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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私、弟を守る天敵になりました

作者: 七乃ハフト

 私が今いるのは(ゴウ)の家だ。

 弟はまだ帰ってきていないので、彼の住む部屋は墨汁のような闇には包まれていた。

 玄関の鍵が解錠され、ドアが開く。

 帰ってきたわね。

「あっちー」

 帰ってきた剛はコンビニに寄ったのか、商品が入ったレジ袋をテーブルに置いた。

 また有料の袋。早くマイバッグ買いなさいって言ってるのに!

 剛は私の文句を無視してマスクを外すと、冷蔵庫を開けて水を飲む。

 暑いから喉乾くのも分かるけれど、その前に手を洗いなさいよ!

 声が届いたのか、剛がこちらを振り返る。

 マズい。

 私はすぐさま物陰に隠れた。

 見られたら最後、最悪殺されてしまう。

 以前、体に慣れていない時に視線が交わる事があったの。

 驚愕の表情をした剛が、姉の私に何したと思う?

 アイツ。読んでいた雑誌を投げつけてきたのよ。

 最期に見たのは、私に似たアイドルの表紙だったわ。

 痛いと思う間も無く、私の意識は再び天に召された。

 一刻も早く戻るために同じ体で戻ってみたら、私に投げた雑誌をフリマアプリで購入してた。

 そんなにお気に入りなら投げるんじゃないわよ!

 剛が風呂に入っている間、私は自分の仕事をする。

 私の主な仕事は家に不法侵入してくる侵入者を撃退する事。

 茶色い侵入者の移動ルートを把握して、待ち伏せしていると、案の定ターゲットが現れた。

 奴は足が速いがまだこちらに気付いていない。

 一瞬のチャンスに賭ける。

 私の目の前を通った侵入者が気付く前に二つの足を動かして捕まえる。

 そのままひっくり返すと柔らかな急所に噛みつく。

 もがいていた侵入者は動かなくなった。

 私はその大きな体に噛みついたまま溶かした中身を急いで啜る。

 どうしても早食いになってしまうのは、剛に気づかれない為だ。

 姉がこんなことしてるなんて知ったら、泣き虫弱虫な彼の事だから卒倒、最悪心臓発作で死んでしまう。

 食事を終えると、私の毛髪が風呂場の扉が開いた音を捉える。

 一息つくまもなく、私は姿を消した。

 風呂から出た剛は冷えたビールを飲みながら、写真立てに話しかける。

「姉さん。毎日辛いよ。勉強も難しいし、流行についていけないし、友達みんな恋人いるのに僕だけいないし。バイトでは怒られてばかりだし」

 それはあんたがしっかりしてないからでしょ。

「いつのまにか家には虫が入り込むしさ。都会の方がいないんじゃないのかよ」

 あんたが害虫対策してないからいけないの。

「でも、一番辛いのは……姉さんが死んじゃった事だよ」

 思い出す。

 上京したばかりの剛が心配で家に向かっていた。

 事前に連絡しないでびっくりさせてやろう。

 どんな顔するかと想像していたから、周りに注意を払ってなかったのがいけなかったのだ。

 気づくと私は道路に倒れていた。

 わずかに動く左眼が捉えたのは赤く染まってへこんだトラック。

 死んだ私はどうしても剛が心配で早く新しい体が欲しかった。

 それで手に入れたのが、今の体。

 既に一度潰されたから二代目だけど。

「姉さん。聞いてるかな。最近同じ虫ばかり目撃するんだ。大きな蜘蛛でさ。脚を拡げたらCDくらいにデカい蜘蛛なんだよ」

 相変わらず剛は写真の私に話しかけている。もう酔っ払っているのか顔は赤く、子供みたいに鼻水まで垂らしていた。

 こんな弟を私は放っておけない。

 だから彼がちゃんと独り立ちできるまで、私は今の体で見守るつもりだ。

 こんな体でも五年から七年は生きられるから。

 それまでにいい人見つけなさいよ。

 剛の丸くなった背中に語りかけていると、私の毛髪が敵の接近を告げる。

 おっと侵入者(ごちそう)発見!


―おわり―

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