのはもったいないくらいかわいいよ。


「あー、確かに武器の本と武術の本は一冊ずつだったねー」


「そ、そうでしょう」


あたしの言葉を援護射撃だと思ったのか少し持ち直したルーシーに、あたしは笑顔でトドメを刺す。


「あとは、ぜーーーーーーんぶ馬の本だった」


そう、ルーシーは隠しているけれど重度の馬オタだったのだ。


「馬の本?」


私の言葉に、これまた持ち直したらしいナサニエルが反応する。


「うちのエリザベスが出産することになったので、少し気になって調べていただけですわ! たまたまですわ! たまたま!」


「エリザベスって、婚約の時にうちから贈ったあの芦毛の?」


「そう、わたくしは彼女と共に馬術の練習をしましたから。出産のときにも立ち会ってあげたいと思いまして」


婚約が整った時にナサニエルの家から贈られた馬を、ルーシーはそれはそれは大切にしていた。最初は、ナサニエルに気に入られたい一心で始めた乗馬だったけど、一緒に乗馬の練習をするうちにエリザベスはルーシーのかけがえのないパートナーになったのだ。


ただ、そのことをルーシーはナサニエルに伝えていない。っていうか、殆どの人に内緒にしている。


社交会の花と呼ばれた伯爵令嬢が、毎日馬小屋の掃除を自らして馬糞に塗れているなんて、他人に知られたくないと強固に思っているからだ。


庶民のあたしからすれば全然素敵な女子に見えるんだけど、お貴族さまにはそうではないらしい。そんなの馬丁の仕事で間違っても伯爵令嬢のやることじゃないし。


だけど、ルーシーは重度の馬オタ。本当は、誰かと思いっきり馬トークを楽しみたいと密かに思っていたのだ。


「でも、馬の出産は深夜だろう? お前みたいなお嬢ちゃんにはちょっとキツいんじゃないの?」


「エリザベスはわたくしのパートナーなのよ! お産に立ち会うのは当然です!」


「お、おぉ、そうかよ」


キッとナサニエルを睨みつけて反論したルーシーに、思わずたじたじになるナサニエル。さすがの鈍ちんでも、触れてはいけないところに触れたのに気がついたらしい。


「お産は順調でしたの?」


やんわりと水を向けたマデリーンに、馬トークを楽しみたかったルーシーの欲求はついに爆発した。

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