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ある執事の仕事は完璧です。  作者: ナナさん
ある執事はいつも通りの仕事をする。
1/2

ある執事は朝支度をする。


「ああ、・・・も・・はか・・・な。」


声が聞こえる。


「なに・・・るのよ、わたしたち・・・・よ。かわ・・・・いわけな・・・ない。」


男女の声だ。


「・・と、・・だな。お・・・・・が・・いくな・・・ないか。」


「そう・、こ・・しゅう・・・じつよ。」


よく聞こえない。


「それに・・は・・・を・・いる。きっとい・・・うしに・・ぞ。」


「ざん・・だけど・・はわたしの・・・・・を・・のよ。この・・・きっとわか・・・れるわ。」


しかし何故だろう?


「いいや、・・・・だな。おれ・・なんだ、はでな・・・・・にあこ・・るさ。」


「それは・・・にもい・・・とよ。きっと・・・はわたしとおな・・・・ねが・・・・はいってくる・・・・がわす・・・ない・・だわ。」


この声は私を暖かくしてくれる。


「・・まえに・・・とうり・・・・だな、・・・。」


「ふふ、・・・いわよ、・・。」


暖かい毛布に包まっているみたい。


「しかし・・・・たらおれ・・・・・のみちに・・かもな。」


「・・・・・でき・・わね。あなたの・・・・・・を・・・・でなければ・・・だけど。」


ずっとこのままでいたいと思ってしまう。


「それ・・・・ないな!ははは!」


「ほめて・・・・、まったく・・・・・。」


しかし何だろう。


「・・・たち・・・たを・・・・にするわ、たとえ・・・・・があった・・・も。」


「ああ、おれ・・・どんな・・・・・でもふん・・・・やる。」


この感覚どこか・・


「だから・・・・に・・・てね、・・。」


「・・えは・・たちの・・・だ、・・。」


懐か・・しい?

その疑問と共に私は意識を手放した。












意識が覚醒していく。


「んっ・・ん・・」


カチッカチッと壁掛け時計の針が動く音が聞こえる中、目を開くとそこには見慣れた自室の天井が暗く映っている。


「今のは・・夢?あれは一体?」


身体を起こし、先程見た夢を思い返します。

よく聞き取れなかった男女の声、もうすぐ寝てしまうかのような虚ろ虚ろな意識、毛布に包まれ抱き寄せられている感覚。

まるで自分が赤ん坊になったような不可思議な出来事・・しかし何故かあの夢に後ろ髪が引かれる思いになってしまい、またあの夢を見たいと考えています。


「・・嘆かわしい。私は執事としてアーティ様に仕える事が私の望み、よくわかりもしない夢に縋るなど・・やはり先生のようになるのはまだまだ先、ですね。」


ベットから降りて、机の上に置いた懐中時計を手に取ります。

この懐中時計は先生が執事と認めていただいた時に先生がお使いになっていたこの時計を記念品として頂戴した品です。

私はその懐中時計を強く握ります。


「私はこの懐中時計を持つに相応しい執事にならなくてはなりません。ですからこれからも研鑽を続けて行かなくては・・その為にも今日の仕事を完璧にこなしましょう。」


もう一度決意を胸にして、起床時刻である5時30分を指した懐中時計を首にかけ、朝支度を始めます。

私はカルミナ、憧れである先生のような執事になる為に研鑽を続けるアーティ商会の執事です。






時間が経過し、時刻は5時50分。

身支度を済ませた私は朝食を取る為に部屋を出て、薄暗い廊下を歩き、現在は待ち合わせ場所である階段の前に着いたところです。

懐中時計をしまい、時間まで待とうとした時、少し遠くからコツコツと歩く音が聞こえます。

そちらに顔を向けると


「カルミナさん。」


少し離れた場所から綺麗な金髪でエメラルドグリーンの瞳を持つメイドが私の名を呼び、こちらに近づきます。


「おはようございます、カルミナさん。すみません、待たせましたか?」


「おはようございます。いえ、私も先程来たばかりですよ、エレシアさん。今日も一日よろしくお願いします。」


「はい、此方こそお願いします。」


彼女はエレシアさん、ご主人様のメイド達を束ねるメイド長であり、ご主人様の最初の従者です。

彼女とはご主人様の下積み時代に2人でご主人様を支え続けてきた長い付き合いで、最も親しい友人となっています。


「では行きましょうか。」


「はい。」


そして朝にはこうして5時50分から6時の間で待ち合わせをして、一緒に雑談をしながら、食堂に向かいます。


「エレシアさん、今月の初めに配属となった彼女達は如何ですか?真面目に仕事をこなしているみたいなので、大丈夫だと思いますが。」


「そうですね。彼女達はまだ半ヶ月と短い期間ですが、本人達の頑張りもあって、業務はしっかり出来ています。このままいけば一人前になるのもそう遠くないかもしれません。」


「それは良かった。良い新人に恵まれた様で何よりです。彼女達のこれからの成長を期待しますよ。」


「ふふ、ありがとうございます。カルミナさんの方も今回こそ狩猟部の新人が来ると良いですね。今回の応募者は過去最多という事ですし。」


「はい、今までの平均は3チーム辺りなのに対して、今回はなんと10チーム、狩猟部の皆さんの事もありますし、今回で手に入れたいところです。」


「4年連続ですからね。昨年のあの落ち込みようから見るに、5年連続で来なければ大変な事になりそうですよ。」


「ですから今日行う試験でどのチームかは乗り越えてくれる事を祈ってますよ。ちなみに私の中での最有力候補はこのチームです。」


懐から手帳を取り出し、あるページを開いてエレシアさんに渡します。

彼女は手帳を受け取り、大まかに確認します。


「A級冒険者チーム「ブレイブ」ですか・・・・・・さらっと見ましたが、中々に異質な経歴ですね、これは。」


「はい、彼らは今回のどのチームよりも多くの逆境を体験し、それ乗り越えてきています。ですので私の試験でもその経験を如何なく発揮してもらいたいと思っています。」

 

そう言って、私はアーティ商会の信条を頭に浮かべます。


「諦めない、この信条の通り動けば私の試験などある一定の技量があれば、乗り越えられます。エレシアさんならわかりますよね?」


「勿論です。アーティ商会のメイドとして、そしてカルミナさんの手解きを受けた身として。」


私の問いにエレシアさんは笑みを浮かべ、当然と言わんばかりに肯定をして、手帳を私に返します。

さて、今回は諦めの悪い人は出てきてくれるでしょうか?

少しの期待を胸にエレシアさんと共に食堂へと続く廊下を歩き続けます。






それからエレシアさんと雑談をして、おおよそ10分、私達は現在


「着きましたね。」


「はい。」


食堂の扉の前にいます。


「さて、今日の朝食は何でしょう?」


朝食当番のメイドが作っているであろう朝食のメニューを考えながら、ドアノブを回し、扉を開けます。


「ぷぎゅっ!?」


それと同時に潰れた声が聞こえ、スープが入っているであろう大きな鍋が此方に飛んできます。

このままだとスープが床にぶちまけてしまうので、すぐに飛んできた鍋をキャッチし、前方にいる鍋を放り投げ、倒れ伏している赤髪のメイドに近づきます。

するとムクッと起き上がり、おでこをさすり始めました。


「いったー、顔面から思いっきりいっちゃったよ・・・あっ!!鍋は!!」


「おはようございます、ミアさん。盛大に転んだようですが大丈夫ですか?鍋ならここにありますよ。」


鍋を必死で探している彼女の前に立ち、鍋を目の前に置きます。

彼女はミアさん。

この屋敷に来て、まだ一年目のメイドで、少しドジな部分があり、先程の様にミスをしてしまいますが、とても活発で仕事熱心な娘です。


「え?・・あっ!カルミナさん、おはようございます!鍋取ってくれたんですね!良かった・・ありがとうございます!」


「どういたしまして、次からは気をつけてください。それで怪我の方は?おでこが真っ赤になっていますよ。」


「これですか?メイド長のお叱りに比べたら全然大した事ないので大丈夫ですよ。はぁ〜、メイド長がいなくて助かった〜。」


・・ミアさん、もっと周りを見てから発言してください。


「はぁ・・本当に次からは気をつけてくださいね。」


「はい、気をつけます!」


「そうですよ、ミアさん。危うくスープが台無しになるところでした。」


「はは、すみませ・・・え?メイド長・・」


先程から私の後ろで圧のある笑みを浮かべているエレシアさんに気づいたミアさんはガタガタと震え、顔はどんどんと青くなっていきます。


「あ、あの・・これは」


「私は食堂に入って来た人に鍋を投げるなんて教えた覚えは無いのですが?それとも私の記憶違いで私はあなたにそんな事を教えていたのですか?どうなのでしょう、ミアさん?」


「・・・」


追い討ちとばかりに責め立てるエレシアさん。

その所為で、ミアさんの顔が真っ青を通り越して、真っ白になってしまい、この世の終わりの様な表情を浮かべています。


「・・す・・・」


す?


「すみませんでした!!」


ドシン!と床にヒビが割れるのではないかと思う程に額を床に叩きつけ、ミアさんは土下座をします。


「ふふ・・」


それを圧のある笑みで返すエレシアさん。

重い空気が漂います。


「ちょっと〜、まだスープ置けて・・あら?」


「ミア遅・・カルミナさんにメイド長。」


そんな中、キッチンの方から緑髪と青髪のメイド2人が顔を出しました。

どうやらミアさんの帰りが遅いのか、様子を見に来たようです。

そして土下座をするミアさんを見た2人は状況を察したのか、頭を抱えます。


「えっと、これは・・」


「ミアがやらかした?」


「ネナさん、シホさん、ちょっとこっちに来てください。」


「「は、はい!」」


突然エレシアさんの圧のある声で呼び出され、ビクッと肩を震わせた2人は私達の元まで足早に来ます。

緑髪のメイドはネナさんで、青髪のメイドはシホさん。

ミアさんと同期で、どちらも趣味が入り込まなければ、良識のある真面目な娘達です。


「おはようございます、カルミナさん、メイド長。あの・・ミアがまた何かやってしまいましたか?」


「おはようございます・・」


2人は挨拶をして、ネナさんがエレシアさんに恐る恐る訪ねます。


「はい、ネナさんのミアさんが持っていたスープの鍋を転んで放り投げてしまったのです。危うくスープが台無しになるところでした。」


「ミア・・」


「面目ありません。」


シホさんの少し呆れた声に土下座の状態のまま謝罪するミアさんにエレシアさんは溜息を零します。


「そういう事です。ミアさん、後で説教を行うので、業務終了次第、すぐに夕食を食べて、私の部屋に来てください、良いですね?」


「はい・・わかりました。」


「ネナさんとシホさんも今回の事を自分の事と思い、気をつけてくださいね。」


「「わかりました。」」


「よろしい、では朝食当番に戻ってください。」


その言葉に3人は各自自身がやっていた仕事に戻っていき、エレシアさんはそれを確認すると、私の方に振り返り、頭を下げます。


「朝からミアさんすみません。今夜きつく言っておきますので、それで許してもらえませんか?」


「頭を上げてください、エレシアさん。別に気にしていないので大丈夫ですよ。寧ろ私達が来ている時にやらかしてくれてホッとしていますよ。お陰で朝食が一品無駄にならなくて済みました。」


そう言うとエレシアさんは頭を上げ、お気遣いありがとうございます、と言った後、疲れた顔をして、溜息を漏らします。


「最近は無くなってきたので、大丈夫かと思えば・・全く、もう一年になるのですからどうにかしてほしいものですよ。」


「あまり焦ってはいけませんよ、エレシアさん。ミアさんのあれは体質の様なものですから、簡単には治りません。ですので、ああいったものは少しずつ治していく必要があります。」


「ですが・・」


「心配しなくても最近までドジは無くなっていたのでしょう?だったら本人も努力して頑張って


ガシャーン!!


「「・・・」」


少し遠くのスープ置き場から重い金属が落ちる音が響きました。


「ふ、ふふ・・カルミナさん、少し行ってきますね。」


「は、はい。」


先程よりも更に圧のかかった笑みを浮かべたエレシアさんは音の方へと向かっていきました。

折角擁護しようとしたのですが・・ミアさん。

その後、私も音の方へと向かってみるとスープがぶちまけられている床の横で土下座をしているミアさんと周囲に重圧を生みながら静かに叱っているエレシアさんとそれを震えながら覗いているネナさんとシホさんがいて、それを見た私は今度、蓋を固定出来る鍋を作ろうと考えました。





あれから時間が経過し、6時55分。

私とエレシアさんが代わりのスープを作り、朝食を取って、6時40分にご主人様を起こすエレシアさんと別れた後、自室に戻って、歯を磨き、現在は朝7時のミーティングの為、ご主人様の部屋まで向かっています。

私とご主人様とエレシアさんの3人で今日のスケジュール確認をする、これが毎朝の日課で私達がまだ無名の時から行っている事です。


「思えば、もう15年ですか。この屋敷もそうですが・・大きくなったものです。ここまでくるのには苦労しましたが、とても充実した日々でしたね。」


初めは無名という事もあり、商売は失敗の連続、その度に反省会を日が登るまで行い、挑戦し続けるという忙しい日々。

そして成功した時は3人で宴会を行って、どんちゃん騒ぎ・・その度にお酒が弱いご主人様の介抱をしなければなりませんが。


「とっ・・着きましたね。」


昔の事を思い返していると、ご主人様の部屋の前までたどり着きました。

扉の前に立ち、ドアを3回ノックしてから、


「ご主人様、カルミナです。」


扉の向こうにいるご主人様を呼びます。


「カルミナね、入って良いわよ。」


すると向こうからご主人様が聞こえ、入室の許可をいただきましたので、失礼しますと言った後、扉を開けます。

中に入るとそこには黄金の長い髪と黒い瞳を持った女性がおり、隣にいるエレシアさんが入れたであろう紅茶の入ったティーカップを持って、椅子に座っています。

この御方が私達のご主人様、アーティ・セルエス様です。

さて、今日もご主人様の為、お仕事を始めましょう。

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