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内緒話みたくあたしに耳うちしてきたけど、ギリギリ周りに聞こえる声量だった。


だって、周りが一瞬固まったもの!


でもそれは本当に一瞬のこと。


「そう言えば、来月開催される夜会に着ていくドレスはどのようなものをご用意されたの?」なんて、ナサニエルの婚約者のルーシーがディエゴの婚約者のヴェロニカに話しかけてキャッキャウフフしながらドレストークを始めたからよ。


まぁ、男性陣は挙動不審なままだったけどさ。


なんでもないフリをしながら、こっちの様子を観察してるのがみえみえ。

そりゃ知りたいよねー、あたしの本命。



「身分や立場を鑑みれば、お相手として最適なのはサムさまでしょうね。サムさまにはご婚約者はいらっしゃいませんし、お互いに一般家庭のご出身ですから爵位や家格など気にする必要ございませんもの」


マデリーンの言葉に、サムが小さくサムズアップするのが見えた。


たしかにサムは貴族じゃないけど、めっちゃ大きな商会の息子でその辺の貴族なんかよりお金持ちなんだよね。そのサムをあっさり『一般家庭のご出身』とか言っちゃえるマデリーンは、さすが悪役令嬢って感じ。


爵位はないけど家格だけ見るなら、うちとサムんちは絶対に釣り合わないと思う。あたしんち母子家庭だしさ。


だいたい、あたしはサムとの結婚エンドは望んでない。


サムには婚約者はいないけれど、カーラという幼なじみがいるんだよね。カーラは大人しくて引っ込み思案で、本が好きな地味目の女の子。快活なサムに憧れて憧れて、何年も片想いしてるのよ。


そして、むかしのあたしはずばりカーラタイプの地味女子だった。サムルートをクリアしているときは、主人公よりカーラに共感しちゃって、主人公とサムが結ばれてカーラが気持ちを抑えながらもおめでとうって笑顔で言ってくれた時は泣けて泣けて。


自分までカーラと一緒に失恋した気持ちになっちゃったのよ。まぁ、誰のせいってあたしのせいなんだけど。


そんなわけだから、サムと恋愛なんて無理。絶対無理。かわいいカーラを悲しませるなんて、あたしには絶対できないわ。


「やだなー、サムとは良い友達ですよー。結婚なんてないない」


あたしは、マデリーンを見習って内緒話に見せかけて周りにギリギリ聞こえるくらいの声量で言ってやった。


サムにもバッチリ聞こえたらしく、それを聞くなりガックリと肩を落としてうなだれてしまった。


ごめんね、サム。傷つけるつもりはなかったの。でも、あなたにはどうしてもカーラと幸せになって欲しいのよ!


「そう言えばサム、あたし最近カーラ=エバンスと仲良いんだけど、サムとは幼なじみなんだってね」


隣に座っているナサニエルに背中を叩かれながら、サムは不機嫌そうな目をこちらに向ける。


「ん? あぁ、そうだけど。フィー、カーラと仲良いの?」


「お互い猫が好きだから猫トークで盛り上がっちゃって」


「へぇ、あいつ大人しくて引っ込み思案だから、あんまり友達とかいないんだよ。仲良くできるやつができて良かった」


なんだかんだで、サムったらカーラのお兄ちゃん気分なのよねー。でも、恋心ってちょっとしたきっかけで火がつくものなのよ。


そして、ラブマジをやり尽くしたあたしに隙はないわ! 見てなさいサム!


「そうなの、めっちゃ仲良しなんだー。最近は、恋バナとかもするんだよ」


あたしの発言に、サムは持っていたフォークをガチャリとテーブルの上に落とした。


「え? なに? 恋バナ? カーラと?」


ふふふ、動揺してる動揺してる。かわいい妹だと思っていた相手に、いつの間にやら男の影!

あたしの相手じゃなくて、カーラの相手を気にするあたり、勝機は我に有りよ!!


「そうなのー。好きな相手は恥ずかしがって教えてくれないんだけどさー、好きな人にもらったって宝物、見せてもらっちゃった」


「プレゼントまでもらう仲になってる男がいるの!? あいつに!?」


めっちゃ動揺してるめっちゃ動揺してる。おかしいったらありゃしない。

さぁ、サム。覚悟はいい?

トドメの攻撃を食らいなさい!


「うん、貝殻でできたオルゴール。好きな人が旅行のお土産でくれたんだって」


「貝殻の……オルゴール……」


「白い貝殻でできていてね、貝殻を開けるとマーメイドワルツが流れるんだ」


「白い……マーメイド……そう、そうなんだ」


そう、あなたが5年前に母方のおばあちゃんち遊びに行った時に、港のお土産屋さんで見つけたオルゴールだよ。『これ、絶対カーラが好きなやつだと思って』って渡したオルゴールだよ。覚えてるよね?

カーラ、ずーっとずーっと大切に持ってるんだよ。


サムの顔が薄らと赤くなった。


「そ、そうか。あいつ、ずっと持って……。そっか、カーラが。そっかぁ」


そう言うと、サムはしばらく俯いていたけど、いきなりフォークを手に持つと目の前のモンブランをものすごい勢いで食べ始めた。


でも、あたしの目は誤魔化せない。顔めっちゃにやけてますよー!!

真っ赤っかですよー!!


全然気がついてなかった幼なじみの恋心に、気がついちゃったらもう妹としては見られないよね。

あとは、若い二人に任せて物陰から甘酸っぱい初恋を見守らせてもらうわ。

あぁ、カーラからサムと両想いになったって報告もらうのが待ちきれない。


あたしは、机の影で小さくサムズアップしたのだった。



ふと顔を上げると、相変わらずにこやかに微笑んでいるマデリーンと目が合った。あれ? いま、小さくサムズアップして見せたのは気のせい?


そう疑問に思ったのも束の間、マデリーンはあたしの方にそっと身を寄せると、またもや耳打ちしてきた。


「そう言えば、バリー先生にもご婚約者はいらっしゃらないのよね」

マーメイドワルツは異世界のワルツなので、こちらの世界には存在しません。

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